はじめに
「交配」の最終的な目的は、両親の良い特徴どうしを組み合わせた新しい品種をつくることにあります。しかし「交配」でできた種は、両親の良いところだけでなく、悪いところも持っています。その種をまいて育てたイネにはたくさんの種がみのります(1粒の種から約1,200粒の種ができます)。これらの種は、1つ1つが少しずつちがう兄弟になっています。背が高いものや低いもの、お米がたくさんとれるもの、少ししかとれないものなどです。
上の写真は、同じ両親からできた兄弟たちです。見たとおり、同じ親からできても、穂が白いものと赤いもの、穂がまだ出ていないものやすでに穂が傾き始めているものなどいろいろです。今あげたのは、見た目で分かる例ですが、見た目で分からないような特徴、たとえば「病気に対する強さ」「寒さに対する強さ」などについても同じようにいろいろな特徴をもった兄弟がうまれます。これらのたくさんの兄弟の中から(ふつうは、数千くらい)、品種改良の目標に合うものを選んでいきます。この作業を「選抜(せんばつ)」と言います。それでは実際に、それぞれの特徴についてどのように目標にあったものを選抜しているの勉強していきましょう。
- 寒さに強いイネ ・・・たくさんお米が実るイネ
- 病気に強いイネ ・・・品質が良いお米が実るイネ
- おいしいお米が実るイネ ・・・バイオテクノロジーでイネを選ぶ
寒さに強いイネを選ぶ
1993年や2003年には、イネが育つ夏の気温が上がらず、お米が十分に実らない「冷害」が起こりお米が不足しました。このように気温が上がらず寒い夏が来ても、しっかりとお米が実るような寒さに強いイネを作ることは東北農業研究センターの品種改良の大きな目標になっています。
水を深く張った田んぼで冷たい水(約19℃)を流している様子
寒さに強いイネを選ぶときは、イネを実際に寒い環境で育てます。このときよく用いられる方法が、「恒温深水法(こうおんふかみずほう)」(上の写真)です。この方法は、水を深く(20~25cm)はった田んぼに冷たい水(約19℃)を流しつづけるという方法です。この作業をイネが寒さに一番弱い時期を中心に行うことで、イネの寒さに対する強さを調べ、寒さに強いイネを選ぶことができます。
寒さに強くお米がたくさん実ったイネ
寒さに弱くお米がほとんど実っていないイネ
「ひとめぼれ」や「コシヒカリ」などは、現在普及している品種の中では、特に寒さに強い品種です。しかし2003年の冷害では、寒さに強い「ひとめぼれ」でも余りお米が実らなかった地域もありました。今後は、さらに寒さに強いイネの育成を目標に頑張っています。
病気に強いイネを選ぶ
イネの病気でもっとも恐ろしいのが「いもち病」です。いもち病はカビの仲間によって起こされる病気で、イネの葉に感染する「葉いもち」と穂に感染する「穂いもち」があります。特に穂いもちに感染すると穂に栄養が送られず、お米が実らなくなってしまい収量に大きな影響をあたえます。また「葉いもち」に感染すると「穂いもち」に感染しやすくなります。
今回は、この「いもち病」に強いイネを選ぶ様子を、写真で勉強しましょう。
この写真は、「穂いもち」にかかって、穂全体が白くかれてしまったイネの様子です。
1.葉いもち
「葉いもち」に対する強さを調べるときに、よく使われる方法が「畑晩播検定法(はたばんぱけんていほう)」です。この方法は水田ではなく、畑の状態のところにたくさん肥料を与えて調べたいイネの種を1列づつ播いて育てる方法です。このような条件でイネを育てることで、「葉いもち」がたくさん出やすくなります。
このように「葉いもち」がたくさんでやすい条件のもとで、イネを育て、病気にあまりかからず、しっかりと育っているイネを「葉いもち」に強いイネと判断します。
右の写真は、「畑晩播検定」の様子です。左側のイネは、葉いもちに強いイネで元気に育っています。右側のイネは、葉いもちに弱いイネで、病気のため葉が茶色く枯れてしまっています。
葉いもち強(左)~弱(右)
2.穂いもち
「穂いもち」に強いイネを選ぶときは、「葉いもち」のときと同じように、「穂いもち」が出やすい条件でイネを育てます。東北農業研究センターでは下の左側の写真のように、調べたいイネを一列づつならべて、それを取り囲むように、病気に弱いイネを植えます。そうすることで、「いもち病」の菌がたくさん増えて病気にかかりやすくなります。
右下の写真は、少々分かりずらいのですが、3列イネがあり、真ん中の列のイネがもっとも「穂いもち」(白くなっている穂)が出ていて、右の列のイネはほとんど病気がでていません。
このようにして「穂いもち」に強いイネを選んでいます。
穂いもち検定圃場の様子
穂いもち3系統の比較左(中)中(弱)右(強)
おいしいお米を実らせるイネを選ぶ
おいしいお米が実るイネを選ぶには、実際にご飯を炊いてみて、おいしいかどうか調べます。ご飯のおいしさはご飯のねばりと密接に関係していて、多くの日本人にとってねばりが強いご飯はおいしく感じられます。そのため、ご飯のおいしさの基準として「ねばり気」を一つの重要なポイントとしています。そのほかのおいしさのポイントとしては、「甘み」「柔らかさ」「香り」があります。またご飯の見た目「光沢(つや)」も重要になります。東北農業研究センターでは、「光沢」と「ねばり気」とその他全部をふくめた「総合」の3項目を調べています。それでは実際にどのように行っているか写真をみながら勉強していきましょう。
1.
おいしさをしらべるとき、一つの品種だけでは、ねばりや光沢が優れているのかどうか判断できません。そのため「あきたこまち」や「ひとめぼれ」など、すでにある品種を「基準」として、それと比べてねばりが強いのか弱いのか、光沢があるか無いかなどを調べます。
上の写真の「基」と書いた釜(かま)が基準となる品種で、1~3は調べたい新しいイネのご飯の釜です。このとき、どの番号の釜に、何のご飯が入っているか分かっていると正しい判断ができないので、食べる人には分からないようにします。
2.
上の写真のように、番号を書いた皿の上に、釜の番号どおりにご飯を適量もります。
3.
お皿にご飯を盛ったら、いよいよ試験です。基準のご飯と比べて、それぞれ「光沢」「ねばり気」「総合」がどうなのかしらべます。まず目で見て「光沢」が基準よりよければプラスの方に○をつけます。つぎに食べてみて、基準より「ねばり気」がつよければ、プラスの方向に“○”を、「総合」もよければプラスの方に“○”をつけます。
4.
このテストを何人かで行い、集計して全体的に点数が高いものをおいしいご飯だと判断します