プレスリリース
(研究成果)温暖地向け豆乳用大豆品種「すみさやか」

- 青臭みやえぐ味の少ない豆乳 -

情報公開日:2021年9月21日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、温暖地向け豆乳用大豆品種「すみさやか」を育成しました。子実中の青臭みの原因となる酵素であるリポキシゲナーゼ1)およびえぐ味の原因とされるグループAアセチルサポニン2)を欠失しており、本品種を原料とした豆乳は青臭みやえぐ味が少なく、すっきりした味わいです。成熟期、草姿、収量および品質等の特性は豆腐用の主力品種である「フクユタカ」に類似しています。

概要

農研機構西日本農業研究センターで育成した「すみさやか」は、関東以西の栽培に適し、豆乳原料に向く大豆品種です。

「すみさやか」は、子実中の青臭みの原因となる酵素リポキシゲナーゼおよびえぐ味の原因とされるグループAアセチルサポニンを欠失しています。そのため「すみやさか」を原料とした豆乳は青臭みやえぐ味が少なく、すっきりした味わいです。

「すみさやか」の成熟期や栽培適地、茎の長さ、子実重、子実の品質等の特性は「フクユタカ」と類似していますが、子実の臍(へそ)の色は「すみさやか」の"黄"に対して「フクユタカ」は"淡褐"と異なっていて、子実の外観で識別できます。

滋賀県で契約栽培が行われており、生産物は豆乳原料として利用されます。当面の普及見込み面積は数百ヘクタールで、今後さらに作付面積の拡大が期待されます。

関連情報

予算:運営費交付金
品種登録出願番号:第34557号(令和2年3月12日出願、令和2年6月29日出願公表)
特許:特許第3567156号


詳細情報

開発の社会的背景

食用大豆の需要量は100万トン程度で推移しています。このうち豆乳用の需要量は約6 %ですが、近年の消費者の健康志向の高まりや技術改良による品質向上を受け、2020年の豆乳等生産量は1990年の約15倍となる43万 kLに増え、今後も増加傾向が続くと見込まれており、豆乳用国産大豆の安定供給が求められています。

研究の経緯

農研機構が育成した寒冷地向け豆乳用品種「きぬさやか」は子実中の青臭みの原因となる酵素リポキシゲナーゼおよびえぐ味の原因とされるグループ Aアセチルサポニンの両方を欠失し、豆乳加工適性に優れ、実需者から増産および安定供給が要望されていますが、「きぬさやか」の栽培特性から寒冷地以外の産地を確保することが困難であるため、温暖地での栽培が可能な新品種の開発が求められていました。

そこで農研機構では、温暖地における栽培に適し、「きぬさやか」と同等の子実成分特性および豆乳加工適性を有する品種の育成を図ってきました。

新品種「すみさやか」の特徴

来歴

「すみさやか」は、豆腐用主要品種「フクユタカ」を母、「フクユタカ」にグループAアセチルサポニン欠失を導入した戻し交雑系統3)とリポキシゲナーゼ全欠の「エルスター」を交配し得られたF1個体を父とする人工交配から系統を選抜して育成しました(図1)。

主な特徴

  1. 大豆の青臭みの原因となる3種類のリポキシゲナーゼ(L-1、L-2、L-3)の全てを欠失しています。また、えぐ味の原因とされるグループ Aアセチルサポニン(Ab型)を蓄積せず、代わりに非アセチルサポニン(A0型)を蓄積します(図2、図3)。
  2. 製造した豆乳のBrix値4)や大豆固形分5)は同じ成分特性を有する「きぬさやか」よりやや高く、官能評価では全ての項目で「きぬさやか」と同等以上で、豆乳加工に好適です(表1)。
  3. 近畿中国四国地域における成熟期は"晩生"で、「フクユタカ」と同等です(表2)。
  4. 茎の長さは「フクユタカ」とほぼ同じで、「サチユタカ」より長いです(表2、図4)。
  5. 子実重は「フクユタカ」と同程度で、「サチユタカ」より多収です(表2)。
  6. 百粒重は「フクユタカ」「サチユタカ」より軽く、粒がやや小さいです(表2、図5)。
  7. 子実の粗タンパク含有率6)が6月播で「フクユタカ」よりやや低いが、7月播では同程度であり、「サチユタカ」より2~3%低いです(表2)。
  8. 子実の品質および裂皮等の障害粒の程度は「フクユタカ」とほぼ同じです(表2)。
  9. 子実の臍(へそ)の色は「サチユタカ」と同じ"黄"で、「フクユタカ」の"淡褐"と異なり、「すみさやか」と「フクユタカ」は子実の外観で識別可能です(表2、図5)。

