農研機構東北農業研究センターでは、農研機構の他の研究所や都道府県の公設試などと連携して、水田有機農業の振興に取り組んでいます。このコンテンツでは、研究プロジェクトの成果を中心に開発技術について随時紹介します。
戦略的スマート農業プロジェクト「水田有機農業」の研究成果
「省力除草、安定生産の水田有機栽培体系の実証と支援アプリケーションの開発」成果集

「みどりの食料システム戦略」では、「有機農業の取組面積を2050年までに耕地面積の25% (100万ha) に拡大」が目標となっており、その実現には、耕地面積の多い水田での有機水稲や有機大豆作の取り組みが不可欠です。また、有機農産物の生産強化を図っていくうえでは、国内のみならず海外での需要を踏まえたマーケティングが重要であり、有機米などの輸出拡大も視野に入れていく必要があります。
一方、有機農産物の生産現場では、除草剤が使えないため除草作業に多大な労力を要することや、家畜ふん堆肥や油かすなどの有機質肥料では化学肥料を用いる場合に比べて収量が低下しやすいことが長年の技術的課題となってきました。
そこで、R4 (2022) ~R6 (2024) 年度の戦略的スマート農業プロジェクトSA2ー106R「省力除草、安定生産の水田有機栽培体系の実証と支援アプリケーションの開発」 (以下、戦略的スマ農プロ「水田有機農業」) では、これらの課題解決に向け、東北 (寒冷地) と九州 (暖地) の両地域において、両正条植え技術に直交機械除草を組み合わせた雑草対策、および有機質肥料による施肥設計を支援するアプリ開発を核とした技術開発に取り組みました。
本プロジェクト成果集は、その研究成果を取りまとめたものです。本成果の活用により、有機農業の取組拡大につながれば幸いです。
開発および実証した技術等
- ⮞ 日本産有機米・有機大豆の海外における需給と輸出拡大に向けた条件
- 有機米や有機大豆、および加工食品の輸出可能価格、目標とする生産費、経済効果を明らかにするため、新たな有機食品の海外市場として、シンガポールを対象とした有機味噌の現地市場調査を行いました。また、世界全体の有機米・有機大豆の栽培面積から輸出の需要を推測しました。
- ⮞ 両正条植え水稲圃場における高能率除草技術
- 従来の機械除草では移植作業と同じ方向にしか作業ができず、株間に雑草が残りやすい課題がありました。そこで、ほ場全体で30cm 間隔の碁盤目状に苗を移植 (両正条植え) し、移植作業と直交する方向に除草 (直交除草) を行うことで、除草効果を向上させる技術を開発しました。
- ⮞有機水稲栽培における有機質資材肥効見える化アプリ
- 有機栽培では、窒素の肥効を見誤り、施肥窒素量の過不足によって、生育不足や倒伏を招き、減収が起こることも少なくありません。そこで、リン酸、カリの肥効に加えて、有機質肥料の窒素肥効 (無機態窒素生成量) を推定するweb アプリ「有機質資材の肥効見える化アプリ (水田版) 」を開発しました。
- ⮞ 欠株率や収量性を考慮した乗用除草機導入の適正な圃場区画
- 乗用除草機による機械除草作業では、車輪による踏みつぶし等により、枕地を中心に欠株が発生しやすく、後発雑草の発生や減収につながりやすい問題がありました。そこで、乗用除草機の旋回部分と直進部分の欠株率や、欠株率と収量との関係により、減収10%以内を目標とした両正条疎植条件での乗用除草機導入の適正な圃場区画を明らかにしました。
- ⮞ 積算気温に基づく機械除草時期の指標
- 雑草の成長は気象条件によって異なるため、従来の暦日による管理では除草時期が遅れて雑草が残りやすい課題がありました。そこで積算気温を用い、雑草の生育に基づいた機械除草時期の指標を作成しました。
- ⮞ 排水性の向上や土づくりのための緑肥栽培技術
- 水田輪作の有機大豆作では、排水性改善や砕土率向上が課題です。水稲後の作付けでは排水性の改善が課題であり、砕土率向上は雑草防除に欠かせません。また、大豆作は地力が消耗しやすいことも課題です。そこで、これらの対策として、水稲後に緑肥を導入し、排水性と地力を向上させる技術を開発しました。
- ⮞暑さや病害虫に強く多収な水稲品種「秋はるか」
- 近年の暖地の水稲作では、平野部ではトビイロウンカの被害、中山間地ではいもち病の被害が拡大しており、化学農薬を使用できない有機栽培では深刻な被害が懸念されます。そこで、トビイロウンカ抵抗性・いもち病抵抗性を持ち、さらに暖地で必要とされる高温登熟性が優れる品種「秋はるか」の両正条植えによる疎植条件下での病害虫の被害軽減効果を明らかにしました。
- ⮞ 寒冷地および暖地における現地実証試験と経済評価
- 上記の技術を組み合わせた栽培体系を寒冷地と暖地で実証しました。寒冷地での水稲―大豆輪作体系の実証では、新規導入技術の労働時間と収支(収益と生産費)を調査しました。
※ 上記の開発技術をご自身の水田作に導入していただいた場合に、必ずしも同じ効果が得られることを保証するものではありませんのでご承知おきください。
戦略的スマート農業プロジェクト「水田有機農業」参画機関
研究代表機関
- 農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)
- 東北農業研究センター
- 九州沖縄農業研究センター
- 農業機械研究部門
- 植物防疫研究部門
共同研究機関
佐賀県農業試験研究センター
成果についての問い合わせ先
農研機構 東北農業研究センター 研究推進部 事業化推進室
Tel : 019-643-3481 (直通)
Eーmail : jigyoka_form@@ml.affrc.go.jp (メール送信の際は@を一つ削除してください)