畜産研究部門

牛メタン研究

  • 研究の背景

    日本人の食生活はここ50年で大きく変わりました。食料需給表(農林水産省, 2022)によると1970年代には食肉の7割を魚介類から摂取していましたが、2021年には牛肉、豚肉、鶏肉の合計で6割を占めるようになっています。食肉以外でも鶏卵、牛乳、そしてチーズやヨーグルトなどの乳製品なども消費しており、今や畜産物は私たちの食卓になくてはならないものになっています。

    一方で他の産業と同様に、畜産業からも温室効果ガスが排出されています。国内の農林水産業からの温室効果ガス排出量は、農林水産業分野の化石燃料燃焼由来二酸化炭素を含めると国内の総排出量の約4%ですが、そのうち家畜の消化管内発酵由来メタンが15%を占めています(みどりの食料システム戦略:戦略の概要とめぐる情勢 令和4年5月)。特に農林水産分野から排出されるメタンでは、第一の排出源である稲作に次いで、家畜の消化管内発酵由来メタンが第二の排出源となっています。世界においては牛15億頭、羊・山羊24億頭(FAOSTAT, 2022)などの反すう家畜の消化管から排出されるメタンは、世界の温室効果ガス総排出量の5%を占めるとされています(IPCC, 2022, 第3次作業部会)。世界の畜産物需要は年々増加しており、それに伴い温室効果ガス排出量の増加も予測されていますので、今後の持続的な畜産業の展開を図るために、生産性向上と環境負荷低減を同時に達成することが重要な課題となります。

    このウェブページでは、家畜の消化管内発酵由来メタン、いわゆる牛のげっぷ(あい気)に含まれるメタンを取り上げ、その削減方法や測定法などについて簡単にご紹介します。

  • 牛からメタンが出る仕組み

    牛は第一胃から第四胃までの4つの胃を持っており、第一胃に共生する微生物の働きで牧草などの飼料を分解・発酵します(牛からメタンが出る仕組み)。 牛が食べた飼料は発酵によって、牛のエネルギーになる短鎖脂肪酸(酢酸やプロピオン酸など)に変換されますが、酢酸などが作られると、発酵副産物として「水素」も一緒に作られます。牛の胃に生息するメタン古細菌はこの「水素」を使ってメタンを作ります。一方で、酢酸と同じ短鎖脂肪酸であるプロピオン酸は「水素」を消費して作られるため、同じく「水素」を消費して作られるメタンの産生と競合します。このため、メタンの低減を図る場合は、酢酸を少なく、プロピオン酸を多く、メタン古細菌の働きを抑えるような胃内発酵管理が期待されます。また、水素の消費に有効な資材の利用も想定されます。日本では今のところ主に以下のアプローチを考えています。

牛のげっぷに含まれるメタンを減らす技術

牛のげっぷに含まれるメタンを測る方法

牛のげっぷに含まれるメタンを測る方法について概要と参考文献を紹介します。

施設を使って正確に測定する方法

簡易に測定する方法

放牧地でも測定できる方法

よくある質問(Q&A)

  • Q1牛からメタンが出てくるのは本当ですか。その量はどれくらいですか。

    牛の鼻や口から出てくる呼気の中にメタンが含まれているのは本当です。
    1頭の牛から出てくるメタンの量は、家畜の大きさや生産性、そして食べる量などによって変わります。例えば、大人で泌乳している牛ですと500L/日/頭、大人の和牛ですと250L/日/頭くらいです。

    世界中にいる牛や羊などの反すう家畜から出てくるメタンの総量は、世界における温室効果ガスの総排出量の5%を占める(CO2換算)といわれています(IPCC第6次評価報告書 第3作業部会報告書(2022), p.237の図2.12)。
    国内の総排出量に占める割合は0.7%程度(CO2換算)です(日本国温室効果ガスインベントリ報告書2022)。

