九州沖縄農業研究センター

スクミリンゴガイ

直播水田

直播水稲でのスクミリンゴガイ対策

代かき同時点播直播(湛水直播)
代かき同時点播直播(湛水直播)

[基本的な考え方]
多様な直播栽培様式の中で、スクミリンゴガイ対策上、最も好ましい選択肢は乾田直播です。水稲生育初期が乾田状態になる乾田直播では貝の被害が生じません。

播種を湛水状態で行う湛水直播では、貝が出芽直後の幼苗を貪欲に食害するので、貝が低密度でも著しい被害が生じます。

湛水直播栽培における被害回避は、播種時の貝密度を低下させること、落水処理を主体とした播種後の圃場管理、の二つの方法があります。基本的にはこれら二つを併用することが望ましいと考えられます。

播種後、落水が不完全であってもメタアルデヒド粒剤を散布することで被害を最小限に抑えることができます。

播種時の貝密度を低下させる方法

1.田畑輪換

田畑輪換でタニシ対策田畑輪換でタニシ対策

夏作に大豆等の畑作物を栽培すると貝の密度は著しく低下し、防除が必要な貝密度(要防除密度:約0.5頭/m2)以下になります。したがって、翌年、貝がいない圃場と同様な湛水直播栽培を行うことができます。減反政策により西日本では30~40%の水田転作が不可避ですので、計画的に転作することで、特別のコストをかけることなくスクミ リンゴガイ対策ができます。お薦めできる方法です。

但し、1年の転作では、多くの場合、貝は絶滅していません。また、水路から貝が侵入する水田では、侵入防止網(この場合は、6mmメッシュ程度がよい)の設置が不可欠です。

侵入防止網
侵入防止網

田植え時の貝密度

2.播種前の石灰窒素散布による貝防除

石灰窒素を散布して貝密度を低減した後、播種を行います。石灰窒素からは殺貝作用のある遊離シアナミドが生成されます。この物質は稲に対しても薬害があるので、散布から播種までに時間を要すること、石灰窒素自体に窒素が含まれているので元肥の量を調整するなどの注意が必要です。また、100%の殺貝は困難な場合が多いので、播種後も落水処理などの貝対策を行うことが望ましい。

具体的な石灰窒素散布法
  • 貝を覚醒させるため、石灰窒素散布前に荒起こしし、2~3日間、圃場を湛水する。
  • 石灰窒素を20~30kg/10a散布する。なお、石灰窒素の散布にはPTO駆動式ライムソワーが利用できます。
    (注)石灰窒素20~30kg/10aは窒素成分4~6 kgに相当するので、その分の窒素投入量を元肥、追肥で減らす。
  • 3~4日間湛水状態(水深3~4cm)に保つ。その後、遊離シアナミドの分解を促進するため、代かきを行い、3~4日後に播種を行う。
  • 圃場に麦藁等がある場合は水田が強還元状態になりシアナミドの分解が遅れるので、散布から播種までの期間を長めにとる。
  • 全部で、石灰窒素散布から播種までの期間を6~10日程度とする。
    但し、カルパー被覆した籾の播種では、散布2日後に播種しても薬害がでません(松島ら,2002)。

石灰窒素散布模式図
石灰窒素散布模式図

なお、前年の収穫後に石灰窒素の散布を行って越冬密度を低下させる方法もあります。ただし、水温が15°C(20°C以上が望ましい)以下では殺貝効果が著しく落ちます。

3.耕耘による機械的な貝破砕

スクミリンゴガイは在来のタニシ類などに比べて貝殻が薄く傷つきやすいので、ロータリー耕耘により機械的に貝を破砕し密度を低下させることができます。しかし、多くの場合、この方法だけで貝を要防除密度以下に減らすことは無理なので、播種後の被害回避対策が必要です。

水稲収穫後の硬い土壌と麦作後の柔らかい土壌での耕による殺貝効果

  • 水田の土が硬くなる水稲収穫後の耕耘が最も殺貝効果が高い。もちろん冬季や初夏の播種前の耕耘でも効果が期待できます。
  • スクミリンゴガイは土中に潜って越冬するが、その深さは6cm未満が大部分です。したがって耕耘深度は浅くてよいが、できるだけ土の硬い時期にピッチを小さくして(通常の1/2以下の作業速度が望ましい)いっきに耕耘すると殺貝効果が高くなります。
  • 実験的には、貝の大きさが5~15mmで10~35%、20~29mmで45~70%、30mm以上では70~90%の貝が破砕できています(高橋ら,2000)。

