九州沖縄農業研究センター

所長室から

新年の挨拶(2010年)

九州沖縄農業研究センター所長 井邊 時雄

井邊 時雄あけましておめでとうございます。
昨年1年間、九州沖縄農研は非常に活性が高く、よく頑張ったと思います。今年も1年間、よろしくお願いします。

今年は1月から独立行政法人の見直しがあります。不安に思われている皆さんも多いと思います。しかし、九州沖縄農研は、農業生産の向上と環境保全、安全・安心な食料の確保ということに、精一杯努力しているのですから、私は全く心配していません。粛々と業務を推進していくのみであると考えています。

2009年の農林水産研究成果10大トピックスの第3位に、九州沖縄農研が育成した多用途向け品種の「ミズホチカラ」が選定されました。主食用品種より2割以上多収で、米粉にも適しています。このベスト10のうち、農研機構が関係するものは3つ、地域センターでは九州沖縄農研だけで、大変な栄誉であると誇りに思っています。
正月早々から会計検査があります。企画管理部の皆さんには対応をよろしくお願いします。日頃よりコンプライアンスに万全を期して業務を行っていただいていますので、大船に乗ったつもりでいます。日頃の円滑かつ緻密な業務運営に感謝している次第です。例えば、旅費の精算だけでも数千件になりますが、それらの業務を間違いなくこなされていることに敬意を表します。

研究支援センターの皆さんにも、日頃の業務運営に敬意を表したいと思います。精度の高い圃場管理や家畜管理は試験研究の基盤です。昨年から、業務上の創意工夫について所長表彰を行うこととしました。圃場管理や家畜管理あるいは各種施設の管理における様々な工夫は九州沖縄農研の研究推進を後押しするものであり、研究成果にむすびつくものと考えています。労働安全に万全を期して、今後ともよろしくお願いします。

次期中期計画について

2001年4月に独法化されたので、4月から10年目になります。第1期の中期計画では独法化ということがあり、第2期ではチーム制への移行がありました。ようやく独立行政法人という立場に慣れてきたところであると思いますが、改めて中期計画というものについて確認しておきたいと思います。

私たち独立行政法人は、政府から中期目標という委託を受けて、自ら中期計画を策定します。その約束である中期計画を達成するというのが私たちの義務になります。その義務を果たしているかどうかで評価されることになります。

中期計画は、スポンサーである国民とのお約束です。最近話題になっている「事業仕分け」を見ていただいても明らかなように、我々の計画には、説明責任が伴うことになります。もちろん、計画だけでなく、日々の業務も問われていると考えていただかねばなりません。何のために行うのか、税金を使う意義があるのか、常に自問しつつ、無駄を省いた効率的な業務の推進が求められます。

来年から始まる次期中期計画については、すでに研究内容やその柱立てについて検討を始めていますが、これまでの成果を踏まえ、また、現場から求められていることに対応して、課題の組み立てを考えていただいていると思います。農業生産・流通・消費の現場における問題をしっかりと踏まえ、また、これまでの研究の進捗と成果を土台に、次の5年間で何をどうするかを計画として明確にすることになります。当然、具体的な達成目標が求められます。できれば、より具体的な数値目標が適当と思います。

九州沖縄農研の役割

昨年末から開始した検討では、九州沖縄地域で重要と考えられ、特に九州沖縄農研が取り組むべきと考える研究課題を示し、また職員の皆さんからもご意見をいただきました。これらの研究課題をみると、つくづく私たち九州沖縄農研のような地域センターは総合デパートであると思います。総合デパートには多くのコーナーがありますが、それぞれのコーナーには専門店に引けを取らない充実した品揃えが欠かせないと考えます。

九州沖縄農研の研究者は、現場の問題に即応しなければならない県の試験研究機関の研究者と比較すると、それぞれの専門分野について深化して研究を進められる立場にあります。専門家として頼られる研究者となることが求められ、さもないと独法の地域センターとして存在意義はありません。私たちの技術開発は先導的なものでなければなりません。現場問題解決型の研究といえども、その研究の場が地域全体をカバーできるものではないので、あくまでも先導的なモデルを作る研究とならざるをえないと考えます。ここに県などとの連携の糸口があると思います。一方、大学と比較すると、農業生産の現場に近く、行政との連携があるため、現場の問題の把握が容易であるといえます。また、現場からのフィードバックも比較的容易です。すなわち研究対象や目標が明確であり、現場を端緒とし深化させる研究が強みであるといえます。研究機関により立ち位置が異なりますが、それぞれの特徴を発揮しつつ産学官の連携を進めることが理想です。

とにかく、九州沖縄農研は、現場の問題を解決する総合的な研究と専門的な深化が両立する研究所を目指したいと考えています。

研究システムについてですが、農研機構は、次期もチーム制で行くと言明されています。どのような案が採用されるにせよ、さきほど申し上げたように専門性を深化させるためには、専門分野内の結びつきの強化が必要と考えています。また、実験手法や素材を共有・共用することから、同じ専門分野の者ができるだけまとまれるよう配慮したいと考えています。常に専門的な論議やピアレビューのできるような、活性の高い職場を目指したいと考えます。

一方、現場での問題解決のために異分野の連携が必要な場合があります。そのためには、異分野の研究者で構成されるチームも必要と思います。また、研究者間の連携、チーム間の連携がうまく行く仕組みも考える必要があると思います。

研究成果の公表と広報

研究成果の公表についてお願いです。研究を実施して成果が得られたら、それを公表するのは当然のことと考えてください。現在の中期計画の主なところは達成されつつあると思います。積極的に論文として公表して、科学技術の進歩につなげてください。基礎的研究を分担している方はもとより、現場対応型の研究や育種研究においても同様です。先ほど申し上げましたように、現場対応型研究といえども、それは先導的な、すなわち、これまでにない考え方に基づいて行われる研究でなければなりません。論文化するためには基礎的研究以上に工夫が必要かもしれません。私の専門分野である育種学を例にすると、品種育成についても、品種の報告だけでなく、論文が書けるはずです(少なくともノートであれば)。育種といえども、新しい試みがなければ進歩はないはずです。さまざまな工夫、新しい遺伝子、新しい遺伝資源が利用されているはずで、それを論文化してください。育種学が発展するためには、この辺の一工夫というのを積み重ねていくことが重要です。
我々の成果を世に広め、また我々農研機構を認知してもらうために広報は重要です。所長キャラバンも積極的に展開していきますので、ご協力よろしくお願いします。また、プレスリリースもタイミングよく行っていきたいと思います。スポンサーである国民への広報だけでなく、一般公開などを通した地元地域の住民との交流も大事です。

なお、昨年末、産学官担当研究管理監をヘッドとして「産学官連携推進室」を設置しました。これは、情報発信を目的とした研究成果の公表と広報等の段階から、研究成果の普及を目的とした外部との連携の段階へ進むために必要な仕組みであると考えています。今後の連携推進にご協力をお願いします。

最後にお願いです。私は、職員一人一人が自ら行動することで九州沖縄農研を活性化することが最も重要であると考えています。それが、農研機構が国民から認められ、発展していくための基本である思います。次期中期計画の検討は、私たちの研究所の活性化をどのように進めるかを考える重要な機会であると思います。皆さんに知恵を絞っていただくとともに、活性化に向けた決意をお願いし、年頭の挨拶とします。