プレスリリース
(研究成果) 2024年シーズン初期に家きんで検出された高病原性鳥インフルエンザウイルスの特徴

- 6週間で4種類の遺伝子型のウイルスが侵入 -

情報公開日:2025年1月28日 (火曜日)

ポイント

  • 2024年シーズンに国内の家きんより分離1)された高病原性鳥インフルエンザウイルス2)について、11事例目までのウイルスゲノムを解析し、遺伝子型を決定しました。
  • 遺伝子型は4種類に分類され、4シーズン連続して検出されている1種類の遺伝子型に加え、新たに3種類の遺伝子型が含まれました。
  • シーズン初期の6週間で4種類の遺伝子型のウイルスが家きんに侵入していることから、引き続き家きん飼養施設へのウイルス侵入に対する警戒が必要です。

概要

2024年シーズンは、10月17日に家きんでシーズン初となる高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が報告され、2025年1月22日までに家きん飼養施設で計42件発生しています。

農研機構は、2024年10月の初発から11月末までの6週間に家きんで発生した11事例から分離されたH5N1亜型3)HPAIウイルス計11株の全ゲノム解析を行い、4種類の遺伝子型(G2d-0:8株、G2d-5、G2d-6及びG2c-13:各1株)に分類されることを明らかにしました。遺伝子型G2d-0は2021年シーズン以降、国内で4シーズン連続して検出されています。また、家きんの2024年シーズン初発に先立って9月30日に北海道の野鳥から検出されたウイルスも同型でした。これらのウイルスは2024年シーズンに渡り鳥によって運ばれてきたと推測されます。その他3種類の遺伝子型は、2024年シーズンに新たに同定された遺伝子型で、一部の遺伝子分節4)が国内外の野鳥で検出された鳥インフルエンザウイルスやHPAIウイルスに由来していました。これは、カモなどの野鳥集団で感染を繰り返すことで、HPAIウイルスに遺伝子再集合5)が起こった結果、新たに出現したと考えられます。

また、2024年シーズンに分離された遺伝子型G2d-0の代表ウイルス株について、鶏の自然感染経路である経鼻接種による感染実験を行ったところ、高い致死性を示し、病原性はこれまでのシーズンに分離された同型株と明確な差異は認められませんでした。

なお、2024年シーズン11月までに分離されたウイルス株の推定アミノ酸配列解析の結果、代表的な抗ウイルス薬への耐性及び哺乳類でのウイルス増殖に関連する変異は見つかっておらず、これらのウイルス株が直ちにヒトでの流行を引き起こすリスクは低いと考えられます。

秋に国内で越冬する渡り鳥により持ち込まれたウイルスは、渡り鳥の間で春先に繁殖地へ北帰するまで保持され、渡り鳥の移動にともないウイルスも国内の各地に移動すると推察されます。このような状況を踏まえ、発生の低減に向けて、国内家きん飼養施設へのウイルス侵入防止対策の徹底と疾病の早期発見に一層努める必要があります。

図1. 2024年シーズンの流行初期(10-11月)に国内の家きんから分離されたHPAIウイルスの遺伝子型分類と発生分布 家きん11事例までの発生は北海道から鹿児島県までの広域で認められ、2グループ(G2c、G2d)、4種類の遺伝子型ウイルス(G2c-13、G2d-0、G2d-5、G2d-6)が分離されています。そのうちG2d-0は4シーズン連続で確認され、他の3種類は新しい遺伝子型でした。

関連情報

予算 : 農林水産省委託研究「安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業」のうち、「新たな感染症の出現に対してレジリエントな畜産業を実現するための家畜感染症対策技術の開発」(JPJ008617.23812859)

問い合わせ先など
研究推進責任者 :
農研機構 動物衛生研究部門 所長勝田 賢
研究担当者 :
同 人獣共通感染症研究領域 グループ長内田 裕子
同 グループ長補佐宮澤 光太郎
同 研究員高舘 佳弘
同 研究員西浦 颯
広報担当者 :
同 疾病対策部吉岡 都

詳細情報

背景

2024年10月17日から2025年1月22日までに、14道県の家きん飼養施設で42件の高病原性鳥インフルエンザ発生が確認されています。家きんでの高病原性鳥インフルエンザの発生は2020年以降5シーズン連続であり、今シーズンはこれまでで最も早い時期からの発生となりました。また、野鳥、野鳥糞便及び湖沼の水などの環境試料からも16道県102事例でHPAIウイルスが検出されています。家きん飼養施設及び野鳥検体等で確認されたウイルスの亜型はいずれもH5N1亜型でした。

今回、農研機構では、2024年シーズン11月までに発生を引き起こしたウイルスの性状を明らかにし、これまでの国内家きん分離ウイルス株との比較やヒトへの伝播リスクの推定のため、全ゲノム解析によるウイルスの遺伝子型を決定しました。

研究の内容・意義

  • 2024年シーズン11月まで国内に4種類の遺伝子型のウイルスが侵入(図1)

    10月中旬から11月末までの11事例について、家きんから分離されたウイルスの全ゲノムを解読し8本全ての遺伝子分節(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M及びNS)の組み合わせに基づきウイルスの遺伝子型を決定しました。その結果、ウイルスは2021年シーズンから4シーズン連続して検出されているG2d-0(参照プレスリリース①、②)及び3つの新しい遺伝子型(G2d-5、G2d-6及びG2c-13)の計4種類に分類されました。このことから、2024年シーズンにおいては、10月中旬から11月の6週間で国内に4種類の遺伝子型のウイルスが侵入していたことが明らかとなりました。これは、多様な遺伝子型が検出された2022年シーズンと同様の傾向で、2024年シーズンのHPAIの多発が懸念されます。

