九州沖縄農業研究センター

スクミリンゴガイ

スクミリンゴガイの卵はなぜ赤い

スクミリンゴガイの卵塊
スクミリンゴガイの卵塊

スクミリンゴガイの雌貝は日が暮れると水の中から這い出してきて、稲株や水路の側壁などに鮮紅色の卵塊を産み付けます。卵塊は数十から、大きいもの では2~3,000個の卵が集まっています。この派手なピンク色のために皆から気味悪がられ、この貝はどれだけ損をしたことでしょう。白か透明な小さな卵塊を稲株の陰にひっそりと産み付けていれば、こんな嫌われ者にならなかったかもしれません。

この色は、卵の中にタンパク質と結合したカロチノイドという色素が含まれているためです。カロチノイドは植物に含まれているので、雌貝は食べた植物中のカ ロチノイドを利用しているのでしょう。実際、雌貝を鯉の餌などの人工飼料で飼うと色の薄い卵塊を産むようになってしまいます。

ではなぜ雌貝はこんなによく目立つ卵塊を産むのでしょうか。すぐに思いつくのが、警戒色ではないかということです。警戒色とは、毒や嫌な味を持つ生物が、 わざと目立つ姿をして、捕食者(天敵)から回避する方法です。例えば、スズメバチや一部の毒キノコは派手な色をしています。一度スズメバチの毒針の反撃に 会った鳥は二度とスズメバチを攻撃しないでしょう。一度、毒キノコを食べてひどい目にあった動物は、その派手な色彩を記憶して二度と同じ間違いをおかさな いでしょう。捕食者が嫌がる毒や匂いや味を持つ生物は、記憶に残り易い派手な色を持つことで生存に有利になるのです。

スクミリンゴガイの卵塊の色はほんとうに警戒色なのでしょうか。それを確かめるためには、卵塊に毒や捕食者がいやがる物質が含まれているかどうかを確かめ る必要があります。また、目立つ色彩を記憶できる高等な捕食者の存在を確かめる必要があるかもしれません。実際、卵を潰して少しなめてみると苦い味がするといいます(私の周りの勇気ある何人かの人が確かめました)。たぶんこの苦みの成分を捕食者が嫌うのではないかと考えられます。このスクミリンゴガイの卵 塊を守る戦略が功を奏し、卵塊の捕食者は原産地の南米でも侵入地のアジアでもごく少数しか知られていません。