はじめに
イネの品種改良には現在、母親になるイネの「めしべ」に父親になるイネの「花粉」を振りかけて交配をおこない新しい品種をつくる交配育種法が主に使われています。それでは交配作業の様子を勉強しましょう。
1. 母親の準備
1. 母親にするイネの花粉を働かなくなるようにします。
「交配育種法」は、人工的に父親の花粉を母親のめしべにかけて、種を実らせる方法です。しかし花粉を受ける母親もイネですから自分の花粉を持っています。そのため、そのままにしておくと自分の花粉で交配してしまい、父親の花粉と交配することができません。そのため、前もって母親の花粉を取り除いておくか、花粉が働かなくなるようにしておかなければなりません。左の写真は、「温湯除雄法(おんとうじょゆうほう)」といってイネの花(穂)を約43℃のお湯に7分間つけておいて、花粉だけを働かなくさせる作業の様子です。お湯につけてもめしべは正常に働きます。この方法を前もって行うことで、母親のめしべに父親の花粉を確実に交配することができるようになります。この方法が開発される前は、イネの花のひとつひとつから、6本あるおしべをピンセットで、ていねいに取り除いていました。風呂おけのような温湯除雄装置のお湯に逆さにして穂を浸します。
2. 咲いていない花を取り除きます。
「温湯除雄法」によって母親の花粉を働かなくしたら、イネの花が咲くのを待ちます。イネの花は一つの穂に約80個ついていて、花によって数日咲く日がずれています。そのため、すでに自分の花粉で受粉してしまって咲かない花があります。このような花が残っていると、父親を交配したものと区別できなくなってしまいますので前もって取り除いておきます。また時期が早すぎて咲かない花もあります。このような花も父親と交配することができないので取り除いておきます。下の写真は、これらの花を取り除いているところです。
咲いていない花を丁寧に取り除く
母親の準備完了!
2. 父親(花粉親)の準備
1. 穂の採取
父親になるイネの穂を10本程度、交配当日の朝に、イネの花が咲く前に集めます。気温が高いときには、早めに集めます。下の写真はイネの花が咲いているところです。
2. 花を咲かせる
集めた穂は、適当な長さで水切り(水中で切断)を行い、水を吸いやすく、花が咲きやすくなるようにします。そして27℃以上の明るいところにおいておき、花が咲くのを待ちます。花は9時~10時くらいに咲き始めます。
花があるていど咲いたら、次はいよいよ交配です。
穂を集める
咲く前の花
花が咲くのを待つ
3. 交配
いよいよ交配です。
まず父親の花が咲いている穂の根本をそっと持ちます。母親の花に近づけて、写真のようにそっと小さく振ります。花粉が飛んで、母親の花に降りかかれば交配はひとまず成功です。
この時、花粉が遠くに飛ばないように、閉めきった部屋で風を起こさないように作業をしなければなりません。交配は主に夏の暑いときに行いますので、閉めきった部屋での作業はとても大変です。
またイネの花は咲き始めてから1~2.5時間程度で閉じてしまうため、手際よく準備や交配を行わなければなりません。
交配(母親に花粉を振りかける)
花粉の飛散(イメージ)
4. 交配後の管理
1. 袋をかける
交配が終わった後は、他の花粉が自然にかからないように、写真にように直ちに穂(花)に袋をかけます。
また交配の組合せを忘れないように、父親と母親の組合せを書いたラベルをつけておきます。
花が閉じた後は、袋を長くかけておくとカビが生える場合があるので袋は取り外します。
袋をかけラベルをつける
2. 管理
交配が終わったら、ガラス室などスズメが来ない日当たりの良い場所で管理します。
種が実ったら収穫をします。そのときに組合せを間違えないように、交配のときにつけたラベルも収穫用の袋に入れておきます。
日当たりの良いところで管理
1週間くらいして光に透かすと、子房(お米)が生長しているのが見える。
以上で交配作業は終わりです。稲の品種改良について、もう少し勉強したい人は「お米(稲作)のよくある質問集 Q&A」の品種改良をご覧ください。