ポイント
- 2023年シーズンに国内で検出された高病原性鳥インフルエンザ1)ウイルスゲノムを解析し、遺伝子型からその由来を推定しました。
- 家きん由来のウイルスは、3シーズン連続で検出された遺伝子型と、国外の野鳥由来ウイルスの遺伝子を含む新たに検出された遺伝子型の2種類に分類され、野鳥や環境からは、それら2種類を含む4種類の遺伝子型が検出されました。
- 野鳥由来の多様なウイルスの出現・国内侵入による家きんでの発生が4シーズン連続していることから、今後も国内家きん飼養施設へのウイルス侵入に対する警戒が必要です。
概要
2023年シーズン(2023年11月25日から2024年4月29日まで)は、11事例の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が家きん飼養施設で発生し、国内では初めて4シーズン連続(2020年シーズンから)の発生となりました。
農研機構では国内に侵入する高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルス2)の全ゲノムを解析し海外のゲノム情報と比較することで、世界規模のウイルスの流行動態のモニタリングを続けています。2023年シーズンのHPAIウイルスについては、家きんから分離された10株のH5N1亜型3)及び1株のH5N6亜型HPAIウイルス計11株の全ゲノム解析を行い、2種類の遺伝子型(H5N1亜型10株はG2d-0、H5N6亜型1株はG2c-12)に分類されることを明らかにしました。そのうち遺伝子型G2d-0は2021年と2022年シーズンにも国内で検出されており、3シーズン連続での検出となりましたが、G2c-12は2023年シーズンに新たに検出された遺伝子型で、一部の遺伝子分節4)が国外の野鳥由来の鳥インフルエンザウイルスに由来していました。鳥インフルエンザウイルスは、カモなどの野鳥集団で感染を繰り返して生存を維持し、渡りに伴い国内に侵入すると推察されています。2023年シーズンに検出されたG2c-12のウイルスも同様に、ウイルスが野鳥集団で感染を繰り返すことで、遺伝子再集合5)が起こり出現した可能性があります。夏季の間に国内の家きんや野鳥からウイルスは検出されていないことから、国内に同じ遺伝子型のウイルスが残っている可能性は極めて低く、国内発生と同時期に国外(韓国)の家きんから、同じ遺伝子型のウイルス(G2d-0、G2c-12)が検出されていることからも、これらのウイルスは2023年シーズンに渡り鳥によって両国に運ばれてきたと推測されます。
一方、環境省が2023年10月4日から2024年4月30日までに回収・採取した156事例の野鳥、野鳥糞便及び湖沼の水などの環境試料からは、H5N1亜型及びH5N6亜型に加え、H5N5亜型のHPAIウイルスが検出されています。そのうち、これまでに農研機構で解析した50事例の検体からは、家きん由来ウイルスと同じ2種類の遺伝子型に加えて、さらに2種類の遺伝子型(G2a-2とG2d-4:ともにH5N5亜型)を検出しました。したがって、2023年シーズンは少なくとも4種類の遺伝子型のウイルスが国内に侵入していたことが明らかになりました(図1)。
また、発生事例の家きんから分離した2種類の遺伝子型の代表ウイルス株について、鶏の自然感染経路である経鼻接種による感染実験を行ったところ、いずれも鶏に対して高い致死性を示し、遺伝子型による差異はありませんでした。なお、2023年シーズンに分離された株の推定アミノ酸配列解析の結果、一部のウイルスを除いて抗ウイルス薬への耐性及び哺乳類でのウイルス増殖に関連する変異は見つかっておらず、これらのウイルス株が直ちにヒトでの流行を引き起こすリスクは低いと考えられます。
2023年シーズンの家きん飼養施設での発生事例数は前シーズンの84事例と比較して大幅に減少したものの、野鳥での検出事例数は過去4シーズンの中で2番目に多いものでした。HPAIウイルスの全ゲノム解析により、2023年シーズンの家きん由来ウイルスは国内に飛来する野鳥集団で維持されており、野鳥及び野鳥の生息環境中のウイルス濃度の高まりが4シーズン連続発生の一要因となったことが推測されました。今もなお世界ではHPAIの感染が継続的に報告されていることから、今後もより一層、農場へのウイルス侵入に対する警戒が必要です。
関連情報
予算 : 農林水産省委託研究「安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業」のうち、「新たな感染症の出現に対してレジリエントな畜産業を実現するための家畜感染症対策技術の開発」(JPJ008617.23812859)