九州沖縄農業研究センター

所長室から

シュリンクする組織であってはならない

九州沖縄農業研究センター所長 山川 理

山川所長民間企業はバブル崩壊後の経済不況を乗り切るため、業務内容の見直しや人件費節減などの厳しいリストラを行ってきた。最近、漸くその効果が現れ、企業業績も上向いている。一方、国立の研究機関は国財政の赤字対策の一環として独立法人化したが、国からの交付金を毎年削減するという形で、経営の効率化が望まれている。私個人としては独法化もショッキングではなかったし、経営の効率化も当然のことだと思う。しかし問題は組織をどう発展させるのかである。業績が回復した企業はこれから事業を拡大するための行動をとるであろう。現に昨年から企業の設備投資が増え、新規採用も盛んになってきた。M&Aによる経営規模の拡大も図られている。また社会のニーズをうまくつかみ、独自のノウハウによって着実に業績を積み上げていく企業は、ナンバーワンではなくてもオンリーワンとして発展してる。組織とは常に前向きに発展を求めた経営をする必要がある。たとえ今は苦しくとも、発展の夢を追うからこそ、組織が一丸となってがんばることができる。毎年経営規模が縮んでいくことが当たり前 、どんなにがんばっても将来を夢見ることが出来ないような組織が生き残れるはずがない。私たちは確かに交付金の削減を求められている。しかし、事業の縮小まで求められているのか。それは国の予算だけではなく社会全体からの投資が決めることだと思う。つまり社会のニーズをうまく掴めば、競争的資金や受託研究費等外部資金を獲得することが出来るし、それにより事業を拡大することも可能である。勿論、農水省が出資者である限り何をしても良いのではなく、農政を推進するために必要な研究を行うということである。農業政策を見てみると、最近大きく変化している。すなわち、生産者から消費者(実需者)重視へ、守りから攻めの農政への転換である。私はこれを産業政策の強化と見る。これまでの農業政策では環境政策、福祉政策、産業政策などが錯綜していたが、これからいよいよ他産業並みの産業政策が採られることを意味する。農業は生物産業へと変貌を遂げるであろう。農業は動植物と人間が関わる生物産業へと変貌し、多くの関連分野を巻き込みながら大きく発展する。私たちの研究組織も変貌しながら、新技術の発展を目指すことが必要となる。

このような状況下で技術開発について新しい考え方を提案したい。まず新技術のニーズの把握と対価の支払いのことである。新技術の開発はユーザーのニーズがあることから始まる。そして新技術の開発に対しユーザーは対価を払うことが当たり前でなくてはならない。無償の技術開発ではニーズの把握もいい加減となり、ユーザーと研究者との間に好ましい緊張関係も築かれない。優れた新技術に対しては開発受託費に加え、知材としての付加価値もつく。今話題となっているような「技術の普及」がどうのこうのと言った問題が生じる余地はない。次に研究態勢についてである。必要に応じて大学や民間、公設研究機関等とのネットワークを作る。人、施設、機械など何でも自前でそろえる必要はない。必要があれば外部に研究を委託すればよい。これからは柔軟なネットワークを持つことが組織の強みとなる。特に大学や他省庁傘下の工学系研究機関との連携強化がカギとなる。

大学は教育機関であり、学問の府である。社会的ニーズの有無にかかわらずさまざまな研究を行うべきである。大学の研究を近視眼的に評価することには賛同できない。役立ちそうな研究については私たちのような組織が実用化すればよいだけの話ではないか。他省庁傘下の工学系研究機関には私たちにとっておもしろそうな研究成果が数多くある。メカトロやナノテクなどの最先端の工学技術を革新的な農業技術の開発に活用したい。このような研究の連携は地域単位で行われることが多い。やはり地の利がものをいう。私たちの組織は地域のシンクタンクとして発展していく。ただ単に新技術を開発するだけではなく、地域施策へのコミットメントや産業戦略へのコンサルタントなどソフト面での活躍も期待して欲しい。