果樹茶業研究部門

果樹の災害対策集

3.被害樹における翌年の着花確保対策、剪定の程度と時期、施肥管理などについて教えてほしい

1) 翌年の花芽を確保するための対策

(1) 不時開花の発生について
品種や地域によって異なるが、一般にニホンナシの花芽の分化は、6月中下旬に始まり、晩生の品種では8月上旬まで続く。分化した花芽は、冬を越して4月上旬から下旬にかけて開花する。川口(1933)の'長十郎'における調査例では、花芽分化は伸長の停止が早い枝ほど早く始まり、短果枝では6月18日に開始が確認されたのに対し、40~70cmの枝の頂芽では7月中旬、腋芽では8月上旬、80cm以上の長い枝の頂芽では7月下旬に始まっている。このように花芽分化は、短果枝は中・長果枝よりも早く始まり、正常の状態では8月上旬には花弁が、中旬には雄ずいが出現する。しかし、7月下旬から9月にかけての台風で被害を受け、落葉が激しい場合には不時開花が生じやすい。被害を受けて最初に萌芽が始まるのは、花芽分化が早くから始まる短果枝ではなく、頂芽優勢も関連して、徒長枝や長果枝の頂芽、あるいは主枝、亜主枝などに存在する陰芽からで、栄養生長が旺盛な部分である。

(2) 不時開花した花芽の萌芽程度の確認
不時開花した場合の花は白く目立ちやすいため、20~30%の花芽が開花した場合でも、全ての花芽が萌芽してしまったように感じることが多い。そこで、実際にどの程度の花芽が萌芽したのかを確認する必要がある。

不時開花が徒長枝や長果枝の枝先などで発生しやすいことは前述したが、不時開花による翌年の生産性への影響は、腋花芽が着きやすい品種かどうかによって異なる。腋花芽を形成しやすい品種('長十郎'、'豊水'など)では、不時開花が起っても萌芽せずに残る花芽をある程度確保することができる場合が多い。しかし、腋花芽が形成されにくい品種('新水'など)では、花芽の数が極端に少なくなる傾向がある。

残った花芽数を調査し、充実した花芽が中・短果枝を中心に樹冠占有面積1m2当たり15~20芽程度残っていれば、管理次第で翌年の生産量は大きく低下しないものと考えられる。しかし、不時開花が一面に認められるような園では残った花芽の鱗片がゆるんでぼけ芽になる可能性があり、その程度が高い場合には、冬期の凍害で花蕾が枯死しやすいので、翌春の花芽の確保が困難になる。

(3) 不時開花しやすい条件と対応の考え方
不時開花は、かなり激しく落葉しても、その時期が遅い場合には起こりにくい。すなわち7~8月の台風で落葉した場合に多く発生する傾向がある。この場合、果実への被害とともに、樹体が消耗して翌年の生産に対しても大きく影響する。9~10月の台風では、落葉しても比較的不時開花するものは少ない。樹体の養分消耗や根の枯れ込みなどは当然起こるが、極端に激しいものではないと考えられる。

被害樹の剪定の程度は、残芽数によっても異なるが、いずれにしても普通年よりも軽くして、発芽数が極端に多くなり過ぎる場合は、摘芽や摘心、誘引などで対応する。
被害によって生じた新梢の展葉・緑化を促し、充実させるための肥料は、速やかに施肥効果を発現するものであることが必要で、液肥として枝葉に直接散布することが望ましい。また、激しい落葉で根部に枯れ込みが生じた場合の施肥には注意が必要であり、秋肥・基肥とも中止して、根部への傷害を軽減する必要がある。その後は、新梢の生育状況を観察しながら追肥で施用するのが安全である。軽度の被害樹では、基肥をやや少なめに施用し、その後の生育状況を見ながら追肥を行う。


2) 樹体の取り扱い

(1) 倒伏した場合
倒伏した樹は、根が切れ枝が折れるという状態にあって、棚の全体あるいは一部が倒壊していることが考えられる。倒壊した場合には、まず、棚に結束してある部分を切り離し、棚の補修を行う。棚が倒壊していない部分でもアンカーが浮き上がったり、柱の位置がずれてしまっている場合などがあるので、入念に点検して完全に補修する。次に、倒伏した樹を引き起こし、折れた部分を切除し、裂けた部分などで、回復の見込がある部分は幅の広いビニールテープなどで覆って傷口部分からの蒸散を防ぐとともに縄で堅く巻き、棚付けできる部分は棚付けする。根部は、倒伏により切断、折れなどの障害を受けている場合が多い。根が地上部に浮き出ている場合は、周囲の土を丁寧に掘り、傷口を切除あるいは丁寧に削りとって接ぎ蝋を塗り、樹を倒伏前の状態に立てて埋め戻す。

剪定は、根の障害を勘案しながら実施する。この場合、徒長枝などを中心に剪去し、それでも地上部の枝が多いと推定された場合、枝の配置を検討しつつ結果枝の間引きを行う。施肥については被害当年は、新葉の発生状況に応じて葉面散布を数回するだけにとどめる。土壌に肥料を施用することは根に障害を及ぼす可能性があるので控える方が良い。翌年は基肥は施用せず、枝の伸長、葉色などの状況を見ながら追肥することが望ましい。なお、倒伏を伴う激しい被害を受けた場合は、翌年の結実は期待せず、樹体の回復に力を入れるように努める。

(2) 倒伏しなかった場合
倒伏しなかった場合でも、棚が破損した場合には張り線に結束した枝を外し、棚の補修を行う。その後、被害の程度に応じて剪定を行う。100%の花芽が萌芽した場合

  • 100%の花芽が萌芽した場合
    早期の落葉(7~8月)によって、ほとんどの花芽が萌芽していることが確認された場合には、液肥の散布などにより新梢の伸長充実を促し、なるべく早く伸長が停止するよう配慮する。翌年は花がほとんど着かないから、栄養生長が盛んで樹勢が旺盛になり、放置すれば徒長枝の先の方に花芽が着き、弱い枝は下垂した弱小枝になりやすい。剪定は軽くし、生育状況を見ながら摘芽・摘心を行って、残した新梢の充実を図る。新梢は、水平近く誘引して生育を早期に停止させ、次年の結果枝とする。その他の枝は摘心などを行って結果枝への日照を確保する。
    新しく発生した新梢・新葉に黒星病・黒斑病の多発が予想されるので、ナシのQ1(3)で解説したように薬剤による防除も必要である。
  • 50%程度の花芽が萌芽した場合
    半分程度の花芽が残った場合、被害時期が早く、樹勢が旺盛な場合には、残った花芽も鱗片が弛み、冬の低温に遭遇すると、花蕾が枯死することがある。充実した花芽が残っている場合は、それを翌年利用するため、萌芽伸長した新梢を適度に摘心、摘芽などをして、花芽の充実を図る。
    被害を受けた後は栄養生長が盛んになるため、冬期の耐寒性が低下する可能性もあり、翌年の胴枯れ病の発生には特に注意が必要である。
    剪定の程度は軽くして、充実した花芽を十分に確保するように努める。翌年の生育状況を見て摘芽・摘心を行い、花叢数を調節するほうが安定した生産が得られやすい。
  • 30%程度の花芽が萌芽した場合
    萌芽程度が低い場合には、花芽はひどく減少することはない。特に腋花芽を着けやすい品種では影響が小さいと考えられるが、大事を取って、剪定はやや軽めに行う。腋花芽が少ない品種の場合には中・短果枝に着生した花芽を確保することが重要である。