要約
サツマイモ基腐病発生地域においてかんしょ(サツマイモ)の生産を可能にするためのマニュアルである。病原菌を「持ち込まない、増やさない、残さない」ための対策を総合的に実施することで、本病の発生を低減でき、未発生地域を含めた生産地におけるまん延防止にも有効である。
- キーワード : サツマイモ基腐病、発生生態、診断法、防除体系、かんしょ
- 担当 : 九州沖縄農業研究センター・暖地畑作物野菜研究領域・畑作物・野菜栽培グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
鹿児島県、宮崎県および沖縄県のかんしょ産地において、国内ではこれまで発生報告のなかったサツマイモ基腐病(以下、基腐病)が多発し、収量の減少が深刻な問題となっている。そこで、本病の国内における発生生態を解明し、診断・防除技術を開発する。また、研究成果を速やかに現場で活用してもらうため、技術者向けマニュアルを作成し、公開する。
成果の内容・特徴
- 本マニュアル(図1)は、基腐病の発生生態、診断法、防除対策の3章で構成される。かんしょの生産・栽培に係る指導者向けに、各項目の要点と、その根拠となる試験結果を図表で示し、解説している。
- 基腐病は、病原菌(Diaporthe destruens)に感染した種イモや苗を圃場(苗床・本圃)に植え付けることで発生し、主に、発病株に形成される大量の胞子が水を介して周辺株に広がりまん延する。病原菌は、主に種イモと罹病残渣(収穫後に圃場に残された感染した屑イモや茎葉)中で生き残り、次作の伝染源となる。
- 圃場では基腐病と類似した病害も発生するが、症状や病原菌の形態的特徴(図2)の観察または遺伝子診断(PCR法)を行うことで基腐病の診断が可能である。
- 基腐病防除の基本は、病原菌を「持ち込まない、増やさない、残さない」ための対策を総合的に実施することである(図3)。
- 苗の育成時に苗床の消毒、未発生圃場からの種イモの採取、茎頂培養苗の導入、健全な種イモや苗の選別とその消毒を行い、本圃への定植時に苗の適切な消毒を行うことで、無病健全苗の生産が可能となり、本圃への基腐病菌侵入リスクが減少する(データ省略)。
- 基腐病が発生した圃場では、連作の回避、抵抗性品種の利用、排水対策、発病株の抜き取りと薬剤の予防的散布、早期収穫、罹病残渣処理、土壌消毒などを行い、土壌中の基腐病菌量を減らすことで、次作での基腐病の発生が減少する(データ省略)。
- 各種対策を単独で実施しても十分な防除効果は得られない。基腐病の伝染環を遮断するための対策を、総合的かつ適切に実施することで基腐病の発生が減少する(図4)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : かんしょの生産・栽培指導機関(普及指導機関、JA、かんしょの生産・加工・販売に係る農業生産法人など)、かんしょ種苗の生産・流通業者、行政機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 国内全てのかんしょ栽培地域(2021年度の全国作付面積は32,400ha)。
- その他 : マニュアルは農研機構のウェブサイト上で公開している。2019年度より、毎年度内容を更新している。技術者向けの上記マニュアルを基に、農研機構では生産者向けの対策動画を作成し、各県では生産者向けの対策マニュアルや研修会資料、注意喚起チラシ、病害虫発生予察特殊報などが作成されている。また、農林水産省の支援施策の参考にもされている。
具体的データ
その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(イノベ―ション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2018~2021年度
- 研究担当者 : 小林有紀、西八束(鹿児島農総セ)、西岡一也(鹿児島農総セ)、櫛間義幸(宮崎総農試)、臼井真奈美(宮崎総農試)、河野伸二(沖縄農研セ)、小林晃、島武男、藤原和樹、井上博喜、野見山孝司、尾川宜広(鹿児島農総セ)、阿萬祐樹(宮崎総農試)、相本涼子(鹿児島農総セ)、光永貴之、岡田吉弘、川田ゆかり、新美洋、境垣内岳雄、末松恵祐、甲斐由美、川部真澄、吉田重信、荒川祐介
- 発表論文等 :