創意工夫の内容
南部九州ではサツマイモ生産が盛んである。食用のほか、最近では焼酎の増産による原料用のサツマイモ収量を増やすため、都城拠点では大型畝(畝幅60~120cm)の2条畝などの研究が行われている。収穫時のツル刈り作業は、頻繁に刈り高さの調整が必要なため、微妙な刈り高さ調整ができないトラクタ装着型の利用は進まず、作業者の前方で刈る歩行型ツル刈り機が好まれる(図1)。
サツマイモ収穫時のツル刈り作業は、ゲージ輪が畝をまたいで刈り刃(回転刃)が畝上部のツルを刈り砕くが、畝上の刈り刃の高さは地面に接したゲージ輪の高さ調整で決められる(図2)。畝立て作業では、サツマイモの収量増と雑草防除のためにマルチフィルムを多く使用しているが、圃場によって必ずしも畝高さは均一ではなく、畝の高低差(凸凹)に回転刃が追従できずにマルチフィルムを切り刻んで巻き込むことが多い。それを取り除くためには、作業を中断して刈り刃を持ち上げ、きつく巻き込んだマルチフィルムを取り除く必要がある。一方、粉々にマルチフィルムが散乱した場合は回収作業が容易ではない。このようなマルチフィルムの破損を避けるため刈り刃を高く設定すると、畝上部のツル地際部が完全に切断されずに残ることになりマルチフィルムの回収作業ができなくなる。このため、人手と鎌によるツル刈り作業が再度必要になり、時間的にも労力的にもロスとなる。また、刈り刃に巻き込まれたマルチフィルムを取り除く際には、鋭利な回転刃で怪我をするおそれもあり、作業のロスや危険性などが問題視されていた(図3)ため、以下の3点の改良を行った。
図1 慣行畝のツル刈り作業
図2 慣行畝でのゲージ輪位置
図3 マルチフィルムの除去作業
(1) 現状のツル刈り機では、作業しながら頻繁に刈り刃高さの調整を行わなければならなかった。そこで畝幅が大きい大型畝の特徴を利用して、畝間の地面を転がさずに畝の上でゲージ輪を転がし、畝に対する追従性の改善を図った(図4)。
(2) ゲージ輪が株植え付け部に乗ると刈り高さにムラが出ることがある。また、中型畝(60cm~)から大型畝(90cm以上)によってゲージ輪の横位置を変える必要がある。そこで、直接株に乗らないようにすることと、多様な畝に対応出来るようにするためゲージ輪をスライド式にすることで解決した(図5)。
図4 大型輪でのゲージ輪位置
図5 左右にスライドするゲージ輪
(3) 畝上部でゲージ輪が転がることで直接、機械重量が畝上面にかかってしまい畝が変形する。そこで、機械重量を軽減するためにツル刈り機後方部にウェイト(14kg)を取り付けた。また、こうすることで旋回時にオペレータが軽い力で刈り刃部を持ち上げることができ、旋回が容易となり作業性が向上した(図6)。
図6 後方部に取り付けたウェイト
従来の狭い畝幅の慣行畝では、この発想は出てこなかった。発想自体は簡単だが、現在においてこのやり方は実用化されておらず、これから畝の大型化により期待がもてる。
創意工夫の実績
畝の高低差によるゲージ輪の高さ調整は今まで畝間の地面で行っていたが、この方法によれば直接畝の上を転がるため、畝上部の刈り刃が最適な高さに調整され、刈り刃がマルチフィルムのすれすれのところで刈る事ができるようになった。また、畝幅が大きいため、機体の左右の傾きが大きいとマルチフィルムを切損することになるが、本機のゲージ輪によると畝上面に対して刈り刃が常に平行しているためこれを回避できる。したがってマルチフィルムを切損することがなくなり、サツマイモツル及び茎葉の切断面も端正となり後作業が容易となる(図7)。
図7 改造したゲージ機での刈り取り後
図8 作業風景
作業労力節減効果は、従来での切断ツルの再切断10アールあたり30分,刈り刃へのマルチフィルム巻き込み除去20分,マルチフィルムの除去でのロス10分,ゲージ輪の高さ調整10分の合計70分/10aが節減できる。
安全面では、ゲージ輪の高さ調整がなくなるので作業に集中でき、刈り刃へのマルチフィルム巻き込み除去作業がなくなることが大きい。
関係研究者(九州畑輪作研究チーム所属)の所感
サツマイモの収量・形状を向上させる可能性が高い。生産コストの削減につながる。
現在、サツマイモ栽培は、かまぼこ型の形状の高畝により行われています。当研究センター都城研究拠点では、畝型を改変することにより
との考え方により中高平高畝と呼ばれる(平成20年度畑作・成果情報参照)畦幅120cm、裾幅80cmの大型の畝による栽培試験やさらに大型の畝で2条植え付けを行う栽培試験に取り組んでいます。
この創意工夫により開発された「大型畝用ツル刈り機」は、中高平高畝栽培におけるツル刈り作業で極めて良好な結果を得ています。創意工夫の内容で説明されているように、畝と刈り刃の位置関係を最適な条件(マルチフィルムすれすれの位置)に安定してかつ容易に設定できることが最大のメリットと言えます。作業の安定性が作業能率を向上させ、作業労力節減効果は大きなものでした。
今後、こうした中高平高畝やさらに大型の畝による栽培技術の開発・普及を目指しており、それにより大型畝用ツル刈り機の利用場面が増えると思います。