カドミウム低吸収性の水稲新品種「ミズホチカラ環1号」

要約

「ミズホチカラ環1号」は、「ミズホチカラ」のカドミウム(Cd)低吸収性同質遺伝子系統である。本品種を「ミズホチカラ」に替えて栽培することにより、Cd基準超過米の発生防止および食品由来のCd摂取量の低減が期待される。

  • キーワード : イネ、カドミウム低吸収性、同質遺伝子系統、ミズホチカラ
  • 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地水田輪作研究領域・作物育種グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

2015年に品種登録されたカドミウム(Cd)低吸収性品種「コシヒカリ環1号」は、土壌中のCd濃度が高い地域を含めたどのような地域で栽培してもコメ中のCd濃度が非常に低く、Cd摂取の低減に寄与することが期待されている。しかしながら、「コシヒカリ」の栽培面積は全国の約3分の1に過ぎないため、他の主要な品種にCd低吸収性を付与し、より広範な地域での普及の準備を進めることが必要である。2009年に育成した新規需要米品種「ミズホチカラ」は、2022年には九州内で約2,000haに普及している。そのうち3割程度が米粉用として栽培されており、米粉パン用としての利用が拡大している。
そこで、Cd低吸収性の「ミズホチカラ」の同質遺伝子系統を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「ミズホチカラ環1号」は、「ミズホチカラ」とCd低吸収性の「コシヒカリ」突然変異系統「lcd-kmt2(後の「コシヒカリ環1号」)」を人工交配したF1に「ミズホチカラ」を4回連続戻し交配した後代から育成された、「ミズホチカラ」のCd低吸収性同質遺伝子系統である。
  • 「ミズホチカラ環1号」のCd吸収性は「コシヒカリ環1号」並の"極低"である(図1)。
  • 「ミズホチカラ環1号」の福岡県筑後市における普通期移植栽培での出穂期と成熟期はともに「ミズホチカラ」とほぼ同じで、暖地での出穂期は"やや晩"、成熟期は"かなり晩"に分類される。その他の稈長、穂長、穂数、精玄米重、いもち病抵抗性等の特性は、「ミズホチカラ」とほぼ同じである(表1)。
  • 「ミズホチカラ環1号」の九州地方の現地試験における普通期移植栽培での出穂期と成熟期はともに「ミズホチカラ」とほぼ同じである。その他の稈長、穂長、穂数、精玄米重、玄米品質等の特性も、「ミズホチカラ」とほぼ同じである(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 「ミズホチカラ環1号」の栽培適地は関東以西である。
  • 「ミズホチカラ環1号」はいもち病には真性抵抗性を有し、通常は発病が見られないが、菌系の変化により罹病化の可能性があるため、基幹防除を励行する。また、白葉枯病と縞葉枯病の常発地での栽培は避ける。
  • Cd低吸収性遺伝子osnramp5-2によりマンガンの吸収も抑制されるため、特に砂質等の地力の低い圃場ではごま葉枯病の発生に注意を要する。
  • 「ミズホチカラ環1号」の栽培にあたっては、米粉適性の高い水稲多収品種「ミズホチカラ」の栽培技術標準作業手順書が参考になる。

具体的データ

図1 「ミズホチカラ環1号」の玄米のCd濃度(mg/kg),表1 「ミズホチカラ環1号」の主要特性

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(農食事業、イノベ創出強化)
  • 研究期間 : 2012~2022年度
  • 研究担当者 : 田村克徳、黒木慎、片岡知守、中西愛、竹内善信、佐藤宏之、田村泰章、石川覚、阿部匡
  • 発表論文等 : 田村ら「ミズホチカラ環1号」品種登録出願公表第36237号(2022年8月4日)