九州沖縄農業研究センター

スクミリンゴガイ

分類

スクミリンゴガイ(Pomacea canaliculata)は、南米ラプラタ川流域原産の淡水巻貝です。在来のタニシ類と近縁(同じタニシ上科に属する)で、タニシと同じように鰓でも呼吸しますが、肺様器官も持ち、呼吸管を水面上に伸ばして直接空気を吸うこともできます。 リンゴガイ科(Ampullariidae)の貝は世界の熱帯・亜熱帯域に広く分布しています。リンゴガイ科に含まれる9つの属の大部分は南米に、一部の属(タニシモドキ属Pilaやマキアゲタニシ属Lanistesなど)はアジア・アフリカに分布しています。

リンゴガイ属(Pomacea)には数十~百種以上が含まれ、そのほとんどは中南米に生息していますが、数種は北米に分布しています。殻の形態には種内変異が大きく、また、種を識別する分類形質となる適当な内部形態が見つかっていないため、研究者によって種の数が大きく違うなどリンゴガイ属の分類は大変混乱していました。近年、分子生物学の進展によりリンゴガイ科の分類も遺伝子レベルで整理されつつあります(Hayes et al., 2009など)。

原産地における分類の混乱に対応して、アジアに導入されたジャンボタニシの分類も混乱していました。これまでも複数種の存在が予想されていましたが、ミトコンドリアDNA解析により、南米に生息する4種のリンゴガイがアジアで野生化していることがわかりました。広範に分布しているのはスクミリンゴガイP. canaliculataとラプラタリンゴガイP. maculata(これまでP.insularumと記載されていましたが、最近、学名が変更されました;Hayes et al.,2012)。そのほか、P. scaralis が台湾に、P. diffusaがオーストラリアとスリランカに局地的に生息しています(Hayes et al, 2008)。

日本のジャンボタニシは、1980年代前半の文献ではラプラタリンゴガイと呼ばれていました。しかしその後、殻の形態などからスクミリンゴガイP. canaliculataと同定され(波部,1986)、種名が変更されました。最近の私たちの調査では(Matsukura et al., 2008a)、日本に生息するジャンボタニシの大部分がスクミリンゴガイであるが、西南諸島を中心に、一部の地域でラプラタリンゴガイも混棲していることがわかりました。なお、スクミリンゴガイとラプラタリンゴガイは形態的に若干の違いがありますが、厳密に区別するには今のところミトコンドリアDNAを分析する以外に方法はありません。稲に対する加害性や生態などで、両種に決定的な差違はみつかっていません。また、最近、両種が野外で交雑している可能性が指摘されています(Matsukura et al., in press)。

タニシモドキ属Pila
タニシモドキ属
Pila

マキアゲタニシ属 Lanistes
マキアゲタニシ属
Lanistes

スクミリンゴガイ(上)とラプラタリンゴガイ(下)
スクミリンゴガイ(上)と
ラプラタリンゴガイ(下)

卵塊(左:ラプラタ、右:スクミ)
卵塊
(左:ラプラタ、右:スクミ)