創意工夫の内容
牛を飼養管理する際に、粗飼料を一定量給与することで、過肥を防止し、適正な栄養状態の維持は重要である。しかし、体積の多い乾草飼料を一定量ずつ計量・選別し給与することは飼養管理者の大きな労力を要し、飼養頭数が増えるに従ってさらなる給与労働が必要となる。一方で、乾草給与の省力化を図る際にロール型乾草を草架に配置し、自由採食をさせることで一頭ごとの計量・選別の必要がなく労力が軽減化される給与方法として広く使われている。しかし、自由採食させることで、必要量以上に摂取する個体や、牛群内の序列により採取出来ない個体等、適正な給与管理がしにくいという問題点もある。加えて、牛の体調管理や人工授精等の繁殖管理を行う場合、スタンチョン等の枠場に保定する必要が生ずる。しかし、放牧場やパドック等で複数の牛を保定操作する場合、一定の場所に固定して設置する必要があり、牛舎構造に合わせた場所の移動変更は不可能、すなわち、保定枠の場所に合わせた牛の管理をしなければならない。そこで、本創意工夫として、草架にスタンチョンを設置することで、牛の保定による一定時間のロール乾草給与を可能とする移動式草架を考案した(図1)。 まず、草架の各面に2頭ずつのスタンチョンを計4面設置し、総計8頭の繁殖牛の繋留が可能な構造にした。一面を開放することで従来通りの草架へのロール収納作業となる(図1)。4面繋留によって従来の一列式の牛繋留配置(図2)と比べて二次元的な繋留が可能となるとともに(図3)、車輪の設置によって場所の移動も容易となった。このため、設置場所の制限を受けずにロール乾草の給与および牛の繋留場所の確保の問題を解決した(図4)。加えて、繋留牛への試験作業も容易となった。実際の移動式草架で見られたパイプ間からの乾草の食べこぼしによるロスについては、金網をスタンチョン以外に設置することにより解決した(図5)。さらに、乾草の給与時にのみ牛を繋留し、乾草を摂食させることで、牛群内の序列により摂食出来ない個体給与の問題も解決できた。乾草摂食の際に牛をスタンチョンで保定させて乾草を給与させ、給与時間以外では草架を隔離することで、一定の時間を区切っての給餌が可能となり、長い採食時間による過食の問題も解決することができた。
図1 新型移動式制限給餌型ロールベール草架
※ 移動後は四隅の支柱を下に降ろし、地面に接地させる(○印)。
これにより安定し、転倒や牛による移動を防ぐ。
図2 従来型草架でのロール乾草給与
図3 新型ロールベール草架への牛保定とロール乾草給与
図4 新型ロールベール草架スタンチョン
繋養牛へのロール乾草給与
図5 金網設置による乾草食べこぼしロスの軽減化
創意工夫の実績
本移動式制限給餌型ロールベール草架の考案により、1)乾草給与の省力化、2)設置場所の自由度、3)繋留牛の管理および、乾草の食べこぼしロスの軽減化が容易となった。特に、草架の移動が容易なので、必要な場所に本草架を設置することで乾草給与および牛の繋留が可能となり、管理の容易性が向上した。加えて、固定式スタンチョン設置の際の場所制限および設置工事費用も軽減でき、総体的な管理の省力化につながった。実際に、本草架および従来型移動式草架を使って一定時間ロール乾草を給与し、その効率を比較してみた。その結果、従来型草架では、草架パイプ間の全ての部位から乾草を自由摂取することで、その食べこぼしが顕著に見られ、かなりのロスが観察された(図6)。これに対して、考案草架では、食べこぼし乾草の量は顕著に少なく(図7)、一時間あたり一頭の食べこぼし量としておよそ6分の1の量であった(図8)。
以上の結果から、本移動式制限給餌型ロールベール草架は飼養管理者側からの省力作業に加えて、牛への栄養管理効率も向上することができた。近年の飼料価格高騰による自給飼料の有効活用が高まっているなかで、粗飼料としての乾草給与の効率化・省力化の両利点を有し、かつ人工授精等の牛管理への活用も期待され、非常に利点が多いことから、本創意工夫草架による広範囲の活用が期待される。
図6 従来型草架での一定時間給与後の食べこぼし
図7 考案草架での一定時間給与後の食べこぼし
図8 従来型と考案草架での一定
時間給与後の食べこぼし量の比較
**: 1%水準で有意差あり
関係研究者(暖地温暖化研究チーム所属)の所感
場所を選ばずに乾草を一定時間与えることができる。牛を繋 留できるので、繁殖管理や衛生管理も同時にできる。
暖地温暖化研究チームでは、牛の生産性や繁殖性向上のための生殖生理や栄養管理に 取り組んでいます。現在、畜産を取り巻く環境の中で、近年の輸入飼料価格高騰の波を受けた国内での飼料自給と省力的な牛の管理が今後求められているという状況があります。
そのような中で、今回の創意工夫で考案された移動式制限給餌型ロールベール草架は、移動式の草架と牛のつなぎを合体させた「ハイブリッド」な発明で、次のようなメリットがあります。
- 場所を選ばずに乾草を一定時間与えることができる。
- 牛を繋 留できるので、繁殖管理や衛生管理も同時にできる。
このような利点を生かしての研究チームでの研究推進や実際の現場での利用の両用が可能な発明であり、今後の改良や普及が期待される発明であると思います。