プレスリリース
(研究成果)サツマイモ基腐病に抵抗性のある焼酎・でん粉原料用新品種「みちしずく」
- 「コガネセンガン」よりもサツマイモ基腐病に強く多収 -
ポイント
農研機構は、サツマイモ基腐病1)に抵抗性のある、焼酎・でん粉原料用新品種「みちしずく」(旧系統名:九州200号)を育成しました。現在主力品種として普及している焼酎原料用の「コガネセンガン」よりもサツマイモ基腐病に強く、多収で、焼酎にした時の酒質は「コガネセンガン」の焼酎に似ています。でん粉収量が多く、でん粉の白度も高いため、でん粉原料用としても優れています。南九州のサツマイモ産地において、焼酎・でん粉原料用品種として普及する予定です。
概要
現在、日本で最も多く栽培されているサツマイモの品種は主に焼酎の原料として使われている「コガネセンガン」で、焼酎造りが盛んな南九州では、「コガネセンガン」の作付け比率は5割を超えています。しかし、「コガネセンガン」は、南九州で多発しているサツマイモ基腐病に弱いため、茎葉の枯死や塊根の腐敗による収量低下が著しく、生産者の収益減少や焼酎メーカーへの原料供給不足が深刻な問題となっていました。鹿児島県酒造組合は、サツマイモ基腐病の影響により、令和3酒造年度2)の本格芋焼酎の原料が計画の76%しか確保できない見込みであることを明らかにしています。
今回、農研機構は「コガネセンガン」よりも、サツマイモ基腐病に強く多収の新品種「みちしずく」を育成しました。焼酎醸造適性に優れ、酒質(香りと味)が「コガネセンガン」の焼酎に良く似ているため、「コガネセンガン」に代わる焼酎原料として有望です。また、でん粉歩留3)およびでん粉白度4)も高いため、でん粉原料用としても適しています。
「みちしずく」は、南九州のサツマイモ産地において、焼酎・でん粉原料用品種として普及する予定で、令和4年春より種いも生産を開始しており、令和5年に130haで栽培可能な種いも10トンの増殖が見込まれます。
関連情報
予算:運営交付金、生研支援センターイノベ―ション創出強化研究推進事業「高品質・多収なでん粉原料用カンショ品種の開発」、「産地崩壊の危機を回避するためのかんしょ病害防除技術の開発」
品種登録出願番号:「第35907号」(令和3年12月22日出願、令和4年3月30日出願公表)
問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構九州沖縄農業研究センター 所長 森田 敏
研究担当者 :
同 暖地畑作物野菜研究領域 グループ長 小林 晃
広報担当者 :
同 研究推進室 広報チーム長 仲里 博幸
詳細情報
新品種育成の背景と経緯
焼酎原料用サツマイモは、南九州における農業生産および地域経済において重要な品目です。ところが、平成30年秋、南九州で本邦初となるサツマイモ基腐病(以下、基腐病)が発生して以降、基腐病に弱い焼酎原料用品種「コガネセンガン」は甚大な被害を受け、焼酎原料としての安定供給に多大な支障が生じています。そのため、「コガネセンガン」よりも基腐病に強く、焼酎醸造適性に優れる品種が強く求められていました。
そこで、「コガネセンガン」よりも基腐病に強く、多収で、焼酎醸造適性に優れ、焼酎にした時の香りと味が「コガネセンガン」の焼酎に類似しているサツマイモ新品種の育成に取り組みました。
新品種「みちしずく」の特徴
- 「みちしずく」は、多収で、基腐病にやや強い「こないしん」を母、乾物率5)が高く、粉質で蒸しいもの評価が優れる系統「九系09187-14」を父とした交配によってできた品種です(図1)。
- 「みちしずく」は「コガネセンガン」より多収で、でん粉歩留も高いです(表1、図2)。
- 「みちしずく」は「コガネセンガン」よりも基腐病に強く、抵抗性の程度は"やや強"です(表1、図2)。しかし、在圃期間6)が長くなると発病株が増えてくるため、早期収穫を心掛ける必要があります。
- 「みちしずく」は焼酎醸造適性に優れ、酒質(香りと味)は「コガネセンガン」の焼酎に類似しています(表2)。
- でん粉原料用の「こないしん」と比べると基腐病抵抗性はやや劣りますが、いもと茎をつなぐ部分である「しょ梗」の強さ7)が「こないしん」よりも弱いため収穫時にいもを切り離しやすい、でんぷん収量が多く、でん粉の白度がでん粉原料用主力品種「シロユタカ」並みに高いなど、でん粉原料用としての特性にも優れています(表1)。
品種の名前の由来
焼酎原料用の主力品種「コガネセンガン」に変わる新たな"道"を切り開き、夢と希望に"満ち"溢れる、品種になることを願って命名されました。
今後の予定・期待
「みちしずく」は、鹿児島県、宮崎県の焼酎・でん粉原料用サツマイモ産地において、令和4年春より種いも生産が開始されています。令和5年に130ha、令和6年には1000haの栽培を見込んでおり、令和8年に2000ha以上の普及を目指しています。
「みちしずく」の普及により、基腐病による被害が軽減し、生産者が安心して栽培でき、原料の安定確保の達成が期待されます。
農研機構では、「みちしずく」や「こないしん」など、基腐病に抵抗性をもつ焼酎原料用、でん粉原料用品種以外にも、海外輸出向けの青果用基腐病抵抗性品種の育成にも力を入れています。
本品種の原種苗の配布には、全て利用許諾契約が必要となります。利用許諾申請は、11月末まで下記で受け付けます。提供可能な量には限りがあるため、お申込みいただいても種苗が提供できない場合があることを予めご了承ください。
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用語の解説
参考図