九州沖縄農業研究センター

創意工夫者表彰

トウモロコシの二期作栽培向け不耕起播種機の考案

考案者: 業務第3科 杉松 力、徳地 伸彦、上村 政文

創意工夫の内容

九州中・南部地域の飼料用トウモロコシの二期作栽培では、二作目の生育期間を十分確保するため、一作目の収穫後できるだけ早く二作目を作付けする必要がある。そのため耕起作業を省いた不耕起播種が広く行われている。また、不耕起播種は、労働負担が大きい播種に伴う一連の作業を省力化することができる利点がある。しかし、市販されている汎用型不耕起播種機は6条型で250万円と、大型で小規模な圃場での利用に適さず、また高価である。そこで、小規模な圃場で、新たな投資もできるだけ少なくて不耕起播種を可能にするため、普及している耕起地用の播種機に以下の2点の改良を加え、不耕起播種に適用可能とした。
(1) 第一に、耕起地用播種機の施肥オープナー(図1)では、一作目トウモロコシの根が土中に残る耕起されていない土壌を十分に作溝することができないため、肥料と種子の位置が近くなり種子の肥料焼けで発芽に支障をきたす。そこで、着脱式溝切り器(図4)を考案して施肥オープナーの前に取り付けた(図2)。溝切り器は、必要な強度を考慮した材質と構造にし、これによって溝切り深さ20cm以上を確保でき(図3)、土中に切られた播種溝に施肥オープナーにより押し広げられながら溝下層部に肥料が投入され、溝上層部にトウモロコシ種子が置かれるため、種子の肥料焼けを回避できる。

図1 改良前の市販播種機(母体)
図1 改良前の市販播種機(母体)

図2 施肥オープナー前に溝切り器を付設
図2 施肥オープナー前に溝切り器を付設

図3 溝切り深さ20cm以上確保
図3 溝切り深さ20cm以上確保

図4 着脱式溝切り器
図4 着脱式溝切り器

(2) 第二に、耕起地用播種機の土寄せ機構では溝切り器によってできた溝を十分に埋め戻すことができなかったため、可変式の覆土器(図5)を考案して取り付けた。土壌の状態にあわせて土寄せ幅と覆土深さを調節することにより適切に覆土することができるようになり、発芽率が飛躍的に向上した。 以上のように、耕起地用播種機に着脱式溝切り器と可変式覆土器を取り付けることで(図6)、安定した不耕起播種を行うことが可能となった(図7,8)。また、着脱式溝切り器、可変式覆土器は簡単な構造のため安価に製作可能で、普及にも適している。

図5 可変式覆土器
図5 可変式覆土器

図6 全体図
図6 全体図

図7 施肥部・播種部・覆土部が同一直線上
図7 施肥部・播種部・覆土部が同一直線上

図8 一作目のトウモロコシ切り株跡
図8 一作目のトウモロコシ切り株跡

創意工夫の実績

不耕起で播種作業を行うには、硬くしまった土壌に直接播種することが必要である。一作目のトウモロコシの切り株がまだ枯れていないような状況で播種する場合、根や残稈を切り裂きながら播種する必要があるのに市販播種機では強度と重量の点で問題があり、安定した確実な播種が困難であった。
そこで不耕機播種作業の可能な、強固で頑丈な播種機が不可欠となる。しかし、市販されている不耕機播種機は大型で価格が高く、一般の農家には経済的負担が大きい。そこで、今回考案した方法は、既存の耕起地用播種機に取り付けるだけで不耕起播種作業はもちろんのこと、通常の耕起播種作業にも対応が可能である。
当事業所では、春季4月の一作目の播種作業には付加部を付けない状態で播種し、夏季8月の二作目では付加部付きの改良型で作業を実施し、好結果を得ている。とくに二作目においては、プラウ耕起、ロータリ耕起の耕うん作業2工程を省けることによって、一週間程度の作業期間の節約と播種適期を確保できる顕著な効果があった。
二作目の播種時期である8月は一時的多雨になることもしばしばで、通常の耕うん作業ができないことによる播種適期(8月1~7日)の遅延は試験研究上、避けなければならない必須条件となる。しかし、この播種機の導入により、耕うん作業は不要となり、小雨の気象条件でも播種作業が可能であるため、試験設計どおりの播種適期を維持できるようになり研究精度が飛躍的に高まった。また、育種を目的とした従前の作業体系では30アールの作付けしかできなかったが、この播種機の導入により作業効率が向上し、60アールの作付面積に拡大できるようになり、試験実施件数が増え、研究進展が加速した。一般農家にあっては、1日に数ヘクタール単位での不耕起播種作業が可能である。
簡単な構造であることから、改良装置が安価な値段(2万円ほど)で市販されれば、需要は大きいといえる。

関係研究者(トウモロコシ育種ユニット所属)の所感

トウモロコシの二期作(夏播き)栽培では、少しでも生育期間を長くとるため不耕起播種が定着しつつあります。夏播き向きの品種育成でも、実状に応じて不耕起での栽培試験が必要であると感じ、数年前に「今年の夏播きから何とかなりませんか?」で試作を始めていただきました。
当初は、小規模の試験栽培に利用できればいい、と考えていましたが、改良を重ねて、今では試験栽培はもとより一般栽培にも利用できる出来映えになったと思います。