被害多発地でもビワ生産を可能にする「ビワキジラミ防除のための総合技術マニュアル」

要約

ビワの新害虫ビワキジラミがまん延した地域においてもビワ生産を可能にするための対策技術を解説するマニュアルである。秋季(開花初期)と春季(袋かけ前)の基幹防除と、夏季(収穫後)の応急防除からなる体系防除を実施することにより、被害果率を1割以下にまで低減できる。

  • キーワード:侵入害虫、生態、モニタリング、識別、防除体系
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ病害虫ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ビワキジラミは、2012年に国内で初めて確認されたビワの新害虫で、発見時には未知の害虫であったために、対策技術のメニューが十分ではなく、発生域と被害が急速に拡大している。そこで、ビワキジラミの早期発見と密度抑制によってさらなる拡散を防ぎつつ、すでにまん延した被害多発地域でもビワ生産を可能にするため、ビワキジラミの生態や分布状況、被害の特徴、高効率のモニタリング法、高精度の遺伝子診断法、効果的な体系防除技術等の技術情報を分かりやすく解説するマニュアルを作成・公開する。

成果の内容・特徴

  • 本マニュアルは、ビワキジラミの生態、分布、モニタリング、識別、防除等にかかる最新の知見と技術的成果を生産者・指導者向けに分かりやすく解説するものであり、農研機構ウェブサイト上で公開している(図1)。
  • ビワキジラミの年間世代数は5世代程度で、年間を通してビワ樹に寄生するが、5~6月頃に最も密度が高い(図2)。7月中旬~8月の盛夏は、成虫が樹冠内部の日陰で休眠するため生息確認が難しい。2020年8月末時点で徳島県、香川県、兵庫県、和歌山県で発生しており、2012年の初確認後、平均して年間に7~10km程度の速度で分布を広げている。
  • 成虫は、黄色に強く誘引される。新梢や花(果)房が多い枝先付近に多く寄生するため、黄色粘着板をビワの枝先近くに設置することで効率的な成虫のモニタリングが可能である。特に密度が高い5月頃が発生確認に適している。成虫の活動が鈍る盛夏とその後の幼虫期は粘着板での捕獲が難しいが、ほぼ年間を通して黄色粘着板による調査が可能である。
  • キジラミ類は微小で、見た目での識別が難しいが、PCR法による遺伝子診断が可能である(図3)。また、多数の昆虫類が捕獲された粘着板1枚を丸ごと検定するマス(多頭)検定法を行うことで、迅速かつ効率的な診断を行うことができる。
  • ビワキジラミの防除には、2020年8月末時点で6種類の農薬が使用可能である。本マニュアルでは、秋季(開花初期)のピリダベン水和剤(サンマイト水和剤)と春季(袋かけ前)のジノテフラン水溶剤(スタークル顆粒水溶剤・アルバリン顆粒水溶剤)の散布を防除体系(防除暦)の柱とし、農薬への機能性展着剤の加用や、散布量、散布方法等の防除効果を高めるノウハウを解説している(表1)。
  • 収穫後にビワキジラミの密度が高い場合や、苗木新植時の予防的な散布等においては、即効性で卓効があるDMTP乳剤(スプラサイド乳剤40)が応急的に利用可能である。
  • ビワキジラミ多発地における実証試験の結果、本マニュアルのビワキジラミ体系防除によって、収穫時の被害果率(無防除や従前の防除では96%以上)を1割以下にまで低減できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ビワキジラミが発生している産地の、ビワ生産者、JA指導者、普及指導機関等。
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:ビワキジラミ既発生県のビワ栽培園(約145ha)。
  • その他:
    農研機構のウェブサイトでは、ビワキジラミと被害の概要、早期発見のための見分け方のポイント、ビワ産地で発生した場合に緊急に密度を下げるための防除法など、初動として取るべき対応策を分かりやすく紹介する「ビワの新害虫ビワキジラミの初動対応マニュアル」も公開している。防除にあたっては、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)のウェブサイト等で、常に最新の農薬登録内容を確認する。

具体的データ

図1 ビワキジラミ防除のための総合技術マニュアル(改訂版),図2 ビワキジラミの生活環(ビワ樹上での1年の生態),図3 粘着板に捕獲されたビワキジラミとその他キジラミ(ベニキジラミ)のPCR診断結果,表1 ビワキジラミ防除体系構築のポイント

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業、イノベ創出強化)
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:
    井上広光、兼田武典(徳島農総技セ)、中西友章(徳島農総技セ)、中野昭雄(徳島農総技セ)、山田量崇(徳島県博)、相澤美里(香川農試)、氏家章雄(香川農試)、遠藤温子(香川農試)、掛鯛吉洋(香川農試)、川西健児(香川農試)、生咲巖(香川農試)、高畑宏基(香川農試)、藤村俊夫(香川農試)、山田英尚(香川農試)、中村裕彦(香川県農業経営課)、伊藤博章(愛媛農水研)、井上智絵(愛媛農水研)、大西論平(愛媛農水研)、小川遼(愛媛農水研)、崎本孝江(愛媛農水研)、﨑山進二(愛媛農水研)、篠崎毅(愛媛農水研)、松崎幸弘(愛媛農水研)、宮下裕司(愛媛農水研)、毛利幸喜(愛媛農水研)、村上要三(愛媛農水研)、山本智樹(愛媛農水研)、渡邉湧也(愛媛農水研)、朝比奈泰史(高知農技セ)、佐藤敦彦(高知農技セ)、宗石佳奈(高知農技セ)、山下泉(高知農技セ)、高田裕司(長崎防除所)、竹邊桂(長崎防除所)、勘代博文(和歌山果試)、中一晃(和歌山果試)、松山尚生(和歌山果試)、渡邊丈夫(JA香川)、阿部成人(徳島大)
  • 発表論文等: