要約
水稲無コーティング種子の代かき同時浅層土中播種栽培において苗立ち向上効果のある根出し種子は、根が折損しにくく機械播種に適する。15.0~18.6°Cの常温では15日まで、約10°Cの低温では20日まで網袋で保存可能であり、長期間にわたり播種する場合の種子予措労力が軽減される。
- キーワード : 根出し種子、代かき同時浅層土中播種、折損、播種深度、種子保存
- 担当 : 東北農業研究センター・水田輪作研究領域・水田輪作グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
水稲無コーティング種子の代かき同時浅層土中播種栽培は、仕上げ代かきと同時に浅い土中に無コーティング種子を播種する技術であり、種子根だけを伸ばした根出し種子を使用することで苗立ちが向上する。しかし、種子根が長いと機械播種時に種子根の折損や播種深さのばらつきが生じる可能性がある。また、本播種法の1日の播種可能面積は約3haであるため、播種面積が拡大すると播種期間が長期化し、複数回の種子予措が必要となって労力が増大する。予措後の根出し種子を長期保管することができれば予措回数を減らせるが、予措後の保管が出芽や生育に及ぼす影響についての知見はない。そこで本研究では、根出し種子の機械播種適性を明らかにするとともに、根出し種子の保存条件および保存可能期間を明らかにして保存方法を確立する。
成果の内容・特徴
- 根出し種子を代かき同時浅層土中播種機(HRS-UN2A、株式会社石井製作所)を用いて播種した場合に種子根の折損はほとんど確認されず、催芽種子と比べて安定して高い苗立率が得られる(表1)。根出し種子の播種深さは、種子下端で0.26~0.55cmと催芽種子と同程度であり、種子根が伸長していることによる播種深さへの影響は認められない(図1)。
- 根出し種子は5°C、10°C、15°Cのいずれの温度においても、保存日数が長くなるほど出芽率が低下する。保存温度が高いほど保存期間中の種子含水率の低下程度が大きくなり、出芽率の低下程度も大きくなる(図2)。
- 種子予措後の保存期間の平均温度が15.0~18.6°Cの常温では15日間保存しても圃場における苗立率は低下しない(表2)。9.5°Cの低温の場合には、20日間保存では苗立率は低下しないが、29日間保存では苗立率が低下する。いずれの保存条件においても、播種29日後の生育は保存しない場合と同等である。
成果の活用面・留意点
- 根出し種子の作成は「水稲無コーティング種子代かき同時浅層土中播種栽培標準作業手順書」に記載の方法により行う。根出し種子の種子根は折損しにくく、折損した場合でも苗立ち等への悪影響は生じないが、過度に伸長すると播種時に種子根が絡まり播種量が不安定となるため、種子根長の平均値は5mm以内に抑える。
- 本研究は、水稲品種「萌えみのり」の前年度産種子を使用し、予措開始まで約5~15°C程度の室内暗所に保管した場合の結果である。予措後の種子の保存は、常温保存は直射日光の当たらない屋内に置いたパレット上に網袋のまま静置し、低温保存は10°C暗条件に設定した人工気象器(MLR-350HT、三洋電機バイオメディカ株式会社)内のメッシュ棚上に網袋のまま静置して、湿度調整はしていない。根出し種子を上記と異なる方法で保存した場合には、保存可能期間が短くなる可能性があるので留意する。
- 下記成果情報を適宜参照する。
2015年研究成果情報「水稲の無コーティング種子代かき同時浅層土中播種技術」
2017年研究成果情報「根出し種子による水稲無コーティング種子湛水直播の出芽促進と苗立向上」
2020年普及成果情報「東北地域における耐倒伏性品種の根出し種子を用いた水稲無コーティング種子浅層土中播種栽培」
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(経営体プロジェクト)、農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2017~2021年度
- 研究担当者 : 今須宏美、伊藤景子、白土宏之
- 発表論文等 :