白い花にはアントシアニンやカロテノイドのような赤色や黄色の色素は含まれていません。また、白い色素が含まれているわけでもありません。白く見えるのは、花弁に含まれている小さな空気の泡(気泡)が光を乱反射するためです。
多くの場合、白い花にもフラボノイドと呼ばれる「無色」の物質が含まれています。フラボノイドが無色に見えるのは、人間が認識できる可視領域の光をほとんど吸収しないからです。一方で、昆虫は可視領域だけでなく、紫外領域の光も認識することができます。フラボノイドは 紫外領域の光を吸収する性質があるため、昆虫には色素として認識されていると考えられています。
花弁にカロテノイドが貯まらないしくみ
花弁に色素が貯まらないしくみは、植物によって様々です。色素が作られているのに、貯まっていない場合もあります。キクの白色花弁はその例です。キクの白色花弁では、カロテノイドの生合成に関わる酵素遺伝子が、黄色花弁と同様に発現しています(成果情報1)。このことから、白色花弁でも、黄色花弁と同様にカロテノイドを作っているものと考えられます。一方、カロテノイドを分解する酵素(カロテノイド酸化開裂酵素;CmCCD4a)はキクの白色花弁で発現していますが、黄色花弁では発現していません(成果情報2)。遺伝子組換えでCmCCD4a遺伝子の発現を抑えると、白色花弁が黄色になりました(図2、成果情報3)。これらの結果から、白色花弁ではカロテノイドが作られているのに、酵素によって分解されて蓄積していないことが明らかになりました。キクと同じように、酵素によって分解され白色となっている例が、ツツジやハカタユリ、ナズナでも報告されています。
アサガオは、江戸時代からの長い育種の歴史があり、様々な花色や模様を持つ品種が数多く作られていますが、黄色い花を咲かせる品種が存在しません。そこで農研機構では、アサガオを材料に、なぜ花弁にカロテノイドを蓄積しないのかを調べました。カロテノイドの生合成にはたくさんの酵素が働いています(図107)。これらの酵素遺伝子のアサガオ花弁での発現量を調べたところ、多くのカロテノイド生合成酵素遺伝子の発現が、きわめて低いことがわかりました(成果情報4)。キクとは異なり、アサガオはそもそもカロテノイドをほとんど作っていないのです。カロテノイドは光合成に必要な色素なので、アサガオも葉では多量のカロテノイドを作っています。なぜ花では多くの生合成酵素遺伝子の発現が抑えられているのか、そのしくみはわかっていません。
花弁にアントシアニンが貯まらないしくみ
アントシアニンを貯めないことも白い花弁を作るためには重要です。アントシアニンは数多くのステップを経て生合成されます。それぞれのステップは酵素の働きで触媒され、反応が進みます。アントシアニンを蓄積しない花では、これらの酵素のどれかひとつ、または複数が働かなくなって生合成がストップしています(カーネーションの例:図24)。どのステップの酵素が働かなくなっているかは植物の種類や品種によって様々です。また酵素が働かない原因も様々で、酵素遺伝子が変異している場合や、酵素遺伝子の発現を促す転写因子が変異して酵素遺伝子が発現しなくなった場合などがあります。
なぜ花弁にアントシアニンが蓄積していないかを調べた例がたくさん報告されていますが、どれも生合成がストップしている例で、分解されている例はほとんど報告がありません。ヤマホロシ(図3)のように、花が咲くにつれて青色から白色へと変化するものがあります。アントシアニンが分解されて白くなると考えられていますが、分解に働く酵素の実態は明らかにされていません。
アントシアニンの生合成に関与する遺伝子は変異しやすく、アントシアニンを生合成する赤花や青花から白花が生じる突然変異がしばしば見られます(図4)。一方、カロテノイドは光合成に必須で、植物が生きていくためにはなくてはならない化合物です。そのため生合成経路は頑丈にできていて、黄花から白花への変異はほとんど起こりません。したがって、黄色の花をもとに突然変異を誘発して白い花を作ろうとしてもなかなか出来ません。マリーゴールド(図5)やヒマワリ(図6)では、白い花を目指して育種が行われていますが、最も白に近いものでもわずかに黄色みを帯びていて、白花の育種は成功していません。
関連する農研機構成果情報(一般向け)
- キク白色花弁におけるカロテノイド生合成系酵素遺伝子の発現 (2005)
- キク花弁の白色の形成にはカロテノイド分解酵素が関与している (2005)
- カロテノイド分解酵素遺伝子の発現抑制によるキク花色の改変 (2006)
- アサガオ花弁におけるカロテノイド生合成系酵素遺伝子の発現解析 (2009)
専門家向け参考文献
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