マトリゲルによるウシ卵母細胞・顆粒膜細胞複合体の選択的な生存および発育

要約

発育途上のウシ卵母細胞を14日間培養して発育させる際、マトリゲル上で培養すると、死滅する卵母細胞は無処理の培養皿よりも多いが、生存することのできた卵母細胞の直径は無処理の培養皿よりも大きく、成熟率も高い。

  • キーワード:卵母細胞、顆粒膜細胞、培養、発育、マトリゲル
  • 担当:東北農研・高度繁殖技術研究東北サブチーム
  • 代表連絡先:電話019-643-3542
  • 区分:東北農業・畜産、畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

ウシ卵巣内には多くの発育途上卵母細胞が存在するが、ほとんど全ては卵巣内で死滅する。培養技術を使って卵子にすることができれば優良家畜の増産等に利用できる。ウシ卵母細胞を発育させる培養システムは開発されているが、生体内と同等まで発育させるには至っておらず、培養条件の改善が課題である。生体内では基底膜に接している顆粒膜細胞が、体外では培養基質に接着することから、基底膜マトリックス成分であるマトリゲル上で卵母細胞・顆粒膜細胞の複合体を培養し、効率的に発育させることを目指す。

成果の内容・特徴

  • 直径87~104 μmの発育途上の卵母細胞・顆粒膜細胞の複合体を、4%ポリビニルピロリドン(平均分子量36万)、5%ウシ胎児血清等を添加した培養液で14日間発育させる場合、マトリゲルを塗布した上に複合体を接着させると、顆粒膜細胞が増殖する複合体と、増殖しない複合体に明瞭に分かれる(図1)。増殖しない複合体の内部では卵母細胞は死滅している。
  • マトリゲル上で培養した卵母細胞の生存率は、無処理の培養皿における値よりも有意に低い(図2)。別の細胞接着因子であるフィブロネクチン上では生存率が低下しないことから(図2)、無処理の培養皿が優れているのではなく、マトリゲルに生存率低下の原因がある。
  • マトリゲル上で14日間生存することのできた卵母細胞の平均直径は、無処理の対照区における直径よりも有意に大きい(図3)。
  • マトリゲル上で生存していた卵母細胞の成熟率は対照区よりも有意に高い(図4)。体外発育に供した卵母細胞を母数とした場合には有意な差は認められない。
  • 結果として、マトリゲルは良好に発育しうる卵母細胞を選択している。

成果の活用面・留意点

具体的データ

図1 異なる培養基質上における卵母細胞・顆粒膜細胞 複合体の形態

図2 異なる基質上で培養した卵母細胞の生存率図3 異なる基質上で培養した卵母細胞の直径

図4 異なる基質上で培養した卵母細胞の成熟率

その他

  • 研究課題名:高品質畜産物生産のためのクローン牛等の安定生産技術の開発
  • 中課題整理番号:221n
  • 予算区分:基盤、科研費
  • 研究期間:2008~2009 年度
  • 研究担当者:平尾雄二、伊賀浩輔、竹之内直樹