ナシ、リンゴおよびブドウ白紋羽病の温水治療マニュアル

要約

白紋羽病に罹病した樹の周辺土壌の表面に50°C温水を点滴して病原菌を殺菌する温水治療技術マニュアルを実施することにより、ナシ、リンゴおよびブドウの罹病樹を効率的に治療できる。

  • キーワード:白紋羽病、温水、点滴、治療、環境保全
  • 担当:環境保全型防除・生物的病害防除
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

白紋羽病は、果樹栽培に大きな損害を与えている重要な土壌病害である。本病の防除は化学薬剤に頼らざるを得ず、環境への負荷が懸念されている。そのため、環境負荷の少ない50°C温水を罹病した果樹の周辺の土壌表面に点滴し、地温を上昇させて土壌中の病原菌を殺菌して罹病樹を治療する(温水治療)技術が、平坦地で露地栽培されているナシおよびリンゴ樹を対象として開発された(平成20年度「関東東海北陸農業」研究成果情報)。そこで、本技術を全国に広く導入するため、傾斜地のナシ、リンゴさらにブドウの白紋羽病の温水治療も効率的に実施できるマニュアル(温水治療マニュアル)に高度化する。

成果の内容・特徴

  • 従来の螺旋状や櫛状の点滴チューブより取り扱いが容易な井形状の点滴器具(図1)を用いることによって設置時間が約1/4~1/3に短縮され、平坦地で露地栽培されているナシおよびリンゴ白紋羽病罹病樹に対する温水治療が効率良く実施できる。本器具は2つの部分からなり、治療対象樹を両側から挟み込むように設置する。
  • ブドウ樹は温水治療を行うに十分な熱耐性があるので、罹病樹に対して温水治療が適応できる(図2)。また、大型の井形状点滴器具を用いることで(図1)、斜度約20度までの傾斜地においても温水治療を行うことができる。これにより、従来より約2倍広い地域で温水治療が実施可能となる。
  • 果樹の地際部に枝を挿入して病原菌を捕捉する手法(枝挿入法)を活用して(図3)、温水治療が適応できる罹病樹を判定できる。本法による判定は、株元を掘り上げて目視で行う従来の方法よりも約1.4倍効率が良い。
  • 温水治療マニュアルの冊子体および農研機構ホームページに掲載されているマニュアル(図4)を参照して温水治療を行う。

普及のための参考情報

  • 普及対象:果樹生産者、果樹生産団体等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:ナシ、リンゴおよびブドウの生産県等の約1/3の生産者(戸)
  • その他:
    1)本マニュアルは、2010年に策定された内容を補完して作成された。
    2)砂土や粘土、あるいは地下水位の高い場所や固く締まった土壌では治療効果が劣る場合がある。治療実施後は、上述の枝挿入法などを利用して再発に注意を払う。
    3)温水治療用の温水点滴処理機[試験に使用した試作機(図2参照)と同型;エムケー精工(株)製作]が日本園芸農業協同組合連合会(日園連)より販売されている。本機を用いて温水治療を実施した場合の1樹あたりの費用(本機購入費除く)および作業時間(設置および撤収時間)は、農薬処理(掘り上げ潅注処理)した場合の費用(農薬購入費)および作業時間に比べて、それぞれ約1/4および約1/9に削減される。なお、現時点では、温水治療を実施できる知識や技術を有する者が常在する県等の生産者・生産団体を対象とする条件付きでの販売である。

具体的データ

図1~4

その他

  • 中課題名:生物機能等を活用した病害防除技術の開発とその体系化
  • 中課題整理番号:152a0
  • 予算区分:交付金、実用技術
  • 研究期間:2009~2013年度
  • 研究担当者:中村仁、近藤賢一(長野果樹試)、岩波靖彦(長野南信試)、小河原孝司(茨城農総セ)、塩田あづさ(千葉農林総研セ)、井上幸次(岡山農林水産総セ農研)、久我ゆかり(広島大)、杵淵真也(エムケー精工)
  • 発表論文等:
    1) 白紋羽病温水治療マニュアル2013年改訂版[冊子体および農研機構ホームページ掲載]
    2) 中村ら(2013)植物防疫、67(9):463-483