九州沖縄農業研究センター

所長室から

新年の挨拶

九州沖縄農業研究センター所長 井邊 時雄

井邊 時雄新年あけましておめでとうございます。

昨年は、食品偽装や輸入食品の安全性の問題があり、さらに景気や雇用情勢が極端に悪化するなど大変な年でしたが、今年も見通しは明るくないようです。このような情勢の中で、九州沖縄農研は、安全・安心な国産農産物の生産・供給と食料自給率の向上という社会的要請に技術開発で貢献していくことが求められます。そのような技術開発を進める先導的・中核的な試験研究機関となる必要があります。農研機構の一員として暖地における重要な研究拠点として国内農業研究の一翼を担うということも重要です。それぞれの専門分野のネットワークを通じての専門性の深化と、他分野研究者や大学・民間・行政との連携分担を通じての総合性の強化をお願いします。また、精度が高く信頼のできる圃場試験・飼養試験が研究の基盤であることはいうまでもありません。

中期計画も残り2年間ですから、目標の達成に向けて自慢できる研究成果を創出してもらいたいと思います。そのためには研究の重点化を図ることが重要ですが、同時に、次期中期計画に向けての仕込みを考えてください。研究の素材、育種素材・実験素材の準備は今からでも早すぎるということはありません。研究の目標としては、超多収生産技術やバイオマス・機能性成分の向上・利用技術、高品質で安全な農産物を低投入で効率的に生産する技術、持続的環境保全型農業や減農薬農業に貢献する技術など、様々な課題があると思います。九州沖縄農研の存在意義をかけた研究開発を目指して、次期中期計画の策定に向けた検討を行うようお願いします。

成果普及の推進もこれまで以上に強化するようお願いします。論文の作成はもとより、現場への成果のPRも重要です。昨年、筑後研究拠点で行われた「研究協力員の集い」で研究協力員である稲作農家からトビイロウンカの防除に苦労している、という話がありました。ところが、昨年九州の主力品種である「ヒノヒカリ」にトビイロウンカ抵抗性を付与した「関東BPH1号」が、作物研究所と九州沖縄農研の共同で品種登録されているのです。農研機構の成果が私たちの研究協力員にも十分伝わっていないようです。所長以下、広報普及室も頑張りますが、職員の皆さんにも自分の研究成果はもとより、農研機構、九州沖縄農研の成果セールスにも努めてもらいたいと考えます。地域農業研究センターとして、どれだけ地域農業の発展に貢献したかが不断に問われているのですから。

関連して、今年の九州沖縄農研のセールスポイントの一つに、『無農薬・減農薬農業への技術的貢献』があると思います。「関東BPH1号」もそうですが、大豆の「九州155号」は主力品種の「フクユタカ」にハスモンヨトウ抵抗性品種を交配し、DNAマーカーを利用して抵抗性の染色体領域だけを置き換えたものです。また、イチゴの「カレンベリー」も育成されました。炭疽病・うどんこ病・萎黄病・疫病の四大病害に強く、「枯れん」ことが名前の由来です。もちろん、品種だけでなく、天敵利用による防除、耕種的防除など農薬を減らすことのできる栽培技術も様々あります。総合防除による減農薬農業で、水田にタガメやゲンゴロウが戻るのを夢見ています。数年前に宮崎県五ヶ瀬町で国内では初めてタガメを見ました(タイでは食べましたが)。環境が整えば必ず平地の水田にも戻ってくると思います。

最後に、職場の管理の問題についてお願いです。昨年は、規制物質について、徹底的な調査と管理をお願いしたところです。これからは、規則に従って厳密な管理を徹底してもらうことになります。研究者は自由で大胆な発想を大事にしてもらうのが基本ですが、研究に伴う実験や作業は安全第一を徹底して行い、規制物質も徹底した管理をお願いします。それが、働く者を、職場を大事にすることになり、研究所の発展に結びつくものと考えています。職員一丸となっての取り組みをお願いします。

それでは、本年もよろしくお願いします。