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天敵でアブラムシ退治

アブラムシは農作物の新芽や葉に寄生して汁を吸う害虫です。凄まじい繁殖力で数を増やしながら群で農作物の栄養を奪ったり、植物ウイルスを媒介したりして深刻な被害を与えます。一方、自然界に天敵も多く、化学農薬を減らす方法や殺虫剤抵抗性アブラムシへの対策として、生物的防除法が実施されています。今回は、農研機構が開発した天敵を利用したアブラムシ防除法を2つ紹介します。

バンカー法でアブラムシを「待ち伏せ」

バンカーとは「天敵銀行」という意味です。アブラムシの天敵が継続的に住める餌や場所を用意し、天敵の力でアブラムシを防除する技術です。農研機構はナス、ピーマン、イチゴ等の施設園芸で活用できる方法を開発し、生産現場での活用が始まっています。


写真のイチゴハウス中で、イチゴの右に植わっている麦がバンカー(天敵銀行)

こ の方法では、施設内の一部に麦類を植え、「ムギクビレアブラムシ」を放飼します。このアブラムシは麦類を餌にして増殖しますが、ナスやピーマンは食害しない種類です。次に天敵の「コレマンアブラバチ」を放飼します。このハチは「ムギクビレアブラムシ」を餌にして増殖できます。すなわち、麦類と「ムギクビレアブ ラムシ」は施設内に「コレマンアブラバチ」が住めるための仕掛けです。なお、「ムギクビレアブラムシ」と「コレマンアブラバチ」はいずれも製品化され市販されています。


このような準備が出来た施設に、ナスやピーマンに重大な被害を与えるモモアカアブラムシやワタアブラムシが侵入すると、そこに住んでいる天敵の「コレマンアブラバチ」がすぐに攻撃をしかけます。このハチはこれらのアブラムシに卵を産みつけます。寄生されたアブラムシはマミー化 (茶色の固まりになる)して死に、そこからハチが成虫になり飛び立ちます。


以上がバンカー法の基本的な部分です。より詳しくは農研機構ウェブサイトで公開している2014年改訂マニュアルをご覧下さい。


コレマンアブラバチ(右)と寄生されたワタアブラムシ(マミー:左) (写真提供:福岡県農林業総合試験場)

生物農薬「飛ばないナミテントウ」販売開始

農研機構が育成した遺伝的に飛翔能力を欠く「飛ばないナミテントウ」が製品化され、平成26年6月16日に施設野菜用の生物農薬として販売が始まりました。これにあわせ農研機構は利用マニュアルを発行しました。施設野菜栽培の幅広い作目での利用が可能です。


アブラムシを食べる「飛ばないナミテントウ」

ナミテントウは1頭で1日100頭以上のアブラムシを食べる能力を持つため、天敵として注目されてきましたが、施設内に放飼しても飛び去ってしまい定着しにくいという問題がありました。そこで農研機構は、自然界にいる個体の中から、飛翔能力の低いナミテントウを探しだし、それらを交配することで遺伝的に飛翔能力を欠くナミテントウを育成しました。


このナミテントウは、見た目は普通のナミテントウと変わらず翅もありますが、はばたかせることができません。体の大きさや産卵数など飛翔能力以外の性質について、普通のナミテントウと異なる点はほとんどありません。遺伝的に飛翔不能になっているので、その子どもも飛翔することができません。


この度、(株)アグリセクトから商品名「テントップ」として販売が始まった「飛ばないナミテントウ」は、2齢幼虫の段階です。アブラムシを食べて蛹になり、成虫になった後も飛び去ることがないので、幼虫と成虫時の両方の捕食効果が期待されます。


今回紹介したような技術の普及により、施設野菜栽培で、環境や生産者にやさしいアブラムシの防除が可能となることが期待されます。


「テントップ」のパッケージ