九州沖縄農業研究センター

所長室から

「農業技術という名の商品」

九州沖縄農業研究センター所長 山川 理

山川所長新年おめでとうございます。昨年は新中期計画の作成からその実行の年に当たり、職員一同大忙しの年ではなかったかと思います。今年からはようやく落ち着いて研究を進めることが出来るのではないでしょうか。今、農水省内では研究成果が普及しないのはなぜかということが話題になっています。私から見るとこのような議論が起きること自体大変に不思議な気がします。新技術に対するニーズがあったから研究を始めたのではないか。その結果が受け入れられないとすれば、そもそもニーズなどなかったのでは。あるいは研究成果そのものが未熟なため、ニーズに対応したものになっていない。情報の流れが悪いことも原因の1つに上げられているようです。よく「現場のニーズを聞け」ということが言われますが、ここにも大きな落とし穴があります。その現場とは社会の趨勢を的確に反映しているところなのか。つまりニーズを探りに行った現場が、陳腐化し、やがて消えゆく運命なら、技術が開発された暁にはそれを適用する場はなくなっている可能性が大きいでしょう。一方、あまりにも現実離れした手 品のような技術開発も問題です。たとえ新技術が出来たとしても社会が受け入れる余地はな いでしょう。私たちにとって未来を予測することはなかなか困難ですが、「偏見のない清んだ目」で社会をよく見ることにより、未来への萌芽を見つけることができると思います。「偏見のない清んだ目」とは、自分の研究の継続や研究費の確保だけを考える、私利私欲に汚されていない目のことです。このようにして始めた研究でも、予期されない状況の変化によって修正を求められることもあります。そのときは研究内容を大胆に見直すという柔軟性も研究者には必要です。あとは淡々と忍耐強く研究を進めていきます。いつ新技術を世に出すかというタイミングも重要です。新技術の裏付けとなるデータをそろえることは勿論大切ですが、あまりにも完璧さを求めると時機を失します。ある程度説明できる段階になったら速やかに新技術を社会に出し、不足を補うという態度も研究者にとっては重要です。私はニーズの把握がしっかりと出来ていれば、多少不完全な技術でも現場は受け入れると思っています。新技術とは現場の人達と一緒に育てていくものではないでしょうか。このような技術開発の流れ の中でとても重要なことがあります。それは開発担当者が最初から最後までしっかりと関与しなけ ればいけないことです。従来の研究の流れは直線的な受け渡し方式です。大学は基礎研究まで、国は基盤研究まで、県は開発研究ここまでという具合に研究機関毎の分担を決めていました。しかし、現場では技術の開発担当者との直接対話を求めています。また、現場の意見が直に開発担当者まで届くことが重要なのです。このようにして進められている新技術の開発状況を研究所の皆さんが良く理解し、一人一人が情報の発信者になって欲しいと思います。私たちが生産しているのは農業技術という名の無形の商品です。社員が自社の製品に誇りを持たず、PRもしないようではその企業は倒産するでしょう。今年も、私や広報普及室のメンバーは一生懸命に研究所のPRに努めます。皆さんも、いろいろな場所や機会を活用して研究所の商品をPRして下さい。自分に関連することは勿論、直接関連しないことも含めてです。行政組織は枠組み作りが得意です。いろいろな会議やイベントも設営します。しかし情報を伝えるのはやはり人です。自分たちの仕事を社会に伝えたいという熱き思いを持った 人達だけが成果の普及を担うことが出来ると確信しています。