九州沖縄農業研究センター

スクミリンゴガイ

スクミリンゴガイを食べるカラス

最近、田植え後の水田で貝を捕食するカラスが増えました
最近、田植え後の水田で
貝を捕食するカラスが増えました

集団の「文化」を子孫に伝えるのは人間だけの専売特許ではありません。有名な話に宮崎県幸島のニホンザルの例があります。この島のサルはある時、イ モを海水で洗うことを覚えました。塩けのあるおいしいイモの食べ方が代々子孫に伝えられているといいます。小枝などを使ってアリを食べるチンパンジーの集 団など、知能の発達した高等な類人猿では、その集団固有の「文化」が子孫に伝えられる例は多く知られています。鳥の世界ではどうなのでしょうか。

最近、私が住んでいる熊本市近郊では水稲収穫後の水田に集団でカラスが舞い降りている風景をよく見かけます。近づくとすぐに飛び立つ ので、はじめは何をしているのかわかりませんでした。よく見るとしきりに何かを食べています。飛び立ったあとを調べると、スクミリンゴガイの貝殻が散乱し ています。このあたりの収穫後の水田ではスクミリンゴガイの密度が非常に高いのです。多くは土の中にもぐっていますが、1平米に100頭以上の貝が生息し ていることも珍しくありません。水稲収穫後に農家が圃場を耕起するとカラスにとっては恰好の餌場になるのです。このようなカラスの集団は、年々、多くなっ ているように見えます。

私がスクミリンゴガイの研究を始めたのは1996年頃です。この頃の記憶はおぼろげですが、こんな風景はありませんでした。少なくと も、収穫後の水田を集団で移動するカラスの群には遭遇しなかったように記憶しています。この貝が日本に導入されてからほぼ十年後の1990年頃の文献をみ ると、鳥類の天敵として、サギ(但し、サギがこの貝を食べているかどうか疑わしい)はあげられていますが、カラスは記載されていません。とすると、このよ うな、水稲収穫後の水田に侵入してスクミリンゴガイを食するカラスの習慣は、このあたりでは、最近、急速に広まったのではないでしょうか。この習慣が「文 化」として、このあたりのカラス集団に受け継がれていることは間違いないでしょう。

実は、カラスがスクミリンゴガイを食べることはだいぶ以前から知られていました。どこの話だったか思い出せませんが、もっとすごい スーパーカラスの存在も、以前、話題に上りました。そこでは、カラスがスクミリンゴガイをくわえて道路に落とします。すぐに車が来て貝殻が潰される。カラ スは労なく貝の中身を取り出して食することができるのです。「文化」の発祥の早晩は地域によって違うようです。このあたりにも早くスーパーカラスが出現し て、そんな習慣をみせてほしいと思います。

(W)