重点普及成果

漏水探査装置によるパイプラインの漏水位置特定技術

本技術開発の背景

農業用パイプラインは全国に約18,000kmあり、農業生産に欠かせない水利施設であるが、近年漏水事故が毎年約1,000件発生している。漏水が軽微なうちに漏水箇所を特定して対策を行うことができれば、大規模な漏水事故を未然に防ぐことができる。

パイプラインの漏水箇所では、圧力水の噴出に起因する漏水音が発生している。水道管の漏水調査では、この漏水音を管、地表面から耳やセンサーで聴き取る手法が利用されてきたが、農業用パイプラインの特性(埋設位置が深いこと、漏水音が伝わりにくい材質の管で構成されていること、漏水音を記録するセンサーの設置できるマンホールや空気弁の数が少ないことなど)から、これらの技術をそのまま適用することが困難であった。

技術概要

  • 開発した漏水探査技術は、漏水音を記録できる「漏水探査装置」を、通水中のパイプラインの上流から放流し、下流で回収することによって、漏水箇所に接近して漏水音を聞き取り、漏水位置を特定する技術。
  • 探査装置は、直径がφ55mmの円筒状で、長さは165mmと280mmの2種類がある。探査装置には、可聴域の音を収録できる水中マイク(ハイドロフォン)を前後2箇所に設置している。また、280mmタイプは、探査装置から600kHzの超音波を発信しており、パイプラインに直接アクセスできる場所(空気弁など)に受信機を設置しておくことで、探査装置が通過したことを管外から確認できる。
  • 調査は、通水状況で行う。パイプラインの上流側(例えばφ75mm以上の空気弁補修ボールバルブ)から探査装置本体を投入し発射する。探査装置は水と同じ比重に設定されているため、管内底部の堆積物や障害物を避けて管内中心部を流下する。流下中、ハイドロフォンで管内の音を記録する。最終的には、パイプライン下流側で回収網などによって探査装置を回収する。回収網には、カメラが取り付けられているので、探査装置が回収網に格納されたことを目視確認した後、回収できる。
  • 装置がパイプライン内部を移動する速度が一定と仮定し、「発射時刻」と「漏水音が聞こえた時刻」との差を移動速度に乗じて、漏水位置を推定する。位置推定精度は、流下した距離に対して約5%(100m流下させた場合にずれが約5m)であることを確認している。
  • パイプライン以外にも、河川を横断しているサイホンなどでも利用できる。

技術に関する問い合わせ先

農研機構 農村工学研究部門 研究推進部 研究推進室
Tel:(029)-838-7677

参考情報

普及成果情報

論文

  • 森ほか(2021):パイプラインの漏水探査技術に関する最新研究~漏水探査ロボットによる漏水位置検出技術の開発~、畑地農業、746、2-11

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