外来雑草を警戒して被害を防ぐための飼料用トウモロコシ畑における雑草リスク評価法

要約

本評価法は、サイレージ用と子実用のトウモロコシ栽培において、雑草の雑草性評価と防除可能性評価を組み合わせて雑草リスクを評価するものである。子実用トウモロコシ栽培では多くの雑草種で雑草リスクがサイレージ用トウモロコシ栽培より高く、早急な対策が必要であることがわかる。

  • キーワード:外来雑草、飼料畑、雑草リスク評価、早期警戒システム
  • 担当:中央農業研究センター・生産体系研究領域・雑草制御グループ
  • 代表連絡先:電話 029-838-8514
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

1980年代後半から全国の飼料畑や水田転換畑を中心に多種多様な外来雑草が侵入し、深刻な被害をもたらしている。外来雑草対策の基本である侵入防止、早期発見、早期対策のため、農研機構は外来雑草早期警戒システムを開発している。ここで中心的な位置づけとなる雑草リスク評価法は、作物ごとに作成する必要がある。そこで、外来雑草の侵入・被害が著しい飼料用トウモロコシ畑で、以前から栽培されているサイレージ用トウモロコシと近年栽培が増加している子実用トウモロコシそれぞれについて雑草リスク評価法を開発し、外来雑草の警戒と被害防止に役立てる。

成果の内容・特徴

  • 農耕地における雑草リスク評価(WRA; Weed Risk Assessment)は、個々の雑草種について、侵入可能性評価をした後、雑草性評価の評点合計に防除可能性評価の評点合計を1から除した値を掛け合わせることで、雑草リスク評価値(以下、WRA値)を算出して評価する(表1)。侵入可能性評価は、輸入飼料を介して侵入する経路を想定するので、作物の種類によらず同じとなる。
  • WRA値を算出するための雑草性評価と防除可能性評価の項目はサイレージ用トウモロコシと子実用トウモロコシの栽培に即してそれぞれ設定する(表1)。雑草性評価は、雑草の発生の特徴や分布拡大能力に加えて作物栽培での雑草害を評価しており、項目の一つである収穫時期は、サイレージ用では9月上旬、子実用では10月上旬とし、品質低下に関する項目はサイレージ用のみに設定している(表1)。
  • 本評価法の有効性は、既知の38種の雑草について、雑草分野と飼料作物栽培分野の専門家によって雑草としての問題の大きさを10段階で評価した結果と本評価法によるWRA値を比較することで検証し、順位相関係数が95%信頼区間内で相関が高いことから、有効と判断される(図1)。
  • サイレージ用トウモロコシ版と子実用トウモロコシ版のそれぞれの評価法で38種の雑草を評価すると、子実用では、多くの雑草種でWRA値がサイレージ用よりも高く、特に特定外来生物に指定されているアレチウリの値が高い(表2)。これは、主として子実用では収穫時期が遅くなるため、多くの雑草種が結実したりして繁殖体を形成してしまうことによる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本評価法によって、今後侵入しうる外来雑草のリスクを事前に評価し、雑草リスクが高い雑草種への警戒強化を啓発することで被害の未然防止および防除対策を促すことができる。
  • 子実用トウモロコシ栽培では多くの雑草種の雑草リスクが高いので、子実用トウモロコシ栽培の導入にあたっては、外来雑草への警戒を強め、早急に被害防止対策をとる必要がある。
  • ヨウシュチョウセンアサガオは種子を含む雑草全体に猛毒があり、サイレージ用では混入する可能性があるため雑草リスクが高いが、子実用でも本種の種子が混入したまま飼料に使われる可能性がある場合には、雑草リスクが高くなり、大きな問題となる。
  • 同じ雑草種でも、地域によって気候や作物の栽培様式が異なることで、雑草リスクが異なる可能性があるため、各地域の実情に応じ、より詳細な評価の実施がのぞましい。

具体的データ

表1 サイレージ用トウモロコシ版と子実用トウモロコシ版の雑草リスク評価(WRA)*1の評価項目,図1 雑草38種のサイレージ用トウモロコシ版雑草リスク評価法による評価と専門家による評価の比較,表2 サイレージ用トウモロコシ版と子実用トウモロコシ版の各評価法による雑草種のWRA値の相対値*1での比較

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2016~2018年度
  • 研究担当者:黒川俊二、澁谷知子、浅井元朗、好野奈美子、小林浩幸、井原希、伏見昭秀、大段秀記、小荒井晃
  • 発表論文等:
    • 黒川ら(2015)雑草研究、60:101-106
    • 黒川(2019)雑草研究、64:91-94