畜産研究部門

育種

牛からのメタン産生量は、飼料や微生物相によって変わりますが、飼料の種類や量が同じであってもメタン産生量は個体によっても異なります。さらに、その特性は産子に遺伝する可能性も徐々に明らかにされてきました(Uemoto et al., 2020, Animal Science Journal, 91, e13383. )。そして、メタンの少ない牛には特徴的な微生物が存在することもわかってきました(「乳用牛の胃から、メタン産生抑制効果が期待される新規の細菌種を発見」)。ただ、メタン排出量の少ない牛を選ぶことは極めて困難です。なぜなら、育種には個々のメタン排出量を何百頭、何千頭という多頭数において測定することが必要ですが、これまでの方法では年間に十数頭のメタン排出量しか測定できなかったからです。

農研機構では、国内研究機関とともに、スニファー法と呼ばれるヨーロッパで開発された簡易なメタン推定手法を、日本の乳牛や肥育牛に適した手法に改良しました(ウシルーメン発酵由来メタン排出量推定マニュアル)。今後、このシステムを用いて、複数の大学や公設試、一般酪農家などで飼育されている牛から、メタン排出量を測定する予定です。また同時に、メタン排出量が少ない牛の特徴を、胃の微生物相や、生理的な面からも明らかにしていくことを考えています。メタン排出量の少ない牛を選んで増やしていけば、時間はかかるかもしれませんが、私たちが栄養として利用できない牧草を、私たちが栄養として利用できる乳や肉に変換してくれる牛の利点を生かしながら、メタン排出量を減らすことができます。