    G2d-0遺伝子型のウイルスが4シーズン連続して検出していることから、本遺伝子型が国内に残存し翌シーズンの発生につながっている可能性も考えられますが、夏季に国内の家きんや野鳥からHPAIウイルスが検出された事例はこれまでなく、国内に本遺伝子型を含めたHPAIウイルスが残っている可能性は極めて低いと言えます。このことから、本遺伝子型のウイルスは野鳥間で維持され易くなったため、2024年シーズンに再度渡り鳥によって国内に運ばれてきたと推測されます。

    ① 2023年10月10日プレスリリース(2022年シーズン高病原性鳥インフルエンザウイルスは遺伝的に多様である-3グループ17遺伝子型に分類 様々な野鳥のウイルスに由来-)
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niah/160029.html

    ② 2023年11月1日プレスリリース(2023年10月北海道のカラスから検出されたH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの特徴)
    https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niah/160351.html

  • 4シーズン連続で検出された遺伝子型G2d-0のウイルスの鶏における病原性に変化はない

    2024年シーズンに分離された遺伝子型G2d-0の代表ウイルス株を規定量(106 EID50 6))鶏に経鼻接種したところ、接種した鶏は5羽全て死亡し、接種から死亡するまでの平均死亡日数は2.3日でした。2021年シーズンから2023年シーズンまでに分離された同遺伝子型のウイルス株の鶏接種試験の結果と比較して、分離年度による病原性に明確な変化は認められませんでした。

  • 2024年シーズン11月までの家きん由来ウイルスがヒトでの流行を引き起こすリスクは低い

    2024年シーズンに分離した家きん由来ウイルスの推定アミノ酸配列では、既存の代表的な抗ウイルス薬への耐性や哺乳類でのウイルス増殖に関連する変異はみつかりませんでした。このことから、これらのウイルスが直ちにヒトでの流行を引き起こすリスクは低いと考えられますが、引き続き監視が必要です。

今後の予定・期待

農研機構は国内に侵入するHPAIウイルスを迅速に全ゲノム解析し、海外のゲノム情報と比較することで、世界規模のウイルス流行動態の把握に貢献しています。今後も、農研機構の動物衛生高度研究施設7)においてHPAIウイルスのウイルス学的性質に関する研究を迅速に推し進めることで、診断体制を含む国内の高病原性鳥インフルエンザ防疫体制の一層の強化につなげます。

用語の解説

分離された(ウイルス)
ウイルス分離とは、検体材料中に存在する特定のウイルスを標的に、生きた細胞を用いてそれだけを増殖させることです。分離したウイルスの同定の一つに遺伝子検査がありますが、検体材料の鼻腔ぬぐい液から、ウイルスを分離せずに直接遺伝子検査する場合もあります。 [ポイントへ戻る]
高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスおよび鳥インフルエンザウイルス
鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスに分類される鳥インフルエンザウイルスが引き起こす鳥類の疾病で、自然宿主は野生の水きん(カモ)類である。HPAIウイルスは、野生のカモ由来の鳥インフルエンザウイルスが家きんの間で感染を繰り返すうちに鶏に対して高い致死率を引き起こすウイルスに変異したものを指す。家畜伝染病予防法では、国際獣疫事務局(WOAH)の規定に則り、分離ウイルスの鶏への静脈内接種試験における致死率やHAタンパク質の開裂部位における連続した塩基性アミノ酸配列の存在によってHPAIウイルスを規定している。HPAIウイルスの亜型はH5及びH7が主。 (https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/attach/pdf/index-49.pdf)。[ポイントへ戻る]
(A型インフルエンザウイルスの)亜型
インフルエンザウイルスの表面に存在する2つの糖タンパク質(赤血球凝集素タンパク質:HA、ノイラミニダーゼタンパク質:NA)の種類に基づくウイルスの分類型。HAにはH1からH18まで、NAにはN1からN11までの亜型が存在する。A型インフルエンザウイルスの種類はそれぞれの亜型を組み合わせて、H1N1、H5N1等と記載する。 [概要へ戻る]
遺伝子分節
新型コロナウイルスなどではウイルスゲノムは一本につながっているが、インフルエンザウイルスではウイルスゲノムが複数の断片に分かれて存在する。このようなウイルスゲノムのそれぞれの断片を遺伝子分節という。インフルエンザウイルスでは、8本の遺伝子分節(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M及びNS)が存在する。 [概要へ戻る]
遺伝子再集合
ある個体に2種類以上のウイルスが1つの細胞に感染すると、各ウイルスに由来する遺伝子分節の一部が入れ替わって組み換わって新たな遺伝子分節の組み合わせを持ったウイルスが出現する。この遺伝子分節の組み合わせが変わることを遺伝子再集合という。鳥インフルエンザウイルスは8本の遺伝子分節による遺伝子再集合が起こるため、多様な組み合わせのウイルスが出現する。 [概要へ戻る]
EID50(50% Egg Infectious dose)
50%鶏卵感染ウイルス量。肉眼で見えないウイルスの定量手法の一つで、発育鶏卵への感染成立の有無で評価する。具体的には、様々な希釈濃度のウイルス液を複数個の発育鶏卵に接種、各希釈倍率における感染鶏卵の割合を確認し、その結果を基にEID50を計算する。1 EID50は、ウイルスを接種した発育鶏卵の50%を感染させる能力を有するウイルス量。 [研究の内容・意義へ戻る]
動物衛生高度研究施設(図2)
HPAIウイルスなどのBiosafety level 3(BSL-3)にあたる畜産上重要な感染症病原体を取り扱うことが認められた農研機構内の高度封じ込め実験施設。WOAH並びに世界保健機構(WHO)のラボラトリー・バイオセイフティー基準に適合した国内有数規模を誇るBSL-3施設。
図2. 動物衛生高度研究施設
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