九州沖縄農業研究センター

スクミリンゴガイ

生態

水田の稲に産み付けられた スクミリンゴガイの卵塊
水田の稲に産み付けられた
スクミリンゴガイの卵塊

スクミリンゴガイの卵塊は、水上の植物などに産み付けられます。長さ数cmほどで、大きな貝ほど大きな卵塊を産む傾向があります。卵塊は濃いピンク色で、中に直径2mm程度の卵が数十~千個ほど含まれています。このピンク色は、遠くから見ても大変目立つうえに、卵には苦みのある物質が含まれているため、捕食者に対する警戒色だと考えられています。

孵化までの期間は温度によっても異なりますが、25°Cの場合は約2週間です。

孵化率はあまり高くありません。ほとんど全ての卵が孵化する卵塊もある一方で、受精して途中まで発生が進むものの、孵化に至らない卵塊も多くあります。

成長・寿命

スクミリンゴガイのオス(左)とメス(右)
スクミリンゴガイのオス(左)とメス(右)

スクミリンゴガイは、環境により成長や繁殖のスケジュールを変えることができます。条件さえよければ2ヶ月程度で成熟しますが、好適な環境でないと繁殖までに1年以上かかることもあります。繁殖を開始するサイズもまちまちで、餌が多いほど大きなサイズで成熟する傾向があります。雌雄で成長パターンが異なり、最終的にメスのほうが大きくなります。大きさだけでなく殻の形も雌雄で異なり、成熟したオスは、殻の開口部がラッパ状に広がり、フタが内側に湾曲します。

今までに見つかった(たぶん世界で)最大の個体は、福岡県産で、殻高80mmありました。ちなみに、世界最大の淡水巻貝は同属の近縁種で、ある標本は殻高155mm以上ありました。南米の原住民がゴムの樹液を集めるのに使っていたそうです。

スクミは、室内では4年生きた例があるものの、日本の水田では基本的に2シーズンしか生きないようです。夏に生まれた貝が秋までに殻高1~3cmになり、そのまま土中で越冬します(それより小さな貝はほとんど越冬中に寒さと乾燥のため死亡します)。越冬貝は翌年の春に水田に水が入ると活動を再開して夏に盛んに繁殖し、生き延びた貝は秋に土中に潜りますが、大きな貝は土に潜るのが下手で、その結果寒さに弱く冬の間にほとんど死んでしまいます。稲や麦の作付けに伴う耕うん作業も、貝殻に傷をつけるため、大きな貝の死亡の原因となっています。

交尾・産卵

交尾中の1組(右2匹)に 横やりを入れに群がるオス(左3匹)
交尾中の1組(右2匹)に
横やりを入れに群がるオス(左3匹)

交尾は昼にもみられますが、夜間に多い傾向があります。オスがメスの殻の上に乗り、ゆっくりと弧を描いて移動し、メスの殻の開口部まで達すると交尾の始まりです。1回の交尾は数時間続きます。

スクミリンゴガイでは、貝類では珍しくオス同士が交尾のために闘争を行います。2匹のオスがメスの殻の上で出会うと、殻をこすりつけ合ってお互いに相手を落とそうとします。たいていは最初に乗っていたオスがケンカに勝ちますが、あとから来たオスが大きいと、しばしば乗っ取りに成功します。

スクミリンゴガイは夜間に水上に出て産卵します。条件がよければ3、4日に1度産卵します。これが2、3ヶ月続くので、メスは一生に数千の卵を産むことになります。

環境耐性

土中に半分潜って越冬中の貝
土中に半分潜って越冬中の貝

原産地でも季節的に干上がるような場所に住んでいるため、 スクミリンゴガイは、乾燥に強い貝です。水が少なくなると土の中に浅く潜り、フタをしっかりと閉めて水分の損失を防ぎます。水がなくてもこのままの状態で半年以上生き延びることができます。

一方、耐寒性はそれほど高くありません。-3°Cではほとんどの個体が2日以内に死んでしまいます。日本における野外での越冬率は、西日本でもふつう10%未満です。もちろん場所によって大きく異なり、茨城県より北では越冬できません。

耐寒性は貝の大きさや季節によって異なります。殻高1-2cm程度の未成熟の貝が最も越冬率が高く、また、秋になって気温が低下し水田が乾燥状態になると、貝は体内にグリセロールを蓄積して耐寒性を高めることが知られています(Wada & Matsukura, 2007: Matsukura et al., 2008b)。

食性

稲を食害中のスクミリンゴガイ
稲を食害中のスクミリンゴガイ

スクミリンゴガイは何でもよく食べますが、植物質の餌を主としてとっています。柔らかい草を好み、苗がごく小さいうちを除いて、稲はそれほど好まないようです。水田で稲の苗を食べてしまうのは、水田に他の食べ物が少ないからだと思われます。また、動物質の餌も好み、野外で魚の死体に群がって摂食していることもよく見かけます。傷ついた貝や孵化直後の貝などは他個体に食べられてしまうこともありますが、健康な大きい貝同士が共食いをすることはまずありません。

水田では、イネや雑草などの植物とともに泥を食べてその中の微少藻類や有機物を取っているようです。

摂食量はすさまじく、たとえば殻高3cmの貝は、1日におよそ2gのジャガイモを食べます(水温28°Cの場合;大矢ら, 1986)。この場合、体重のほぼ半分の量を食べている計算になります。

稲の被害量は、貝の密度や大きさ、稲の大きさ、水深(移植栽培の場合)や浸水時間(直播の場合)などの影響を受けます。被害量は、貝の密度や大きさ、浸水時間が増すにつれて増加します。一方、稲が大きくなると、食害される苗数が格段に少なくなります。また水深が浅い(およそ水深4cm以下)と、被害があまり生じません(小澤ら, 1988)。これらの情報をもとに、移植直播栽培での被害回避対策が立てられています。

稲の被害量に影響を与える要因.+は正の効果(大きくなると被害が増大)、 -は負の効果(大きくなると被害が減少)を表す
稲の被害量に影響を与える要因。+は正の効果(大きくなると被害が増大)、-は負の効果(大きくなると被害が減少)を表す

天敵

水田はスクミの楽園
水田はスクミの楽園
ゲンゴロウギンヤンマのヤゴ
ゲンゴロウ(左) ギンヤンマのヤゴ(右)

原産地の南米では、タカやワニ、カメなどが盛んにリンゴガイ類を捕食しているようです。一方移入先のアジアでは、あまり有効な天敵は見つかっていませんでした。しかし、日本の河川や池などに生息する多くの動物が、スクミリンゴガイを捕食することが分かりました(図:河川、池等での対策の天敵表)。多くの魚やゲンゴロウ・ヤゴ・カニ・エビなどが小さな貝を食べ、モクズガニ・コイ・カメ類・アイガモ・ドブネズミなどは、殻高20mmを越える貝も食べます。

現在の水田の中には、これらの天敵はほとんど生息しません。これが、スクミが水田内で爆発的に増殖する理由です。昔のように多数の動物が池や水路に生息し、自由に水田と行き来するようになれば、スクミリンゴガイの密度も低下するかも知れません。