2011 年の東日本大震災の発生から10 年以上が経過し、福島県の原子力災害被災地では営農再開の動きが本格化してきています。しかし、基盤整備が終了し耕作可能となった農地が増加している一方で、農業経営体は大幅に減少していることから、農業の担い手不足が深刻化しています。またそのような農地では表土の剥ぎ取りや客土が行われており、土壌の物理性や化学性が不安定であるなど、排水性や地力の改善が必要な圃場が存在します。
将来的には、100ha 以上の大規模水田経営の本格的な展開が想定されており、こうした大規模経営においては、広域エリアにわたる水田の利用方法を計画的に考えながら圃場条件に応じて最適な管理手法を適用するなど、少数の担い手で大面積を経営できる省力的で収益性の高い水田輪作技術体系と経営モデルの提示が求められています。
このため、本プロジェクトでは、被災地の大面積の水田営農を担うため活用が期待される乾田直播水稲−ダイズ−子実トウモロコシの大規模輪作体系の構築、広域エリアにわたる水田の管理手法を開発することを目標としました。
農林水産分野の先端技術展開事業 (令和3~7年度)
「広域エリアを対象とした大規模水田営農における生産基盤技術の確立」成果集

本プロジェクト成果集は、上記の目標を達成するため2021 年度から2025 年度にかけて原子力災害被災地である福島県南相馬市で実証試験を行った成果を取りまとめたものです。本成果の活用により、担い手経営の安定を通して被災地農業の振興につながれば幸いです。
☘ 成果集 ( PDF 35ページ ) は こちらから
開発および実証した技術等
栽培歴
- ⮞ 複合作業型超省力多収輪作体系の栽培暦(水稲−トウモロコシ−ダイズ)
- 100ha 以上の大規模経営による大区画圃場での省力的な営農に向け、複数の作業を同時に行う複合作業とICT を活用した管理技術を体系化し、超省力で収量の高い水田輪作体系を確立しました。この体系では乾田直播水稲630kg/10a、子実トウモロコシ500kg/10a、ダイズ280kg/10a の全刈収量が得られました。
栽培技術
- ⮞ 高能率畝立て播種体系
- 比較的区画が小さく、特に移植水稲後などの排水性の悪い水田でも、畑作物を省力的かつ安定的に高い収量で生産するための栽培体系「高能率畝立て播種体系」の効果を実証しました。
- ⮞ 水稲乾田直播における除草剤散布適期判断技術
- 水稲乾田直播での収量確保に重要な雑草防除を成功させるために、ノビエを指標として除草剤の散布適期を判断するための WindowsPC 向けアプリケーションを開発しました。スマホ等の圃場写真から除草剤を散布する時期がわかります。
- ⮞ 圃場生産性ポテンシャル評価による施肥技術
- メッシュ収量や生育診断だけでなく、過去の地形面や圃場の土壌物理性(土壌硬度・土壌水分)などの環境情報も加味して、圃場内における「生産性ポテンシャル」のばらつきを評価しました。これにより水稲などの作物について、圃場を六角グリットで細分化し、環境データから予測される収量に満たないエリアを特定します。
- ⮞ 乾田直播水稲の多収のための生育指標の提示
- 乾田直播栽培によって、水稲品種「天のつぶ」精玄米重650kg/10a、「ふくひびき」粗玄米重700kg/10aレベルの多収を目指す際に、生育期中で、どの程度の生育量が必要であるかを示す生育指標値を設定しました。この生育指標値は、既に乾田直播栽培に取り組んでいて更に多収を目指す場合や、新規で乾田直播栽培に取り組む場合に肥培管理の参考として活用できます。
病虫害管理技術
- ⮞ 斑点米被害ハザードマップ
- 水稲の重要病害虫である斑点米カメムシは農地周辺の土地利用と被害・発生量に関係があります。この関係から2種のカメムシについて、被害リスクが高い区域がわかるハザードマップを作成しました。防除回数の目安がわかります。
