九州沖縄農業研究センター

所長室から

技術は作ってみたけれど・・・-「広報普及室」立ち上げにあたっての所信表明-

広報普及室長 岡本正弘

「試験場の技術はダメだ。今の世の中、金と手間さえかければ大抵のことはできる。もうかる技術を教えてくれ。」
行政部局が主催した昨年の農工連携の会議で、農業生産法人のAさんに言われた。

半ば固まりながら続けて話を聞いてみる。当センターが開発した技術への苦情ではなく、試験場一般の技術開発についての印象だった。ひとまずほっとしたものの、研究企画部門に身をおく者にとっては技術開発のありようについて考えさせられる一言となった。

民間企業で言えば、普及部門に相当するのは営業・販売部門である。ここは単にモノを売るだけでなく、顧客からの様々な要望や苦情を聞き取る。それを製品開発部門へと伝え、次期新製品の開発に役立てている。一方、私たちが所属する農研機構は約1700名の研究員が集う巨大な研究機関であるが、研究開発に特化されていて普及部門はもたない。以前は国-県農試-普及機関-生産者というルートがしっかりとしていた。特に食料増産時代には国で開発された技術が地域のすみずみの生産者まで手渡す上で大きな役割を果たした。しかし、独立行政法人となった現在、普及の道筋は必ずしも担保されなくなっている。従来の道筋を活用しつつ、独法として自前でやれる部分はやらなければならない。その意味で、広報・普及業務に期待される部分は大きい。

技術の受け手が明確でない研究開発は、研究者の独りよがりになりやすい。技術は作ってみたけれど一体誰が使うのか、といったことになる。冒頭のAさんに言わせれば、研究者は最初から使える当てのない技術の開発に多くの研究資金と労力と年数を費やしたことになる。

生産現場(技術の担い手)の声をいかに研究者に届け、さらなる新技術開発へと結びつけるか。普及活動のもう一つの重要な役割はこの点にある。新設された「広報普及室」では3人のスタッフと共に、「研究者-生産者」双方向の情報発信にチャレンジしたい。

広報普及室のスタッフ
広報普及室のスタッフ