プレスリリース
(研究成果)良食味多収水稲品種「にじのきらめき」を活用した 再生二期作による画期的多収生産の実現

- 輸出用米・業務用米生産への利用に期待 -

情報公開日:2023年10月 4日 (水曜日)

ポイント

農研機構は、良食味多収水稲品種「にじのきらめき」を用いて福岡県内の試験ほ場で行った再生二期作において、苗を4月に移植し、地際から40cmと高い位置で一期作目を刈り取ることにより、切株に蓄積されたデンプンや糖等を利用することで再生が旺盛になり、一期作目と二期作目の合計でおよそ950 kg/10a(2か年の平均)の画期的な多収が得られることを明らかにしました。

概要

近年、地球温暖化の影響で国内においても春や秋の気温が上昇し、水稲の生育可能期間が長くなり、これまでよりも早い移植や遅い収穫が可能になってきました。現在、沖縄県等の生育可能期間が長い地域では、水稲を一度移植・収穫した後に、もう一度、移植・収穫する通常の二期作が行われる場合があります。他方、水稲は多年生1)の性質を持つため、収穫後に切株からひこばえ2)が発生することから、ひこばえを栽培・収穫する再生二期作3)を行うことができます。再生二期作では、通常の二期作で行われる二期作目の育苗や移植が不要であり、また適切な管理を行うことで通常の一期作に比べて増収も可能であるため、生産量当たりの生産コストの削減が期待できます。

これまでに農研機構は、飼料用米等に用いられている多収品種「北陸193号」を早生化した系統の再生二期作において、一期作目の収穫時期や収穫時の刈り取り高さを工夫することにより、福岡県内の試験ほ場で1.5 t/10aに迫る超多収が得られることを明らかにしています(2020年9月8日プレスリリース)。しかし、輸出用米や業務用米等に用いられる良食味多収品種の再生二期作栽培技術は、開発されていませんでした。

そこで今回、「コシヒカリ」並の良食味性と多収性を兼ね備える農研機構育成品種「にじのきらめき」(2018年9月6日プレスリリース)を用いて福岡県内の試験ほ場で行った再生二期作において、一期作目の移植時期や収穫時の刈り取り高さを検討したところ、苗を4月に移植し、地際から40cmと高い位置で一期作目を刈り取ることにより、切株に蓄積されたデンプンや糖等を利用することで再生が旺盛になり、一期作目と二期作目の合計でおよそ950 kg/10a(2か年の平均)の画期的な多収(福岡県の生産現場における平均収量は2021年と2022年の平均で482 kg/10a)が得られることを明らかにしました。

関連情報

予算:科学研究費補助金 20K06007
2020年9月8日プレスリリース 温暖化条件下で威力を発揮する水稲の再生能力を活かした米の飛躍的多収生産
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/karc/136334.html
2018年9月6日プレスリリース 高温耐性に優れた多収の極良食味水稲新品種 「にじのきらめき」
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/carc/082656.html

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構九州沖縄農業研究センター 所長 原田 久富美
研究担当者 :
同 暖地水田輪作研究領域 グループ長補佐 中野 洋
(現 中日本農業研究センター 転換畑研究領域)
広報担当者 :
同 広報チーム長 田中 和光

詳細情報

開発の社会的背景

近年、地球温暖化の影響で国内においても春や秋の気温が上昇し、水稲の生育可能期間が長くなり、これまでよりも早い移植や遅い収穫が可能になってきました。現在、沖縄県等の生育可能期間が長い地域では、水稲を一度移植・収穫した後に、もう一度、移植・収穫する通常の二期作が行われる場合があります(図1)。他方、水稲は多年生の性質を持つため、収穫後に切株からひこばえが発生する(図2)ことから、ひこばえを栽培・収穫する再生二期作を行うことができます。再生二期作では、通常の二期作で行われる二期作目の育苗や移植が不要であり(図1)、また適切な管理を行うことで通常の一期作に比べて増収も可能であるため、生産量当たりの生産コストの削減が期待できます。

研究の経緯

これまでに農研機構では、飼料用米等に用いられている多収品種「北陸193号」を早生化した系統の再生二期作において、一期作目の収穫時期や収穫時の刈り取り高さを工夫することにより、福岡県内の試験ほ場で1.5 t/10aに迫る多収が得られることを明らかにしています。しかし、輸出用米や業務用米等に用いられる良食味多収品種の再生二期作栽培技術は、開発されていませんでした。