- ⮞ 圃場凹凸把握による省力均平作業技術
- 水稲乾田直播栽培での苗立ちや除草剤効果を安定化させる圃場均平作業について、作業前の圃場凸凹を高能率に計測する手法と、凹凸を画面で確認しながら均平作業が可能なガイダンス装置を開発しました。これらにより作業の要否や優先順序の事前検討が可能となり、1日あたりの均平作業時間も2割削減できます。
- ⮞ 衛星画像を用いた圃場排水機能の評価と排水改良技術の選択基準
- 衛星画像から圃場一筆の排水機能を判断する指標を作成し、地図上に表示する手法を開発しました。これにより湿害の多い圃場を措定し、圃場の乾燥しやすさや、大豆等の収量向上等に影響する排水改良効果を予測することで、優先的に排水改良すべき圃場が分かり、効率的に排水対策を実施できます。
- ⮞ 輪作体系に導入可能な子実トウモロコシ品種の選定とその効率的乾燥および保管技術
- 東北南部において水稲−子実トウモロコシ−ダイズの水田輪作体系で栽培する条件で、他作物と作業競合の無い品種を選定しました。また、トウモロコシの生産拡大に向けて、品質を低下させずに迅速な乾燥処理(乾減率2.0% /h)を行うための体系および乾燥品の保管技術を組み立てました。
- ⮞ 水田輪作圃場で生産された子実トウモロコシを用いた肉用繁殖牛用MGS
- 子実トウモロコシを50%配合した肉用繁殖牛向けMGS( マルチグレインサイレージ) を調製し、非妊娠牛、妊娠牛ともに、配合飼料の全量代替が可能なことを明らかにしました。
- ⮞ 水田輪作圃場で生産された子実トウモロコシを用いた泌乳牛用TMR
- 泌乳牛向けTMR(Total Mixed Ration:完全混合飼料)で、配合飼料中の輸入トウモロコシを子実トウモロコシに代替が可能なことを明らかにしました。子実トウモロコシは、サイレージでも乾燥粉砕でも問題なく代替できます。
- ⮞ センシングデータを活用した圃場の生産力評価
- 被災地における100ha 規模の圃場群において、乾田直播水稲の収量に影響を及ぼす土壌、生育量、雑草発生などの圃場データを用いて収量差をもたらす要因を解析し、生産力を向上させるフローを明らかにしました。
- ⮞ 乾田直播発育予測システムの開発と活用
- 気象データから乾田直播栽培における発育ステージを予測するシステム00を開発しました。栽培管理作業や収穫の適期が予測でき、冷害や高温障害などへの対応も事前に行うことができるようになります。
- ⮞ 超省力多収水田輪作体系の経営評価
- 耕作エリアの広域化や、圃場の条件(区画の大きさや排水性)の多様性など、現地の実態を反映させた経営モデルを作成して、水田輪作体系の導入による収益向上など経営上の効果を評価しました。超省力多収輪作体系(実証体系)を導入することで、慣行体系より高い収益性を確保しながら、耕作面積を拡大することが可能になります。
- 福島県農業総合センター
- 宮城県古川農業試験場
- 国立大学法人東北大学
- 国立大学法人宇都宮大学
- 国立大学法人岩手大学
- 学校法人玉川学園
- 全国酪農業協同組合連合会酪農技術研究所
- 株式会社やまびこ

圃場管理技術
飼料化技術
※ 本成果を含む子実トウモロコシ栽培の詳しい内容は、「水田転換畑における子実トウモロコシ栽培の高速作業体系標準作業手順書(東北地方版)」(全編をご覧になるには利用者登録が必要)をご覧ください。
※ 本成果は福島県農業総合センターよりパンフレットが発行されています。入手されたい方はこちら (外部リンク:福島県農業総合センター畜産研究所) をご覧ください。
広域管理技術
経営評価
【留意事項】上記の開発技術をご自身の経営に導入していただいた場合に、必ずしも全く同じ効果が得られることを保証するものではありませんのでご承知おきください。