高品質なカンキツ果実を生産するためのシールディング・マルチ栽培(S.マルチ)

要約

S.マルチは排水設計した園地において、専用のS.シートでうねごとに根圏のシールディング(shielding, 遮蔽すること)を行い、シートマルチ栽培を行う技術である。従来のシートマルチ栽培の問題点である根域への雨水流入と、マルチ外への根の伸長を防ぐことで、樹体に好適な乾燥ストレスを付与し、高品質果実の安定生産ができる。

  • キーワード:高品質果実、乾燥ストレス、高糖度、シートマルチ栽培
  • 担当:果樹茶業研究部門・カンキツ研究領域・カンキツ栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

温州ミカンなどのカンキツは、高糖度で酸味も程よい果実を高品質果実とし、産地ではこのような果実をブランド化して販売している。高品質果実は、根圏土壌を適度に乾かして樹体に乾燥ストレスを付与することで生産される。そのため生産現場では、樹冠下の地表面をマルチシートで被覆するシートマルチ栽培(マルチ栽培)が普及している。しかし、マルチ外から根圏土壌に雨水が流れ込むことや、樹冠拡大とともにマルチ外まで伸びた根のために十分な乾燥ストレスが付与されず、高品質果実が安定して生産されていない事例が多くみられる。
そこで、本研究では、高品質果実の安定生産を目的に、排水設計した園地において、防水性・防根性・自立性を有する専用シート(S.シート)を根圏の周囲に埋設したうえでマルチ栽培を行うシールディング・マルチ栽培(S.マルチ)を開発し、その効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 本技術は、列植えで高さ20~40cmのうねと2%以上の通路勾配を利用して排水できるように設計された園地において、S.シート(ポリエチレン製、厚さ1.5mm×幅550mm×長さ30m)を地表面マルチ外周部のやや内側に埋設したあと、マルチシートでうねを被覆する(図1)。これにより列長50mまでであれば、水理計算上、80mm/hの降水量でも根域に雨水が入らない設計である。あわせて、乾燥ストレスの調節のため、灌水チューブを地表面マルチ下に敷設する。
  • 従来のマルチ栽培(通路は未被覆)では乾燥ストレス付与が不十分な園地でも、S.マルチでは高品質果実に好適なレベルの乾燥ストレス(葉内最大水ポテンシャル:-0.7~-1.0MPa)を付与することができる(図2)。
  • S.マルチを導入すると、温州ミカンの一般的な高品質果実の糖度基準である12度を超える果実が連年で生産される(表1)。果実の大きさは、やや小玉化する傾向がある。4.S.マルチの10アール当たりの導入コストは、生産者が施工する場合、資材費(S.シートと灌水資材一式)と機械レンタル料を合わせておよそ32万円である(表2,地表面マルチ一式の費用を除く)。業者に施工を委託する場合は、加えて20~22万円程度要する。

普及のための参考情報

  • 普及対象:カンキツ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:カンキツ生産地
  • その他:
    • 既存園でも、排水に適した通路勾配とうねがあれば改植の必要はなく、すぐに導入できる。
    • S.マルチは、通路を被覆する全面マルチと異なり、スピードスプレーヤーなどの機械管理の妨げとならない。
    • S.マルチの1樹当たりの土量は約2700L(樹間2mの場合)で、一般的な根域制限栽培の土量に比べて4倍以上である。よって、根域制限栽培で問題となりやすい土量不足による樹勢や収量の低下はないと考えられる。
    • S.シートは日本園芸農業協同組合連合会で取り扱っている。
    • S.シートの埋設部分はほとんど劣化せず、地表面の露出部も長期の利用に耐える仕様である。
    • S.マルチに係るS.シートの規格と施工ならびに栽培管理方法について特許出願している。

具体的データ

図1 S.マルチの概要,図2 S.マルチが樹体の乾燥ストレスに及ぼす影響,表1 S.マルチ導入後の収穫時の果実品質,表2 S.マルチの導入コストの例(10アール当たり)

その他