要約
ケブカアカチャコガネ雌成虫の性フェロモン活性成分は(R )-2-Butanolというアルコールの一種である。一方、本アルコールのs体は誘引阻害効果をもつ。
- キーワード: サトウキビ害虫、ケブカアカチャコガネ、性フェロモン、(R )-2-Butanol
- 担当: 沖縄農研・さとうきび害虫研究チーム(指定試験)
- 代表連絡先: Tel:098-840-8504
- 区分: 九州沖縄農業・病害虫
- 分類: 研究・普及
背景・ねらい
宮古島や伊良部島において、ケブカアカチャコガネの幼虫がサトウキビの地下部を食害し、収穫直前に枯死させる大きな被害を与えて問題となっているが、農薬による土壌害虫の防除は難しい上に、飲料水を地下水に依存している地域では環境への配慮の点で問題もある。そこで本種に対する環境負荷の少ない有力な防除法を見出すために性フェロモンの同定を試みる。
成果の内容・特徴
- 野外から採集した未交尾雌5頭を100ml容ガラスビーカーに入れ、コーリング時間帯に空気中に放出された匂い物質を固層抽出(SPME)法で30分間抽出する(図1)。
- 匂い物質を抽出後直ちにガスクロマト分析すると同時に、昆虫から採取した触角にも吹きかけ、触角から発生する電気信号の強弱を調べる。その結果、2つの顕著なEAG応答(触覚電図)が得られる(GC-EAD法、図2)。
- 対応する2物質は、ガスクロマト質量分析をすることで化合物の分子構造解析をした結果、2-Propanol(2プロパノール)と2-Butanol(2ブタノール)と推定される(図3)。2-ButanolにはR体とS体の2つの幾何異性体が存在する。
- 2007年2月、宮古島現地で衝突板付きトラップ(
)に取付けた綿球に3段階(1,10,100μg)の濃度に希釈した試薬1mlを含浸させ、野外誘引試験をしたところ、(R )-2-Butanol単独にだけ雄の誘引が認められる(図4)。
- したがって雌成虫が放出する性フェロモン活性主成分は(R )-2-Butanolであると結論される。
- 一方、(S )-2-Butanolやラセミ体(R体とS体が1:1に混合)には全く誘引されないことからS体は誘引阻害効果をもつと考えられる。
成果の活用面・留意点
- 本成分を用いてモニタリングや交信かく乱法による成虫防除が可能となる。
- 本成分は揮発性が高いため、ポリエチレンチューブなどへの封入が必要である。
- 交信かく乱剤として安価なラセミ体の2-Butanolが利用できるかの検討が必要である。
具体的データ
(新垣 則雄)
その他
- 研究課題名: 交信撹乱等を用いたサトウキビ安定生産技術の開発
- 予算区分: 指定
- 研究期間: 1999~2009年度
- 研究担当者: 新垣 則雄、永山 敦士、親富 祖明、太郎良 和彦(沖縄農研)、若村 定男、安居 拓恵、田中 誠二、平井剛夫(農生研)、秋野 順治(京工繊大)、深谷 緑(京大)、安田 哲也(中央農研)、望月 文昭、福本 毅彦(信越化学)、大須賀 潤一(日本電子)
- 発表論文等: Arakaki et al. (2009) Appl. Entomol. Zool. 44(2):231-239