九州沖縄農業研究センター

新規野菜・花き栽培技術マニュアル

開花制御技術

シンテッポウユリはテッポウユリとタカサゴユリとの交配種であり、種子から育てるために種苗コストが少なく、播種後1年弱で採花できる。近年改良が進み形質が向上している。

沖縄の冬季の温暖な環境を利用して低コストな春出荷が可能であり、小菊と同様に、春期の仏花としての需要に応えられると期待されている。施設栽培・露地栽培等多様な作型が発展できるが、沖縄県では、冬期の温暖さを活用するとともに、不利な台風襲来を避けた、10月から6月までの栽培が主体になる。

1. 品種選定

従来、季咲きで7月の盆頃に咲く早生種、旧盆に咲く中生種、秋の彼岸頃に咲く晩生種に大別される。早生種は、抽台を開始するまでの低温要求量が少ないとともに、花芽分化適温が低いと考えられる。

最近、第一園芸から販売され、花が上を向いて咲くために梱包、輸送特性に優れる極早生種の‘さきがけ雷山’、早生種の‘雷山1号’、中生種の‘雷山2号’、晩生種の‘雷山3号’、F1品種で生育が旺盛で、開花期や形質の揃いが良い‘オーガスタ’等が販売されており、作型に応じて使い分ける。特に早生種ほど高温環境下に定植すると早期に発蕾し、弱小になるので注意する。F1品種以外は、多くが雑ぱくな性質を持っており、必ずしも生育や、形質の揃いは良くない。しかし、利用目的が仏花であり、種苗代が安価で、主に露地で栽培できるなど有利な面もある。種子から得られた優良個体を鱗片繁殖で増殖し、後代の栽培に利用することも行われている。

2. 育苗

1)種子からの栽培

  • 播種量: 10a当たりの定植可能本数は、25000本弱であり、発芽率等を考慮して2~3割増の30000粒程度を準備する。
  • 播種時期: 発芽適温は摂氏20/15度(昼/夜温)であり、沖縄では3月前半までが適温域である。10~11月に定植する場合の播種期は5~6月上旬であるが、高温期のために発芽率が激減する。そのために、発芽促進のための処理が必要になる。
  • 発芽促進: 高温時期の発芽率を向上させる手段として、播種前の2~3週間パーライト等の保湿資材を種子にまぶしたり、セル成型トレイに播いた後灌水して、湿潤低温(摂氏5~10度)環境で貯蔵すると高温環境時の播種が可能になる。なお摂氏20度、10000ルクス程度の低温発芽室の利用効果は高い。
  • 播種: 市販の播種育苗用土を使用し、セル成形トレイあるいはバットや育苗床に播き、種子が見えるか見えない程度に軽く覆土する。発芽が揃うまでに1ヶ月程度要するが、その間は乾燥させないように、間けつミスト下で管理するとよい。夜間に水滴が残らないように3時にはミストを止める。
  • 施肥: 発芽が揃った時から、窒素濃度で100ppm程度の液肥を1週間に1度施用する。
  • 苗の養成: 200穴セル成形トレイで8葉程度までの養成が可能。早生品種は育苗中に抽台を開始し、生長点が座死する個体が発生するが、セル内に大きな球根を作成し、それからの芽が伸びるので問題はない(右下写真)。早期に定植し、早期開花が問題になる時期には、苗が大きいほど、草丈が確保でき、着花数が増えるので、大きな苗に育てる。

2)鱗片挿し苗を利用した栽培

優良個体からの鱗片挿しによる増殖も可能。採花後、1~2ヶ月球根を太らせ、その鱗片を1枚づつ剥がしながら、清潔な水はけの良い土に先端が少し見える程度に挿すと、1ヶ月程度で芽の動きが観察される。直径5mm程度の球根を形成して休眠する個体もある。催芽中や萌芽後の管理は播種栽培に準じる。

3)採花後の球根を利用した栽培

採花時に下茎葉が残っていると、その株の球根が肥大し、球根定植の栽培に再利用できる。7月後半~8月上旬に掘り上げ、2~3日流水で水洗後、乾燥をさけるようにピート等の保湿資材をまぶして摂氏5度程度で定植まで貯蔵する。直径が2cm程度の球根でも利用できる。

4)販売セル成形苗の利用

種苗会社ではセル苗での販売が主体になってきており、育苗は省略できるが、種苗コストは高くなる。

セル成形トレイ(左)播種床(右)

セル成形トレイ(左)播種床(右)での育苗

200穴セルトレイで約2.5ヶ月育苗後の個体
200穴セルトレイで約2.5ヶ月育苗後の個体

セル中に球根を形成した早期抽台苗
セル中に球根を形成した早期抽台苗

3. 抽台促進のための低温処理

低温遭遇前の秋季に定植する場合には、暗黒下、摂氏5度で1.5~2ヶ月程度低温処理を行う。乾燥しすぎないように適宜灌水する。早期に徒長し、黄化を始めた場合には、一時屋外の遮光下に出して管理する。灰色カビ病等の予防のために低温処理の前後にベンレート等の薬剤散布を行う。苗床で育成した苗は掘り上げて、段ボール箱に詰めて低温処理する。

4. 定植

  • ほ場の準備: 元肥に窒素成分で2kgの化成肥料を施す。なお、利用する有機質肥料中の窒素成分を考慮した施与を行う。窒素が多すぎると葉枯れ病を助長する。排水不良の場所では湿害による根腐れで、鉄分の吸収が阻害され、クロロシスが発生しやすい。
  • 栽植密度: 株間13~15cmとする(20000~25000本/10a)。密植は風通しを悪くし、葉枯れ病の発生原因となる。

5. 生育開花習性

1)露地栽培での生育反応

10月中旬に定植した‘さきがけ雷山、雷山1号’などの早生種の中には、最低気温が摂氏20度程度の12月上旬までに、20枚程度の葉数に達していた株は花芽分化を開始し、2~3月頃から散発的に開花する。初期生育が優れるF1品種の‘オーガスタ’は2月中旬に発蕾できる。個体差が大きいとともに、発蕾後の生育が緩慢であるために、開花期はばらつく。

2)ハウス栽培での生育反応

沖縄のハウス内環境では、多くの場合2~3月頃の高温を受けてから花芽分化をする。露地では1ヶ月程度遅れる。しかし、2月中に早期に開花した株からは、子茎が伸長を開始し、5月以降に2度切りができる。高温に遭遇する10月上中旬に定植すると、その株数が増える。11月上旬に定植し、無電照下で栽培した場合、極早生種、早生種の一部を除いて多くのユリの開花は5~6月である。遅く咲く株ほど葉数が増え、200枚を越えて草丈が3m以上にもなる。

3)電照下での開花反応

シンテッポウユリの花芽分化は葉数が確保された後の高温で促進され、長日条件下ではより助長される。

11月上旬にハウスに定植した後、深夜3時間の電照(50ルクス)を行うと、どの品種も3月の彼岸までには開花する。電照下では、花芽分化が促進されるが、短茎で開花し花の数が少なくなる。この傾向は早生系ほど強い。しかし、晩生種の‘オーガスタ’は、11月13日定植・定植後からの電照で理想的な草丈と花数を確保して3月中旬に開花した。

無電照では大型化、電照下では小型化する。そこで、株を大きくした後、電照を開始すれば適度な切り花が得られることが想定される。
電照下でも花芽分化するかどうかは品種によって異なり、極早生品種では昼/夜温が摂氏20/15度環境に12日間遭遇すると花芽を分化したが、早生種の雷山1号はこの低温環境では分化しなかった。

3月中旬の彼岸時の採花を目的とした場合、花芽分化を誘導させたい12月下旬から1月中のハウス内気温推移が開花の可否に大きく影響する。場合によってはこの時期に摂氏20度以上で加温することが必要になる。

3月中旬までに開花5月以降になって巨大化して開花

ハウス奥の電照箇所はすでに発蕾して3月中旬までに開花したが、手前の未発蕾株は5月以降になって巨大化して開花した(左)。2月22日撮影

露地栽培中のシンテッポウユリ露地栽培中のシンテッポウユリ(2月22日)
(採花した後の球根を定植した露地圃場。球根は種苗より初期生育が早いので、高温環境時に花芽分化が可能である。このため、露地でも早期に発蕾してくる。)

葉枯れ病葉枯れ病
ボトリチス菌による商品価値を無くする重要な病気である。葉の水滴付着が直接の発生原因になり、多窒素施用は発生を助長する。
水滴の付着は、露地では朝露、ハウス内では冷気の吹き込みによるもやが原因になるので、ベンレート等の散布による予防が必要である。