わい化栽培リンゴ「ふじ」での着色向上のための窒素施肥基準の策定

要約

わい化栽培「ふじ」における着色を考慮した窒素施肥基準を策定した。これまでの慣行窒素施肥量から、栽培地域の年平均気温により区分した必要施肥量に削減することで、収量や果実品質を低下させることなく、わい化栽培での「ふじ」果実の着色向上が期待できる。

  • キーワード:温暖化、窒素施肥、着色向上、リンゴ
  • 担当:果樹茶業研究部門・ブドウ・カキ研究領域・ブドウ・カキ栽培生理ユニット
  • 代表連絡先:
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

近年、温暖化の影響によるリンゴ果実の着色不良が問題となっている。赤いリンゴ果皮の色素であるアントシアニンの生成は高温で抑制されるため、温暖化の進行により夏季から収穫期までの気温上昇が着色不良の発生要因となっているが、窒素施肥の過多によっても着色不良が発生することが知られていた。窒素施肥量は樹体生育、果実生産に影響することから、むやみな施肥削減は避けるべきではあるが、収量や果実品質を低下させることなく、新たなコストを発生させることなく取り組める着色向上技術としての窒素施肥基準を策定する。

成果の内容・特徴

  • 青森県、秋田県、長野県、茨城県において、わい化栽培「ふじ」に対する5年間の窒素施肥試験を行ったところ、果実が徐々に着色していく夏季から収穫時期までの気温が高いほど、「ふじ」の果皮の着色は低下する(図1)。
  • 図1で得られた温度と着色の関係から、8月から収穫までの平均気温を18°C条件下になるように補正すると、これまでの施肥基準の施肥量(10~15 kg/10a)と比べ、施肥量を0~6 kg/10aに削減すると着色がカラーチャート値(CC)で約0.4向上する(図2)。
  • 5年間、4地域での栽培試験の結果からは窒素施肥削減による生産量や果実品質の低下、ならびに樹勢の低下は認められないことから、窒素施肥量が0~6 kg/10aであっても生産性は維持できる。ただし、園地や栽培年数によっては状況が異なることが考えられるので、年ごとに樹勢を確認する必要がある。
  • 策定した窒素施肥基準は、わい化栽培「ふじ」の生産地域での年平均気温ごとに施肥量を設定し、樹勢の強弱から施肥量を加減するものである(表1)。これまでの各県の施肥基準と比較すると、場合によっては半減よりも少ない施肥量となる。樹勢は樹相診断基準に沿って行い、基本的には新梢長と葉色で判断し、必要に応じて葉中窒素濃度を分析する(表2)。
  • 一般的に施肥時にはリン酸とカリウムも施肥するが、多くの樹園地ではそれらの養分が過剰に蓄積していることから施肥量を設定していない。リン酸とカリウムの施肥量についてはこれまでの施肥基準を参考にしつつ、各園地の土壌診断に基づいて適正量を決定していくことが望ましい。

普及のための参考情報

  • 普及対象:リンゴ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:
    全国のリンゴわい化栽培面積(13,000ha)のうち、「ふじ」を栽培している樹。
  • その他:マニュアル、普及誌、講演で周知を図っているところである。

具体的データ

図1 果実着色時期の平均気温と表面色との関係,図2 窒素施肥量と表面色との関係,表1 リンゴ果皮の着色を考慮した窒素施肥基準,表2 わい化栽培リンゴ「ふじ」の樹相診断基準

その他

  • 予算区分:委託プロ(温暖化適応・異常気象対応)
  • 研究期間:2015~2020年度
  • 研究担当者:
    井上博道、澤田歩(青森県産技りんご研)、佐藤善政(秋田県果樹試)、中澤みどり(秋田県果樹試)、小松正孝(長野県果樹試)、伊藤正(長野県果樹試)、土田河(長野県果樹試)、草塲新之助
  • 発表論文等:
    農研機構(2020)「わい化栽培のリンゴ「ふじ」における着色向上のための窒素施肥マニュアル」(2020年2月26日)