圃場整備前の地形情報に基づく棚田の地下水流動系の分類

要約

圃場整備前後の地形改変の情報をもとに、棚田における地下水流動系を分類できる。盛土箇所では深部からの湧き出しや周囲の地下水を集水しやすいため地下水位が高く、切土箇所では排水性が良いため地下水位は低い。圃場整備前の地形情報から地下水位の潜在的な高低を評価できる。

  • キーワード:地下水、棚田、排水対策、圃場整備
  • 担当:西日本農業研究センター・生産環境研究領域・土壌管理グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

棚田で畑作物を栽培する際に、営農的な排水対策を実施しても十分な効果が発揮されず、湿害が発生する圃場がある。このため、排水対策の効果に差が生じる要因の解明と、それに基づく排水対策手法の策定が求められている。一般に湿害は高い地下水位が原因で生じる場合が多く、地下水の流れを事前に把握することは中山間地での排水対策手法を策定する際の重要な情報となる。そこで、本研究では圃場整備前の地形に着目して地下水の流れの特徴を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 圃場整備後の地下水流動系は、地形改変により、盛土造成箇所では圃場整備前の地表面の下部(タイプI)および上部(タイプII)、そして切土造成箇所(タイプIII)の3つのタイプに分類される(図1)。
  • 盛土造成箇所の圃場整備前の地表面の下部は、浅井戸よりも深井戸で水位(間隙水圧)が高く、かつての耕盤層が難透水層になって被圧しているため地下から地表へ向かって湧き出すポテンシャルを有する(図2a)。これは地下排水を阻害するだけでなく、余剰水のソースとなり得るため湿害を生じやすい。
  • 盛土造成箇所の圃場整備前の地表面の上部は、かつての耕盤層が難透水層であることから周辺からの地下水を集水しやすく、降雨後も高い地下水位を維持するため、地下排水が妨げられる(図2b)。
  • 切土造成箇所の作土層直下には、地山に由来する粗粒土壌が存在するため排水性が高く地下水位は低い(図2c)。
  • 以上のことから、圃場整備前の地形情報から地下水位の潜在的な高低を評価できる。

成果の活用面・留意点

  • 排水対策手法策定のための圃場の排水性の診断に活用できる。また、優先的に排水対策を施すべき圃場の決定に活用できる。
  • 圃場整備による地形改変箇所は、圃場整備前後に発行された地形図の比較により把握できる。整備前の地形図が存在しない場合、空中写真とSfM多視点ステレオ写真測量法を活用することで整備前の地形の復元できる可能性がある。詳しくは、(成果情報:空中写真を利用したSfM多視点ステレオ写真測量法による基盤整備前地形モデルの推定)を参照されたい。
  • 切土造成箇所の下流側末端部に岩盤や難透水性の構造物等が存在する場合、地下水が局地的に地表へ湧き出す場合がある。
  • 平坦地でも地形改変したところに応用できる可能性がある。

具体的データ

図1 棚田の地下水流動系類型化の模式図,図2 タイプ別の地下水位の変動パターン

その他

  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2018~2020年度
  • 研究担当者:清水裕太
  • 発表論文等:清水ら(2020)日本水文科学会誌、50:71-83