所長挨拶

作物研究部門では、稲、麦類および大豆などの土地利用型作物の新品種開発、ならびに効率的かつ革新的な品種開発を可能にする育種技術の開発に取り組んでいます。これらの作物は私たちの日々の食事に広く利用されることから、安定して沢山とれ、なおかつおいしく品質に優れた新品種が求められています。たとえば稲では、米粉用や飼料用といった多用途に対応する品種、高温下でも玄米の品質や収量が低下しにくい品種など、社会のニーズの変化に応じた育種目標への対応が重要となっています。
農研機構は、100年以上にわたる品種育成の歴史を持ち、育種を支える多様で有用な遺伝資源を保有しています。1997年に開始された国際イネゲノム塩基配列解読プロジェクトを主導して、2005年にはイネ全ゲノム(日本型イネ品種「日本晴」)の完全解読を成し遂げました。その後も、稲、麦類や大豆などの有用遺伝子の同定と、それらを育種に活用する取り組みを進めています。病虫害抵抗性をはじめ、出穂や開花、機械化適性といった重要な形質について、DNAマーカーを活用することで、目的の特性を持つ個体を効率的に選抜できるようになっています。
一方で、品種に求められる収量や品質といった特性の多くは、多数の遺伝子によって制御される複雑な形質であり、その改良には試行錯誤が伴います。作物研究部門では、品種育成の過程で得られた形質情報をデータベース化し、ゲノム情報と結びつけることで、育種情報の体系的な整備に取り組んでいます。これらの情報を活用することで、交配計画の策定や有望系統の選定を支援し、科学的・効率的に作物の品種改良を進める「スマート育種」の実現を目指しています。
作物研究部門
所長:石本 政男(いしもと まさお)