プレスリリース
(研究成果)サツマイモ基腐病に強い抵抗性を有する青果用新品種「べにひなた」

- 南九州における青果用サツマイモの安定生産に貢献 -

情報公開日:2023年8月29日 (火曜日)

ポイント

農研機構は、サツマイモ基腐病1)に強い抵抗性を有する青果用2)新品種「べにひなた」(系統名:九州201号)を育成しました。「べにひなた」はホクホクとした肉質3)でやさしい甘さがあり、外観品質に優れ、「べにはるか」並みに多収です。サツマイモ基腐病のまん延が深刻な問題となっている南九州の青果用サツマイモ産地への普及により、サツマイモの安定生産に貢献すると期待されます。

概要

宮崎県や鹿児島県など南九州の青果用サツマイモの産地では、主に「高系14号」と「べにはるか」が作付けされていますが、いずれの品種もサツマイモ基腐病(以下、基腐病)に弱いため、基腐病による深刻な被害が問題となっています。基腐病が発生している産地では基腐病に抵抗性のある品種の作付けを進める取り組みが行われていますが、青果用の抵抗性品種は限られており、新しい抵抗性品種の開発が強く求められています。

今回農研機構が開発した「べにひなた」は、基腐病に強い抵抗性を有することを特長とする青果用新品種です。抵抗性の程度は、従来の品種よりも優れる"強"です。ホクホクとした肉質でやさしい甘さがあり、外観品質に優れ、「べにはるか」並みに多収です。貯蔵しても肉質が変化しにくく加工原料としての安定性があるため、食品加工用途での利用も見込まれます。

基腐病抵抗性品種「べにひなた」は、南九州での青果用サツマイモの安定生産に向けた新たな一手として普及が期待されます。

関連情報

予算:運営費交付金、イノベーション創出強化研究推進事業「高品質・多収なでん粉原料用カンショ品種の育成(29028C)」「産地崩壊の危機を回避するためのかんしょ病害防除技術の開発(01020C)」、国際競争力強化技術開発プロジェクト「国際競争力強化へ向けたかんしょ生産の安定化と高品質化に係る系統の育成と栽培技術の開発」
品種登録出願番号:「第36661号」(令和5年2月7日出願、令和5年6月8日出願公表)

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構九州沖縄農業研究センター 所長 原田 久富美
研究担当者 :
同 暖地畑作物野菜研究領域 研究員 川田 ゆかり
グループ長 小林 晃
広報担当者 :
同 研究推進室 広報チーム長 田中 和光

詳細情報

新品種育成の背景

平成30年の秋、南九州で本邦初となる基腐病の発生が認められました。南九州の青果用サツマイモの産地では、基腐病に弱い「高系14号」と「べにはるか」が主に作付けされているため、現在に至るまで、基腐病による被害が深刻な問題となっています。

産地では様々な基腐病対策が講じられており、その一つとして基腐病に対して抵抗性のより強い品種の作付けを進める取り組みが行われています。しかし、青果用の抵抗性品種は限られていることから、新しい抵抗性品種の開発が強く求められていました。

新品種育成の経緯

一般に品種育成には10年以上の長い年月を必要としますが、形質の異なる多数の系統を育成・維持していくことで、その時々のニーズに合った品種を系統の中から選抜し、生産現場に普及していくことが出来ます。農研機構では今般の基腐病の被害拡大を受け、育成中の系統や遺伝資源として維持している系統について基腐病汚染ほ場で抵抗性を評価し、国内で基腐病の発生が認められてから2年後の令和2年度に、育成系統の中から強い抵抗性を有する「九州201号(「べにひなた」の系統名)」を見出しました。蒸しいもには甘みがあり、外観品質や収量性に優れていたことから、基腐病抵抗性や収量性、品質特性、地域適応性について調査を続け、令和5年2月に品種登録出願を行いました。

新品種「べにひなた」の特徴

  • 多収で良食味の「べにはるか」を母、でん粉歩留4)の高い「九系09178-1」を父とする交配組合せから選抜されました。
  • 基腐病に強く、抵抗性の程度は"強"です(図1)。ただし全く罹病しないわけではないため、種いもには健全ほ場から採取した健全いもを用いたうえで、基本的な防除対策を実施する必要があります。基本的な防除対策については次のURLをご参照下さい。
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/158250.html
  • 主力品種である「べにはるか」並みに多収です(図2)。
  • 皮色や形状などの外観品質に優れます(図3)。
  • 肉質は"中"で「高系14号」のようなホクホクとした肉質であり、ブリックス5)は、甘みの強い「べにはるか」とあっさりとした甘みの「高系14号」の中間の値で、やさしい甘さがあります(表1)。チップやけんぴ(いもかりんとう)への適性もあります(表2)。
  • 貯蔵しても肉質が変化しにくいです(表1)。加工原料としての安定性があるため、食品加工用途での利用にも適します。
図1 青果用品種の基腐病に対する抵抗性検定結果(令和3年)
基腐病汚染ほ場における標準黒マルチ栽培。5月6日定植、10月12日収穫。1区あたり30株とする3区の平均。収穫したいものうち黒変や腐敗が見られたものを"病徴あり"、それ以外のいもでほ場萌芽6)が見られたものを"萌芽"としてカウントした。棒グラフの上の数値は収穫時の地上部発病株率(%)を表す。品種名の下にはカッコ書きで抵抗性程度の判定を示した。抵抗性程度の判定は、地上部およびいもでの発病程度を指標品種 (「タマアカネ」: 強; 「こないしん」: やや強; 「シロユタカ」: 中; 「コガネセンガン」: やや弱; 「ダイチノユメ」: 弱) と比較して行った。抵抗性"やや強"の「べにまさり」は既存の青果用品種の中で最も強い品種のひとつ 。
図2 「べにひなた」の収量性(令和4年)
育成地(都城、健全ほ場)における黒マルチ栽培。早掘栽培: 4月19日定植、8月8日収穫; 標準栽培: 5月16日定植、10月5日収穫。
図3 「べにひなた」および「べにはるか」、「高系14号」の塊根(令和4年10月6日撮影)
表1 各貯蔵期間における蒸しいもの評価(令和4年)
表2 けんぴ・チップ加工品の官能品質評価(令和3~4年、澁谷食品株式会社)