播種後の圃場管理による被害回避法

[基本的な考え方]
貝は田面水がないと、土中または土表面で蓋を閉じて休止状態になり稲を加害しません。直播栽培での被害回避のポイントは、この貝の行動を利用して、播種後、長めの落水期間を設けることです。落水期間中に圃場の一部に水たまりができると、貝による被害が急速に進行するので、排水を完璧に行う工夫が必要になります。また、落水期間が長期間に及ぶと雑草が多発するので、雑草対策も重要です。

播種後、落水が不完全な場合はメタアルデヒド粒剤を散布します。圃場状況や気象条件などから、発芽後、圃場に大規模な水たまりができる可能性が高い場合は、あらかじめ圃場全面に同剤を散布しておくと多雨条件でも被害を最小限に抑えることができます(和田ら,2001;行徳ら2001 )。水たまりの可能性が小さい場合や、水たまりの規模が小さいと予想される場合は、水たまりが出来てから速やかにその部分だけ同剤を散布する省資源的方法もあります。

各地で様々な湛水直播栽培が行われていますが、カルパー(過酸化カルシウム)でコーティング(粉衣)した催芽籾を土中播種する場合を例にとって、貝の被害を回避する方法を紹介します。

  • 播種量は通常(乾籾2.5~3kg/10a)より多めにします(例えば、1.2~1.5倍量)。
  • 播種後、落水期間を長くするほど貝による被害が減少します。水田の貝密度が著しく高くないなら、播種後、約2週間(稲はほぼ3葉期)落水するとほぼ実用上の苗立ち数が確保され(約90%の被害抑制効果)、3週間(稲は約4.5葉期)落水すると貝の被害を完全に回避することができます(Wada et al., 1999)。したがって、少なくとも2週間の落水期間を設定することが望ましい。
    播種後の落水期間
  • 播種後、かなりの降雨が予想される場合は、圃場全面にメタアルデヒド粒剤を散布します。水たまりの可能性が低い場合は、降雨後、水たまりが発生したら速やかにメタアルデヒド粒剤をスポット散布してもよい。
  • 落水期間中の排水を完全にするため、あらかじめ圃場の均平度を高めるとともに、圃場全体に溝切りする方法もあります。 溝切り法は次に示すようにいろいろ工夫されていますが、どれも一長一短で、決定版はまだありません。
    • 播種落水後、市販の歩行型溝切機を使用して5 m毎に溝を作ります(福島ら,2000)。
    • 播種と同時にある程度の溝を切る直播播種機が市販されていますが溝が浅く被害回避効果は十分でありません。
      麦用播種機を利用した簡易代かき同時直播機(三原,1997)
      麦用播種機を利用した簡易代かき同時直播機(三原,1997)

      管理機タイプ作溝同時播種機(田坂,2003)
      管理機タイプ作溝同時播種機(田坂,2003)
    • 播種後、5~6m間隔でトラクターを走行して車輪跡の排水溝を作ります。
      • 播種1~2日後の水田の土がある程度硬化した時に、湛水状態で行います。
      • 作溝後、車輪跡溝の側面の盛り上がった部分を一部カットしたり、排水口と溝を連結したりする作業を必ず行って下さい。
        播種後のトラクタ-による溝切り
        播種後のトラクタ-による溝切り
  • 排水に注意しても、大雨などで圃場の一部に水たまりができる場合はメタアルデヒド粒剤をスポット散布します。
  • 除草は、落水期間中に茎葉処理剤(クリンチャーバスなど)を活用したり、落水期間が比較的短い場合(播種後約10日以内;ヒエ3葉期以前)は、入水後に生育の進んだヒエに対して有効な一発処理剤を活用します。
  • イネと雑草がほぼ同時に出芽する直播水稲では、貝による完全除草は不可能で、除草剤の散布が不可欠です。