栽培上の留意点

  1. 栽培は関東以西の「フクユタカ」栽培地域に適しています。
  2. リポキシゲナーゼ欠失等の成分特性の劣化を防止するため、栽培・収穫・調製時に異品種が混入しないように純度管理を徹底してください。
  3. 裂莢7)しやすいのでコンバイン収穫が可能な水準に茎水分が低下したら早めに刈り取ってください。

品種の名前の由来

青臭み、えぐ味のない澄んだ味の豆乳を製造できる大豆品種であることを表しています。

今後の予定・期待

2020年から滋賀県で契約栽培が開始され、豆乳原料として利用されます。当面の普及見込み面積は数百ヘクタールで、今後さらに作付面積の拡大が期待されます。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

農研機構西日本農業研究センター 研究推進部研究推進室知的財産チーム
TEL 084-923-4107 FAX 084-923-5215

利用許諾契約に関するお問い合わせ

下記のメールフォームでお問い合わせください。
農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】
https://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/research

なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】
https://www.naro.go.jp/collab/breed/breed_exploit/index.html

用語の解説

1)リポキシゲナーゼ:
大豆の子実に含まれる酸化酵素の一つで、3種類(L-1、L-2、L-3)あります。これらがリノール酸等の不飽和脂肪酸を酸化して、青臭みの原因物質を発生させます。リポキシゲナーゼを全て欠失させることで、青臭みの原因を元から絶つことができます。農研機構では、これまでにリポキシゲナーゼ全欠失品種「いちひめ」、「エルスター」、「すずさやか」、「きぬさやか」、「くろさやか」、「こがねさやか」を育成しました。

2)グループAアセチルサポニン:
サポニンは植物に広く含まれる配糖体成分です。大豆では主要なサポニンとして3つのグループ(A、B、E)があります。グループAサポニンのうちグループAアセチルサポニンは強いえぐ味を呈します。農研機構では多数の在来品種を調査した結果、グループAアセチルサポニンを欠失した変異体(A0型)を見つけました。「きぬさやか」は、この変異体よりグループAアセチルサポニン欠失性を導入した初めての品種で、「すみさやか」は2番目になります。

3)戻し交雑系統:
品種の一部形質のみを改良し、その他の形質は原品種と変わらないようにするために、原品種に繰り返し交配を行い、その都度改良したい形質に着目して選抜を行います。このような育種操作により育成した系統の呼称です。

4)Brix値:
溶液を屈折計で測定した目盛の値で、豆乳では豆乳中の可溶性固形分の濃度を表します。

5)大豆固形分:
大豆製品から水分を取り除いて残る大豆成分の量のことです。

6)粗タンパク含有率:
大豆種子に含まれるタンパク質、アミノ酸、アンモニア等を酸化分解してアンモニウムイオンに変換し、定量した窒素量に窒素蛋白換算係数を乗じて算出します。粗タンパク含有率が高くなると、豆腐が固まりやすく、歩留まりも上がります。

7)裂莢:
成熟した莢が時間の経過とともに、莢が割れる現象のこと。莢内の種子が外に飛び出すので、収穫ロスの原因になります。特に成熟後に高温乾燥状態が続くと裂莢が多くなります。

参考図

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