近年、農研機構が育成した「にじのきらめき」は、「コシヒカリ」並の良食味性とおよそ700 kg/10aの多収性を兼ね備えるほか、高温登熟耐性4)や耐倒伏性に加え、縞葉枯病やいもち病といった病害への抵抗性を持つ栽培しやすい品種です。そこで今回、「にじのきらめき」の再生二期作において、一期作目の移植時期や収穫時の刈り取り高さを工夫することにより、一期作目と二期作目の合計で得られる収量を明らかにしました。

研究の内容・意義

試験は、2021年及び2022年に福岡県筑後市にある農研機構九州沖縄農業研究センターの試験ほ場で、「にじのきらめき」を用いて実施し、一期作目の移植時期(4月植え又は5月植え)及び収穫時の刈り取り高さ(地際から40 cmの高刈又は20 cmの低刈)について検討しました。4月植えでは、一期作目を8月上旬に収穫した(図3)後、二期作目を10月下旬に収穫しました(表1)。また、5月植えでは、一期作目を8月中旬に収穫した(図3)後、二期作目を11月下旬に収穫しました(表1)。窒素は、基肥10 kg N/10a(移植日)と追肥13 kg N/10a(一期作目の出穂12~13日前、収穫8~11日前、収穫日及び収穫30日後にそれぞれ3、4、4及び2 kg N/10a)の合わせて23 kg N/10a施用しました(通常の一期作で「にじのきらめき」を栽培する際のおよそ2~3倍)。また、リン酸及びカリウムは、基肥と追肥を合わせて、それぞれ8 kg P2O5/10a及び8~12 kg K2O/10a施用しました。

  • 一期作目と二期作目の合計収量は、苗を4月に植えると(高刈と低刈の4月植えの平均、以下同様)、5月に植えた場合(高刈と低刈の5月植えの平均、以下同様)に比べて、9%多くなりました(図4)。また、一期作目を高刈すると(4月植えと5月植えの高刈の平均、以下同様)、低刈した場合(4月植えと5月植えの低刈の平均、以下同様)に比べて、4%多収になりました。このため、4月植えで高刈すると、2か年の平均で944 kg/10aの多収になりました。特に、2021年は、1016 kg/10aの極多収になりました。なお、一期作目の収量は、4月植えと5月植えとの間に大差ありませんでした。
  • 二期作目の収量は、苗を4月に植えると、5月に植えた場合に比べて、穂数の増加を介して籾数が増加し、49%多くなりました(図5)。そこで、一期作目の収穫指数(HI)5)のほか、一期作目の切株において、休眠芽を目覚めさせる作用のある非構造性炭水化物(NSC)6)や光合成に関与する葉面積指数(LAI)7)を調べました。その結果、4月植えでは、一期作目の籾に詰まったデンプンの量に比べて植物体全体が大きくHIが低い、すなわち、籾に詰まり切らずに行き場を失ったデンプンや糖等が茎や葉に多く残り、単位面積当たりの切株のNSC量やLAIが増加し、穂数の増加に繋がったことが推察されました(図6及び図7)。
  • 二期作目の収量は、一期作目を高刈すると、低刈した場合に比べて、穂数の増加を介して籾数が増加し、15%多くなりました(図5)。さらに、一期作目の切株において、NSCやLAIを調べたところ、高刈では、NSC量やLAIが増加し、穂数の増加に繋がったことが推察されました(図6及び図8)。
  • 以上をまとめると、4月植えは5月植えに比べて、一期作目のHIが低く、切株のNSC量やLAIが増加し、二期作目の穂数が増加したため、多収になりました(図7)。また、高刈は低刈に比べて、切株のNSC量やLAIが増加し、二期作目の穂数が増加したため、多収になりました(図8)。
  • 炊飯米の食味は、4月植えした「にじのきらめき」の一期作目と二期作目との間に明確な差がなく、また、これらは通常の一期作の「ヒノヒカリ」と大差ありませんでした。しかしながら、今後、本技術の普及に向けて様々な栽培条件における検討が必要です(表2)。

今後の期待・予定

生産現場における平均収量(2021年及び2022年の福岡県の平均で482 kg/10a)に対して画期的な多収が得られる本技術は、生産量当たりの生産コストの削減が想定されるので、大幅な低コスト生産が求められる輸出用米や業務用米等への活用が期待されます。なお本技術では、地際から高い位置での一期作目の刈り取り(収穫)や、稈長の短い二期作目の収穫を行いますので、自脱型コンバイン8)の使用が困難で、普通型コンバイン(汎用コンバイン)の使用が必要となるほか、生育期間を通じた用水の確保が必要となります。また、収量の増加に伴って地力の低下が予想されるので、地力の維持が必要になると考えられます。今後、これらの点に留意しながら現地実証試験を行っていく予定です。

