九州沖縄農業研究センター

創意工夫者表彰

麦類雑種集団における長稈晩生個体除去のための走行型穂切り装置の考案

考案者: 業務第2科 三池輝幸業務第2科 中島 誠

創意工夫の内容

麦類雑種集団における長稈晩生個体除去のための穂切り作業が1名で行える育種圃場用の作業機を、市販の管理機を活用して考案した。
九州は国産麦類の一大産地であり、九州沖縄農業研究センター筑後研究拠点では、約400aの圃場を用いて小麦・大麦の育種研究を行って、膨大な育種材料を栽培している。そのうち約1/5の80aでは、雑種集団と呼ばれる種々な個体が混合された状態の材料を栽培している。これらは交配後概ね2~4世代を経た材料であり、中には稈長が極めて長いものや極晩生(一般に晩生個体は稈長も長い)といった実用には不向きな劣悪個体も少なくない。
このため、雑種集団の中から栽培に適した早生短稈個体を選抜する必要がある(写真1)。多くの育種現場では、人海戦術で早生で短稈な穂を摘む作業を行っているが、80aともなれば7~8名が3日以上かかる作業となる。
当センターでは、省力化のために雑種集団の成熟前に、茶葉を刈る刈り取り機(トリマー)を用いてある高さで手作業により穂刈りし、長稈晩生個体を淘汰する作業を行ってきた。穂刈りに最適な高さは、その年の気象や圃場条件、交配組合せによって異なってくる。それぞれの集団に応じた高さを維持しつつトリマーを持って一畦ずつ刈りとる作業は、80aともなると長時間を要する重労働であり、また危険を伴う作業であった(写真2)。

写真1 穂切り作業による雑種集団の状態
写真1 穂切り作業による雑種集団の状態
(左:穂切り前、右:穂切り後、長稈晩生個体
が除去できている)

写真2 従来の穂切り作業による雑種集団の状態
写真2 従来の穂切り作業による雑種集団の状態
(エンジンを背負い、手でトリマーを抱えて歩きなが
ら穂切りを行う)

そこで、候補者は市販の管理作業機の上部にトリマーを装着し、刈り取り高さを自在に調節できる穂刈り作業機を考案した(写真3,4)。簡単な操作で、刈り取り時にその場でそれぞれの雑種集団の高さに応じて穂刈りできる利点を備えている(写真5)。また、エンジンによる走行のため、作業者は1名で安全に短時間(80aを6時間)で作業することができ(写真6)、作業効率も大幅に向上した。

写真3 走行型穂切り装置の概略
写真3 走行型穂切り装置の概略
(管理機に高さが変えられるトリマーを取
り付けた)

写真4 穂切り装置の取付部分
写真4 穂切り装置の取付部分
(取付が簡単な構造で、手元でトリマーの
高さを調節が可能)

写真5 走行型穂切り装置の作業状況(1)
写真5 走行型穂切り装置の作業状況(1)
(巻き取り機とレバーで、一畦毎に異なる
適正な刈り取り高さに調整)

写真6 走行型穂切り装置の作業状況(2)
写真6 走行型穂切り装置の作業状況(2)
(一人で安全に、一定の高さに穂切りでき
る)

創意工夫の実績

当研究センターでは、約400aの圃場を用いて小麦・大麦の育種研究をおこなっており、そのうち約80aの雑種集団で選抜のための穂刈り作業を行っている。従来は、1名が穂刈り高さを確認しながら、もう1名がトリマーを持って歩きながら一畦ずつ刈っていく作業を、総歩行距離では5~6kmも行う必要があった。また、トリマーを抱えながら、組合せなどによって穂刈高さを80~120cmと変動させながら刈っていく作業は腕や腰に大変負担がかかる上、足場の悪さから転倒が懸念される危険な作業であった。
しかし当該作業機の考案により、トリマーを手で抱えながら作業する必要がなくなり、労働不可が大幅に改善されるとともに、なにより安全性が格段に向上した。また、畦毎に異なる穂刈り高さも、レバー操作一つで簡単に調節可能である。さらに、エンジン走行のため、80aもの面積の穂刈り作業が1名で行えるようになり、作業効率は人手による穂摘みと比較すると約20倍(歩行によるトリマー刈の2倍以上)に向上した。
作業機やトリマーは従来から利用している市販機であり価格はそれぞれ20万円、3万円程度である。当該装置は写真からもわかるように構造が簡単であり、製作も容易である。 本装置を適用した雑種集団から長稈晩生個体を除去した組合せからは、すでに早生で短稈の有望系統が育成されている。

関係研究者(小麦・大麦育種ユニット所属)の所感

育種研究においては、膨大な数の材料をいかに効率よく迅速に扱って、選抜を行うかが新品種を育成する鍵となります。実際の作業をみるとよくわかりますが、今回の創意工夫で従来作業に比べて格段に効率は上がり、しかも安全に楽に作業を進めることができて助かっています。
このような創意工夫のおかげで、新品種育成にもはずみがつくのを感じています。