品種の名前の由来

「べにひなた」という名前には、基腐病の克服に取り組む青果用サツマイモの関係者の方々が明るく前向きな気持ちになれますようにという願いを込めました。また、ホクホクとした食感でやさしい甘さがある点から"ひなた"をイメージしました。

今後の予定・期待

「べにひなた」は、基腐病に対して強い抵抗性を有する青果用サツマイモとして、特に被害が懸念されている宮崎県および鹿児島県での普及を見込んでいます。基腐病対策のため「高系14号」や「べにはるか」の栽培時期が早期化していますが、その一方で、「べにひなた」を従来のスケジュール通りに栽培することで、「べにひなた」を「高系14号」や「べにはるか」のシーズン後に出荷できると考えられます。貯蔵しても肉質が変化しにくく加工原料としての安定性があることから、「高系14号」のように食品加工用途で幅広く利用することも可能です。「べにひなた」の普及により、基腐病による被害が軽減し、生産者が安心して栽培できるようになり、南九州における青果用サツマイモの安定生産、さらには全国の青果用産地での生産振興につながることが期待されます。

今後も農研機構では、青果用としてさらに優れた特性を有する基腐病抵抗性品種を生み出すべく、品種開発に取り組んでまいります。

研究担当者の声

基腐病の発生が国内で確認されてから5年が経ちますが、その間に国や県による研究開発とその成果の普及が進んでいます。研究員、普及指導員、生産者、実需者、行政が一体となり、基腐病の克服に向かって前進を続けている最中にあります。この流れを止めないことが、大切なことではないかと思います。

抵抗性品種の開発は病気を克服するための強力な手段です。農研機構が開発し、昨年プレスリリースした焼酎・でん粉原料用の基腐病抵抗性品種「みちしずく」は、生産現場への導入が進められています。今回、「みちしずく」に続く品種として、青果用の抵抗性品種「べにひなた」を開発することができました。「べにひなた」の普及可能性について調査してくださった関係の皆様に感謝申し上げます。

「べにひなた」が、基腐病に強い抵抗性を持つという強みを発揮し、青果用サツマイモの関係者の皆様にとって基腐病克服へと取り組み続けるための支えになるようにと願っています。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

「べにひなた」の種苗を生産し譲渡を行う団体と利用許諾契約を結び原種苗を提供します。

一般の方の種苗の入手先は以下でご確認ください。
農研機構育成品種の種苗入手先リスト
https://www.naro.go.jp/collab/breed/seeds_list/index.html

利用許諾契約に関するお問い合わせ

利用許諾契約のお申込みは10月末まで受け付けています。利用許諾契約に伴う原種苗の配布は11月以降、年内を予定しています。提供可能な量には限りがあるため、ご希望の数量を提供できない場合があることをあらかじめご了承ください。
下記のメールフォームでお問い合わせください。

農研機構HP【研究・品種についてのお問い合わせ】

なお、品種の利用については以下もご参照ください。
農研機構HP【品種の利用方法についてのお問い合わせ】

用語の解説

サツマイモ基腐病
サツマイモがDiaporthe destruens(ディアポルテ・デストルエンス)という糸状菌(かび)に感染することで起こる、茎葉が枯死し、いもが腐敗する病気。基腐病の対策については、技術者向けのマニュアル「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策(令和4年度版)」や生産者向けの「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書」がウェブ上で入手できます。
サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策(令和4年度版)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/158250.html

サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 標準作業手順書
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/152513.html
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青果用
サツマイモの用途のひとつで、加工品としてではなく青果物として消費者に販売されるもの。[ポイントへ戻る]

肉質
蒸しいもの食感や舌触りのこと。ホクホクとした"粉質"としっとりとした"粘質"に大別されます。[ポイントへ戻る]
でん粉歩留
いもに含まれているでん粉の重量割合のこと。[新品種「べにひなた」の特徴へ戻る]
ブリックス
糖度計(屈折計)の測定値のことで、甘さの指標となります。[新品種「べにひなた」の特徴へ戻る]
ほ場萌芽
環境および他の生物が及ぼすストレスにより、収穫時のいもに萌芽が見られることがあります。ただし、ほ場萌芽のしやすさには品種によって差があります。[新品種「べにひなた」の特徴へ戻る]