適応可能地域は、今回試験を行った福岡県と春や秋の気温が大差ない関東以西の温暖な地域を現時点では想定しています。

用語の解説

多年生
植物体が複数年にわたって生育する性質。国内の多くの地域では、水稲は冬の寒さで枯死します。 [概要へ戻る]
ひこばえ
植物の切株から再生して出てくる芽。 [概要へ戻る]
再生二期作

一期作目の作物を収穫した後に切株から出てくるひこばえを栽培し、二期作目の作物を収穫する二期作。[概要へ戻る]

高温登熟耐性
水稲では、登熟期(開花・受粉・受精した後、米が稔っていく時期)に高温に遭遇しても白未熟粒(全体的又は部分的に白く濁った玄米)の発生等を抑制する性質。[研究の経緯へ戻る]
収穫指数(Harvest index, HI)
子実(乾燥子実収量)の植物体全体(全乾物重)に対する割合。今回の研究では、玄米収量の全乾物重に対する割合。[研究の内容・意義へ戻る]
非構造性炭水化物(Nonstructural carbohydrate, NSC)
細胞壁を構成する構造性炭水化物(セルロース、ヘミセルロース、リグニン等)とは異なるデンプンや糖等の炭水化物。[研究の内容・意義へ戻る]
葉面積指数(Leaf area index, LAI)
単位地表面積当たりの葉の面積。[研究の内容・意義へ戻る]
コンバイン
農作物を収穫・脱穀・選別する機能を持った農業機械。コンバインには、稲や麦類等の穂を持つ作物だけを対象にした自脱型と稲や麦類に加えて大豆やそば等の幅広い作物を対象にした普通型(汎用型)があります。自脱型コンバインは、茎部分を押さえながら穂だけを脱穀装置に投入する仕組みであるため、稈長が短い二期作目を収穫すると上手く脱穀できません。これに対して、普通型コンバインは、植物体全体(穂だけでなく茎や葉も)を脱穀装置に投入する仕組みであるため、稈長が短い二期作目でも収穫・脱穀できます。[今後の期待・予定へ戻る]

発表論文

Hiroshi Nakano, Ryo Tanaka, & Makoto Hakata (2023). Grain yield response to planting date and cutting height of the first crop in rice ratooning. https://doi.org/10.1002/csc2.21031

参考図

図1 水稲の通常の二期作と再生二期作
再生二期作は二期作目の育苗や移植が不要。
図2 水稲収穫後の水田で見られるひこばえ
図3 一期作目の収穫後の切株及び二期作目の登熟期(2021年)
品種は「にじのきらめき」。
表1 一期作目及び二期作目の出穂期及び収穫期

2021年と2022年の平均値。一期作目の収穫時の刈り取り高さ間では大差なし。

図4 一期作目と二期作目の合計収量
2021年と2022年の平均値。作期間では、4月植えが5月植えに比べて9%多収。一期作目の収穫時の刈り取り高さ間では、高刈は低刈に比べて4%多収。また合計では、4月植えで高刈すると、944 kg/10aの多収。
図5 二期作目の収量及び収量構成要素
2021年と2022年の平均値。作期間では、4月植えが5月植えに比べ、穂数の増加を介して籾数が増加し、49%多収。一期作目の収穫時の刈り取り高さ間では、高刈が低刈に比べ、穂数の増加を介して籾数が増加し、15%多収。
図6 一期作目の収穫指数(HI)、切株の非構造性炭水化物(NSC)量及び葉面積指数(LAI)
2021年と2022年の平均値。作期間では、4月植えが5月植えに比べ、一期作目のHIが低く、単位面積当たりの切株のNSC量及びLAIが高い。また、一期作目の収穫時の刈り取り高さ間では、高刈が低刈に比べ、単位面積当たりの切株のNSC量及びLAIが高い。
*情報修正:図6に誤った図が掲載されていましたので、正しい図に差し替えました。2023年10月13日
図7 移植時期が一期作目及び二期作目に及ぼす影響の概念図
4月植えは5月植えに比べ、一期作目のHIが低く、単位面積当たりの切株のNSC量及びLAIが増加したことにより、二期作目の穂数が増加し、多収。
図8 一期作目の収穫時の刈り取り高さが二期作目に及ぼす影響の概念図
高刈は低刈に比べ、単位面積当たりの切株のNSC量及びLAIが増加したことにより、二期作目の穂数が増加し、多収。
表2 一期作目及び二期作目の炊飯米の食味

2021年の値。パネラー(10人)を反復とし、分散分析後、多重比較(Tukey HSD)。異なる文字は、5%水準で有意差あり。nsは、分散分析の結果、有意差なし。