九州沖縄農業研究センター

創意工夫者表彰

地域資源を有効活用した「イチゴECOなりシステム」

考案者: 業務第2科 中原 俊二

創意工夫の内容

九州沖縄農業研究センター久留米研究拠点では、暖地及び亜熱帯に属する九州沖縄地域における野菜・花きの生産技術の開発に関する研究を行っており、我が国で最も重要な園芸作物であるイチゴについては、品種育成、生育、開花結実の制御から病害虫の防除技術までを含めた総合的な生産システムの開発を主要研究業務としている。
イチゴ生産は11月~5月までを出荷期間とする促成栽培が約9割を占め、主要な作型となっている。育苗期の低温・短日処理により第1花房は確実に分化させられるが、定植後の第2花房以降の花芽分化については、定植後の気象条件等の影響を受けやすく、特に近年の温暖化による花芽分化の遅延等による不安定化と果実品質の低下等が深刻な問題となっている。
この問題を解決する技術として、九沖農研がイチゴの株元に冷温水を通し、クラウンの温度を制御し、花芽分化の促進、果実肥大の向上、草勢維持等を実現し、増収と収穫の平準化(図1)及び暖房コストの低減を実現するイチゴのクラウン温度制御技術(図2~4)を開発した。本技術は農林水産省の農業新技術2009にも選定され、幅広い普及が期待されている。

図1 増収と収穫の平準化

図1 増収と収穫の平準化

図2 一般的な温度

図2 一般的な温度

図3 クラウン温度の問題点

図3 クラウン温度の問題点
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図4 クラウン温度の制御方向

図4 クラウン温度の制御方向

クラウン温度制御技術は、温調用の温度保持性が優れる軟質塩ビ製2連チューブと冷温水が供給できる循環水密閉型の冷温水供給装置及び循環用ポンプからなるが、汎用型は高出力の冷温水供給装置を用いるため、導入コスト及びランニングコストの低減が課題となっている。
そこで、発案者は、主たる冷温水供給源として地域資源エネルギーである地下水、太陽熱、暖房機からの排熱等に着目し、不足分を低コスト型ヒートポンプにて補う「地域資源を有効活用した低コストな「イチゴECOなりシステム」」を考案した。
具体的には、循環水密閉型の冷温水供給装置の代わりに、冷温水供給源として水温の季節変動が小さい地下水とその貯水槽の水を主たる冷熱源として利用し、不足分を冷却・加温が可能な低コスト型ヒートポンプと発案者が考案した温風暖房機の排熱を利用した温湯供給コージェネレーションシステム(実用新案登録第3117519号(温室施設装置))により補い、2連チューブに設置したサーモスタットによって、イチゴの花芽分化の促進と草勢維持に有効な温度15°C~23°Cでゾーン制御を行うことでランニングコストの低減が図れる。

汎用型のクラウン温度制御システムから低コスト型の「イチゴECOなりシステム」へ改良

「イチゴECOなりシステム」の特徴であるゾーン制御

このシステム構成により、定植後の地下水を利用した冷却と冬季の暖房機排熱を利用した加温に、低コスト型ヒートポンプを併用することで、低コストで果実の肥大促進、冬季の草勢維持、連続出蕾性の向上による収穫期の平準化が可能になった。

秋・春期のヒートポンプを利用した冷水供給

冬期のヒートポンプと暖房機の排熱を利用した温水供給

現地実施用試験事例

創意工夫の実績

本システムを導入したハウス11a規模での現地実証試験の結果、処理区における温度推移は、クラウンに接するチューブ表面温度が18~23°C、日較差は4°C程度で推移し、これまでに明らかになっている花芽分化及び草勢維持に最適な温度18~20°Cを長時間維持することができた。
第1果房の2、3番果への果実肥大効果については、無処理区では29.1gに対し、処理区では34.6gと有意に大きくなり、果実肥大が優れ商品性が大幅に向上した。これらの結果は、高コストな汎用型で得られた効果と同様であった。処理区の草勢は、無処理区よりも収穫期を通じて強く推移し、冬季の草勢維持のために行う電照時間も、従来の3~4.5hr/dayから1~1.5hr/dayに削減でき、省エネ効果も得られた。
本システムで導入した低コスト型ヒートポンプは液/液熱交換型で、容易に冷温水供給が可能でCOP率も3~6と高効率で、地下水・湧水・河川水等のさまざまな水源が利用可能である。
導入費は、従来の汎用型では約250万円/10a、ランニングコスト30万円/10aであるのに対し、本システムでは導入費が約135万円/10a、ランニングコスト7万円/10aと導入コスト及びランニングコストともに低コスト化が図られた。

汎用型と低コスト型(イチゴECOシステム)における導入及びランニングコストの比較

「イチゴECOなりシステム」を導入した現地実証試験における経費削減効果

本システムは市販の農業資材及びユニットで構成され、取捨選択により多様な現場のニーズに合わせた資材によるシステム構築が可能で、自家施工も容易である。
低コスト型ヒートポンプの熱回収率は、冷却時で平均10kwh(秋春期)、加温時で平均5kwh(冬期)であった。さらに、温風暖房機の排熱を利用した温湯供給コージェネレーションシステムにより、暖房機から出る排気熱のうち約40%(35,520kcal(41kw)/h)を回収し、ハウス内加温に使用した燃料消費量も未導入時と比べ約40%(3,760L(CO2:10t))削減できた。

関係研究者(イチゴ周年生産研究チーム所属)の所感

イチゴ周年生産研究チームでは、西南暖地においてイチゴの周年供給技術を確立することを目的として、品種開発と新しい栽培技術の確立に取り組んでいます。その中で開発したクラウン温度管理技術は、花芽分化の促進、果実肥大の向上、草勢維持等を実現し、増収と収穫の平準化及び暖房コストの低減を実現する技術として高い評価を得て、NARO RESEARCH PRIZE 2008の受賞及び農林水産省の農業新技術2009に選定され、幅広い普及が期待されているところです。
今回新たに開発した「イチゴECOなりシステム」はこれらの技術を元に現地実証試験において研究協力員の方々の「井戸水等の地域資源の有効活用ができないか?」との声を真摯に受け止め、業務科職員の創意工夫により具現化したものであり、そのシステムとしての汎用性、導入のしやすさ、実用性の高さから、非常に魅力なシステムにリニュアルすることができました。
このように、現場の要望をいち早く具現化できる当場の業務科技術集団は、より完成度の高い技術確立を進めていく上で、なくてはならない戦力となっています。
是非、「イチゴECOなりシステム」を有効活用いただき、安定経営に生かしていただければ幸いです。