安価かつ簡便にハウスの遠隔監視に使えるIoT機器「通い農業支援システム」
要約
通信機能付きマイコンと小型パソコンを組み合わせ、配布プログラムを利用する本システムで、ハウスの状態を遠隔地でも生産者がスマートフォンで確認できる。材料費2万円でハウス内の温度等を定期的に確認し、取得データは平均値やグラフなど生産者が利用し易いように変更できる。
- キーワード:遠隔監視、IoT、施設園芸、営農再開
- 担当:東北農業研究センター・農業放射線研究センター・営農再開グループ
- 代表連絡先:
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
福島の震災地では、大規模水稲生産法人や風評被害を受けにくいハウス農家が先行して営農再開しているが、労働力の確保や担い手不足の問題は被災地では顕著である。また、生産者の管理するハウスの分散や、居住地から離れた場所へ「通い農業」を行っている事例もあり、遠隔地での農業再開のためには何らかの支援策が必要である。一方で、市販のハウス遠隔監視システムは、通年で運用することを前提としており、コスト的に被災地での運用には見合わない。「通い農業」を持続的に支援できる技術として、安価かつ簡便に運用できるIoT機器が生産現場に求められる。ハウスごとにマイコンと温度センサを設置し、センサネットワークシステムを構築するには、IoTに関する知識全般のほかWebサーバの構築またはクラウドサービスの契約が必要であり、困難である。しかし、通信機能付きマイコンを格安 SIMによるWi-Fiに接続し、データ取得用およびメッセージ通知用のWeb APIを利用した配布プログラムを小型パソコンで実行することで、ハウス温度等の遠隔監視を実現する「簡便かつ安価なハウス遠隔監視システム(通い農業支援システム)」を構築することができる。ここでは、その作成方法をとりまとめ公開する。
成果の内容・特徴
- 本システムは、一定の知識があれば、ハードについては市販品の組み合わせ、ソフトについては配布プログラムを利用することで、水稲育苗ハウスや園芸ハウスの温度等の情報を遠隔監視する装置を作ることができる(図1)。
- 配布プログラムは、データ取得およびメッセージ通知を行うために必要なセンサ固有のURLを書き換えることで使用でき、固有のURLはスマートフォンで取得できる(図2)。
- データを取得する間隔を任意に設定でき、定期通知のほか栽培上の異常値が発生した場合は警報通知を行う。通信エラー時はデータを取得するために再実行するほか、エラーの原因を通知することで電源の確認などの保守を実施できる。また、取得したデータは小型パソコンRaspberry PiにCSV形式で保存し、日平均値や最大値、最小値やグラフをユーザーのスマートフォンに通知することができる(図3)。
- 温度や湿度、土壌水分などのセンサは生産者の用途に応じて選択でき、農業用途として十分な精度である。
- マイコンと温度センサを1組製作するのに材料費約4千円、温度センサを1つ設置した際の1棟分のハウス遠隔監視システム一式の材料費は約2万円であり、生産者へのアンケート調査による希望価格2万円以内で製作できる。通信費は月に約千円である(表1)。
- スマートフォン向けのメッセージアプリに通知することができるため、家族や法人内で情報や指示を共有できる。
普及のための参考情報
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、その他外部資金(地域再生、資金提供型共同研究)
- 研究期間:2017~2020年度
- 研究担当者:山下善道、稲葉修武、内藤裕貴、根本知明(福島県農総セ)、金井源太、星典宏
- 発表論文等: