東北農業研究センター

家畜のエサにする飼料用イネ

日本の畜産経営は、海外からの輸入飼料に大きく依存してきました。しかし、原油価格の急激な上昇をきっかけとする穀物価格の高騰や、近年では新興国での食肉需要拡大に伴う穀物需要の増加、ウクライナ情勢等を背景とした穀物流通量の減少などにより、国産飼料の増産や飼料自給率の向上がますます重要な課題になっています。

現在国内で生産されている主な飼料用作物には、牧草のほかに飼料用イネ (稲発酵粗飼料、飼料用米) や青刈りトウモロコシ (デントコーン) 、子実トウモロコシがあります。特に、飼料用イネは、生産者が導入しやすい水田の転作作物として注目されています。

飼料用イネの種類

家畜の飼料は「粗飼料」と「濃厚飼料」に分けられます。粗飼料は乾草など繊維質を多く含む飼料であるのに対し、濃厚飼料は、穀類やふすま、かす類など粗飼料に比べ繊維質が少なく炭水化物などを多く含む飼料です。飼料用イネは「稲発酵粗飼料」と「飼料用米」に大別され、稲発酵粗飼料は、イネの子実だけでなく茎葉部をまるごと使うので粗飼料、飼料米は子実だけ使うので濃厚飼料として利用されます。

稲発酵粗飼料

稲発酵粗飼料は、牛のエサにするイネです。イネの茎葉部をまるごと刈取って一つのかたまり (ロール) にします。それをラップして乳酸発酵させサイレージ (ホールクロップサイレージ : Whole Crop Silage) にし、牛に与えます。そのため、飼料イネの品種は「稲発酵粗飼料用品種 (稲WCS用品種) 」と呼ばれます。

イネを丸ごと刈取る→ラップしてサイレージにする→牛に給与する

稲WCS用品種は、株全体に占める子実の割合が高い玄米多収型と、茎葉の割合が高い茎葉型があります。いずれのタイプにしても、病害虫に強く多収であることなどが特性として求められます。収穫量を増やすため、一般的に大量の窒素成分を投入して多肥栽培をしますが、多肥栽培ではイネが倒れやすくなるため、倒れにくい特性をもたせることも大切です。

飼料用米

飼料用米は、牛や豚、鶏など家畜のエサにするためのお米です。私たちが食べるお米と同じようにイネの子実のみを収穫し利用しますが、家畜の種類に応じて、モミ米や玄米をそのまま、あるいは破砕はさい、圧ぺんなどの加工処理したものやモミ米をサイレージに調製したものを与えます。

家畜のエサとなるお米は、栄養となるタンパク質を多く含むだけでなく、飼料イネと同様に、手間をかけずにたくさん収穫できることが重視されます。そのため、「飼料米品種」も多収であることや多肥栽培しても倒れにくいことが特性として不可欠です。

圧ペン処理したもみ米(左)と破砕処理したもみ米
圧ペン処理したもみ米(左)と破砕処理したもみ米

東北農業研究センターで育成した東北地域向け飼料用イネ品種

べこあおば

特徴 イネ発酵粗飼料(WCS)・飼料用米兼用、直播向き、大粒
交配組合せ オオチカラ/西海203号
熟期 中生
草型 短稈・穂重
耐倒伏性
耐冷性
いもち病抵抗性
葉いもち やや弱
穂いもち 弱
真性抵抗性遺伝子 Pita-2,(Pita)
穂発芽性 やや易
べこあおばの写真
耐倒伏性に優れ直播栽培に適している。玄米は大粒で「ふくひびき」より安定して多収。

べこごのみ

特徴 イネ発酵粗飼料(WCS)・飼料用米兼用、直播向き
交配組合せ ふくひびき/97UK-46
熟期 かなり早生
草型 やや短稈・穂重
耐倒伏性
耐冷性
いもち病抵抗性
葉いもち 強
穂いもち 中
真性抵抗性遺伝子 Pib,Pik
穂発芽性
べこごのみの写真
極早生で耐倒伏性が強く直播に向く多収品種。作期分散に活用できる。

べこげんき

特徴 イネ発酵粗飼料(WCS)用、直播向き
交配組合せ 羽系飼864号/青系飼161号(うしゆたか)
熟期 かなり早生
草型 やや短稈・穂重
耐倒伏性 かなり強
耐冷性 やや弱
いもち病抵抗性
葉いもち -
穂いもち -
真性抵抗性遺伝子 Pia,Pib
穂発芽性 やや易
べこげんきの写真
かなり早生で「べこごのみ」よりも多収。多肥直播栽培でも倒伏の心配がほとんどない。

いわいだわら

特徴 飼料用米用、大粒
交配組合せ 奥羽飼394号/べこごのみ
熟期 早生
草型 やや短稈・穂重
耐倒伏性 やや強
耐冷性
いもち病抵抗性
葉いもち -
穂いもち -
真性抵抗性遺伝子 Pik,Pib
穂発芽性 やや易
いわいだわら
粒が大きく白濁するため食用米と区別しやすい多収品種。

ふくひびき(参考)

特徴 極多収
交配組合せ コチヒビキ/奥羽316号
熟期 やや早生
草型 短稈・穂重
耐倒伏性
耐冷性
いもち病抵抗性
葉いもち やや強
穂いもち 中
真性抵抗性遺伝子 Pia,Pib
穂発芽性 やや易
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ふくひびきの写真
耐倒伏性に優れ、安定多収。