九州沖縄農業研究センター

所長室から

所長就任挨拶

澁谷 美紀

令和6年4月1日付で、農研機構九州沖縄農業研究センターの所長となりました渋谷美紀(しぶやみき)です。就任にあたりまして、一言御挨拶を申し上げます。

農研機構は令和3年4月から5年間の第5期中長期計画期間を開始しています。第5期では、担い手への農地集積や輸出増加等が続く一方で、労働力不足や気象変動、地政学上のリスクも増大しており、食料安全保障の確保や農業の成長産業化が強く求められています。農研機構は、これら農業・食品産業が直面する課題の克服に向け、我が国の農業・食品産業分野の中核的な研究機関として、政策的要請を踏まえ、農業・食品産業分野で科学技術イノベーションを創出することを使命としています。このために、政府が提唱する「Society5.0」の農業・食品分野における実現を最重要課題とし、①食料自給率向上と食料安全保障、②農産物・食品の産業競争力強化と輸出拡大、③生産性向上と環境保全の両立に貢献することを目標としています。九州沖縄農業研究センターはこれらの目標の達成に向け、地域農業・食品産業の競争力を強化する技術開発とその社会実装に取り組んでいます。

九州・沖縄地域では気候条件や立地、土壌の条件に応じて地域ごとに水稲、麦、大豆といった土地利用型作物、茶やサトウキビといった工芸作物、肉用牛や酪農といった畜産物等の多様な農作物が生産されています。また、温暖多雨な気候により、水田を利用した麦作等の二毛作が行われるなど耕地利用率が高いのも地域農業の特徴です。さらに、食糧供給基地として全国の農業産出額の2割の生産高を誇り、市場の成長が著しいアジア諸国への輸出拠点として、イチゴや和牛肉、サツマイモなどの輸出額を大きく伸ばしてきました。

九州沖縄農業研究センターでは、これらの特徴を踏まえ、「農地フル活用による暖地農畜産物の生産性向上と輸出拡大」に向けた研究に取り組んでいます。具体的には、AI・データを活用したスマート技術開発により、① 繁殖から肥育の継ぎ目のないシームレス管理による高品質低コスト和牛肉生産、②サツマイモ基腐病被害の抑制とデータ駆動型精密管理技術による施設野菜の増収と燃油削減、③子実用トウモロコシを導入した安定生産が可能な高収益水田輪作体系の実現、④タマネギの低コスト生産に向けた直播栽培技術の適用拡大の課題を実施しています。これらの課題のもと、昨年度までに、南九州の主力作物であるサツマイモについては基腐病対策や輸送中の腐敗防止対策、減収が課題となっている大豆については極多収大豆新品種「そらみのり」や湿害リスクを低減させ安価で高能率な播種ができるディスク式高速一工程播種技術など高位安定生産技術の開発を進めてきました。また、和牛肉の生産コスト低減と輸出力強化に向けては、家畜ふん堆肥等の有機質資材の肥効を予測するAPI開発とそれによる飼料生産費削減効果を評価するなど、気象リスク低減と農地フル活用による生産性の向上や輸出拡大を目指した研究開発を推進しています。

第5期中長期計画期間の4年目にあたる今年度は、これまでの開発技術の普及を加速するため、技術ターゲットである営農現場において、開発した技術が生産性向上やコスト削減等の目標を達成するものとなっているかを定量的に検証し、技術改善につなげていくことが重要になります。そのために、生産現場の皆様と緊密に連携して、農業所得の向上に結びつく研究成果の創出のため努力してまいります。関係機関の皆様には、今後ともご指導、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。