世界の神話や伝説にも登場するリンゴ。スイスでは 4,000年も前から栽培されていたとされ、有史以来、人々の暮らしに根付いています。日本でも「ふじ」を始め、「つがる」や「王林」など味はもちろん、色も香りもさまざまなリンゴが栽培されています。現在は年間を通して手に入る果物ですが、今まさに旬を迎えたリンゴたちは味も香りも良好! 季節の味覚を楽しみながら、私たちにとって身近なリンゴについて改めて学んでみましょう。
世界一のリンゴ「ふじ」を知る
1 地球上で最も生産されている品種
「国光」と「デリシャス」を交配して育成され、1962年に「りんご農林1号」として命名登録された「ふじ」。そのおいしさと貯蔵性の高さから、1981年には生産量日本一となります。現在もその地位は揺るがず、国内栽培面積の51.2%を誇っています(農林水産省、平成28年度)。また2001年には、世界の主要なリンゴ生産国の生産統計により、世界で一番栽培されている品種が「ふじ」とわかりました。
2 日本一への思いと育成地・藤崎町が由来
「ふじ」は、富士山のように日本一の品種になってほしいという願いと、育成地の藤崎町(青森県)の藤から名付けられました。一般にリンゴは、種で増やそうとしても、同じ特性を持ったリンゴにはなりません。そのため、枝(穂木)をいろいろな系統の台木用の品種に接ぎ木して増やしています。
つまり、世界中のすべての「ふじ」は、たった1 本の原木の枝から接ぎ木で増えたものなのです。原木は岩手県盛岡市で70年以上たった今なお、保存されています。
3 世界初!食感の良いみつ入りリンゴ
「ふじ」が生まれるまで、みつ入りリンゴは果肉がやわらかくなりすぎたり、黒ずんだりして、とてもおいしいとは言えない代物でした。みつが入っていながら、食感も良く、変色しにくい「ふじ」は、みつ入りリンゴのイメージを大きく変えるものでした。
みつ入りリンゴの秘密を知る
4 糖類の量&甘味度はみつ無しリンゴと変わらない!?
みつ入りリンゴは「甘くておいしい」と消費者に人気がありますが、みつ無しリンゴと比べて糖の量や甘味度は必ずしも高くないということが分かっています。しかし、みつ入りリンゴがなぜ多くの人に支持されるのか、その理由は長年にわたり、解明されていませんでした。
5 みつ入りリンゴのおいしさの秘密は香りにあり!
リンゴの香りと味の強さ、好みについての評価の調査を行いました(図1)。鼻をつまんでにおいの影響を排除した結果、みつ入りの果実とみつ無しの果実で味の評価に変化がなく、みつの有無による風味や好ましさの違いには、味より香りの効果が強いということが分かります。
また香りの成分を詳しく調べたところ、みつ入りリンゴはパイナップルやバナナと共通する甘い香りの成分、エチルエステル類が多いことが分かりました。同じく香気成分であるメチルエステル類も含まれ、こちらはエチルエステル類と共存することで、香りに広がりを与えるという報告がされています。
6 みつは低酸素状態で実にギュッと閉じ込められている
それでは実際のみつ入りリンゴの中身は、どのような仕組みになっているのでしょうか。
果実の内部の酸素濃度を調べたところ、みつのない部分は大気レベルに近いのですが、みつの部分は酸素濃度がかなり低くなっていました(図2)。これは細胞と細胞の間に水分がたまっていて、低酸素状態により、「エタノール発酵が進む=エチルエステル類が増える」と考えられます。
新しいリンゴのいろいろを知る
7 夏に成熟する早生品種 さわやかな甘みの「さんさ」
9月上旬に熟期を迎える
8 「紅 みのり」は温暖化対応品種の有望株
気温はリンゴの果実品質を左右し、近年の温暖化により色づきが悪かったり、実がやわらかくなりすぎたりする問題がしばしば起きています。そこで育成されたのが早生品種の「紅みのり」です。
高温でも赤く色づき、成熟するまで樹上に置いていても軟化しづらい、甘みと酸味のバランスもよい、リンゴ界期待の新星です。
9 日本各地で真っ赤に育つ「錦秋 」
最近では、
10 甘くてジューシー「もりのかがやき」
着色不良の心配がない黄色いリンゴには、目立った中生品種があまりありません。10月中下旬に収穫期を迎える「もりのかがやき」は、370g 前後と大きな黄色品種。歯ざわりが良く果汁たっぷり、糖度は15度と高くて酸味も少ないため、抜群の甘さです。リンゴ園の黄色い果実が太陽の光を浴び、きらきらと輝くイメージから名付けられました。