  • Q2なぜ牛の呼気にはメタンが含まれているのですか。

    牛には胃が4つあり、1つ目と2つ目の胃の中にはたくさんの微生物がいます。
    その微生物がまず、牛が食べた飼料を分解し、発酵させて、牛がエネルギー源として使える形(短鎖脂肪酸)に変換します。
    さらに、自分たち微生物を増やし、それらが3つ目以降の胃へ、そして小腸へ流れていく過程で、牛のタンパク質源(微生物体タンパク)として利用されます。
    このように牛は、ヒトが栄養として利用できない飼料(主に草の繊維質)を、微生物の力を借りて、乳や肉を生産する仕組みを持っています。 ただ、牛の胃の中にいる微生物が飼料を分解、発酵する過程で、副産物として二酸化炭素や水素などのガスが出てきます。その水素はメタン古細菌等により利用されてメタンとなり、他のガスと一緒に呼気から出てきます。

  • Q3牛のげっぷってなんですか。

    胃の中で微生物が飼料を分解して利用する際に、二酸化炭素やメタンなどのガスが出てきます。そのガスが、胃の運動に伴って口や鼻から「ぶは~っ」と出てくる現象のことを「げっぷ」と呼んでいます。
    ちなみに、「げっぷ」は通称で、専門用語では「あいき」が用いられます。

  • Q4牛のげっぷは観察できますか。

    牛のげっぷは、いわゆるヒトのげっぷのように、「ゲホっ」と大きな音がするものはほとんどありません。
    ヒトのげっぷのようなイメージで牛を観察しても、見つけるのはマニアでも難しいでしょう。
    牛のげっぷとよく間違えられるのは、口から胃へ飲みこんだ飼料を再び口に戻す「反すう」という行動です。
    げっぷや反すうの瞬間をとらえた映像がありますので、その違いをご覧ください。
    牛のげっぷ 動画編 (2分48秒)
    牛の反すう (2分18秒)
    わかるかな??

  • Q5牛のげっぷの頻度を教えてください。

    牛の鼻先でガスを集めて秒単位でメタン濃度を測定したところ、1~2分に1回くらいメタンのピークが出てきますので、げっぷは1~2分に1回程度と考えられます。胃運動に伴って胃の中にたまったガスが押し出されていると考えられています。
    牛の鼻先でガスを集めてメタンの濃度を測定した動画がありますのでご覧ください
    牛のげっぷ グラフ編 (1分10秒)。

  • Q6家畜消化管内発酵を由来とするメタンは牛からだけ排出されているのですか。

    日本において、消化管内発酵由来メタンの95%は反すう胃を持ち胃の微生物が発酵を行う牛から排出されます。他にめん羊や山羊などの反すう家畜からもメタンは排出されます。また、草食動物の馬は盲腸の微生物が飼料を発酵・利用する過程で、そして、ヒトと同じ単胃動物であるブタは下部消化管の微生物が小腸内容物を発酵させることでメタンを排出します。

  • Q7生産農場以外で牛のメタンを減らすために貢献できることはなんですか。

    直接牛のメタンを減らすことは難しいかもしれませんが、環境に配慮した乳や肉を生産しようと取り組んでいる生産者の方の生産物を選んで購入すること、また、フードロスを減らすことが、間接的に温室効果ガスを減らすことにつながると考えられます。

  • Q8メタンの少ない牛(乳牛、肉牛)の育種はどこまで進んでいますか。
    また、それらの牛が生産した乳や肉の味、機能性になんらかの相関はありますか。

    メタンの少ない牛をたくさん見つけることで初めて育種ができますが、これまではメタンの少ない牛を見つける方法がなくて、それができませんでした。現在、メタンの少ない牛を見つける取り組みをようやく始めた段階です。同様に、メタンの多い少ないと生産物との関連を調べるのもこれからになります。以上より、メタンの少ない牛の育種はこれからであり、生産物への影響を見るのもこれからになります。

関連リンク