湛水直播体系の例
- 圃場均平作業
復元田や圃場整備後凹凸が生じて代かきによる均平が困難な圃場は、苗立ちや除草剤効果発現にムラが生じるので、耕起前に均平作業を行う必要があります。凸部の土を凹部に移動することでも対処できますが、大区画圃場などはレーザー均平機を使うと、高能率、高精度で均平が可能です。均平作業は数年に一度、凹凸が増加した場合に行えば十分です。 - 品種
直播適性品種は、出芽・苗立ちが良好で、耐倒伏性が強く、良食味であることが必要です。東北地域で開発されている品種では、「はえぬき」、「かけはし」、「でわひかり」などが適性が高いと評価できます。現在の銘柄品種である「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」、「あきたこまち」などは耐倒伏性が弱く、直播には向いていませんが、点播方式(代かき同時打ち込み方式、複粒化種子)では耐倒伏性が向上しますので、点播方式での普及が進んでいます。品種 名 出穂期 成熟期 耐倒伏性 いもち葉 耐病性穂 収量性 外観品質 食味 総合的な
直播適性かけはし 7.25 9.3 や強 や弱 中 中 上下 上下 ○ でわひかり 8.1 9.8 強 中 中 や多 上中 上下 ○ ゆめあかり 8.2 9.9 強 中 中 中 上下 上下 ○ あきたこまち 8.5 9.13 中 中 や弱 中 上中 上中 △× どまんなか 8.5 9.13 や強 や弱 や弱 や多 上中 上下 △○ ひとめぼれ 8.9 9.19 中 や弱 中 中 上中 上中 △× はえぬき 8.12 9.24 強 中 中 中 上中 上中 ◎ コシヒカリ 8.20 9.27 弱 弱 弱 中 上中 上中 △×
1.品種は熟期の早い順となっている。出穂期については、東北農業研究センター水田利用部の値(移植栽培-平成10年度)である。
2.総合的な直播適性は、湛水直播栽培における出芽・苗立ち、耐倒伏性からの判断である。
- 種子予措
良質な種子(塩水選1.03比重選)を種子消毒して用います。十分な吸水(浸種)後に、30~32℃でハト胸状の催芽を行います。ただし、芽が伸びすぎないように注意が必要です。 - カルパーコーティング
寒冷地である東北地域では、酸素発生剤(カルパー)の種籾へのコーティングにより、出芽・苗立ちに10~20%程度の向上効果が認められています。とくに、播種後の低温条件で出芽・苗立ちに時間を要する場合などに効果が高いことが示されています。この作業にはコーティングマシンを使います。 - コーティング種子加温法
寒冷地における出芽・苗立ちの向上と出芽の斉一化のために、カルパーコーティングした種籾を催芽機などを用いて25~32℃-24~48時間処理します。この効果は品種間で差があり、処理時間などは品種によって異なります。また、加温時の種子の乾燥と芽の出し過ぎに注意が必要です。 - 播種方法
前頁に示したように、乾田や湛水、播種方法として散播、条播、点播など、それぞれ省力性や安定性などに特徴があり、品種や圃場の条件に適した方法を採用することが重要です。 - 播種後落水出芽法
湛水直播において、カルパーコーティング種子を3~10mmの土中に播種する場合には、播種後7日以上の落水期間を設けると、湛水のままと比較して苗立ち率が10~20%程度向上します。水はけが悪い圃場では、排水溝も有効です。落水出芽法を行った場合は、最初の除草剤の散布は出芽後の湛水処理(播種後10日以降)となるので、後発ヒエの発生に注意が必要です。 - 施肥管理法
基肥は圃場条件に応じて移植より控えめとします。播種直後の直播稲は小さいので、窒素肥料の利用率が低下するために、基肥を減らして、生育が旺盛となる時期に追肥を行います。最近では緩効性肥料の組み合わせによって、基肥一発施肥で収量を確保する方法が確立されています。
また、農機メーカーからは側条施肥機付きの播種機が市販されており、施肥作業の省力化が図られています。 - 雑草防除法
移植栽培と異なり、稲と雑草が同時に出芽・発生するので、雑草防除は十分な注意が必要です。雑草の発生が多いかどうか、除草剤がよく効く圃場かどうかによって必要な除草剤散布回数が異なります。最近、直播用の除草剤の登録は湛水直播と乾田直播の区別が廃止されるとともに、中期剤や一発処理剤など使用できる種類が増えていますので、雑草の種類や除草剤の効果程度など圃場条件に合わせた除草剤の選択と散布が重要です。近年、除草剤抵抗性を持った雑草の発生が各地で確認されています。特定の雑草が増える傾向が認められた場合は、普及機関や研究機関で抵抗性の確認をして、除草剤を変えるなどの対策が必要となります。 - 病害虫防除法
苗立ちまでに問題を起こす病害や苗が小さい段階で問題となる病虫害への対策が必要となることがあります。また、直播は、移植に比べて生育が多少遅れるので、遅れていることが被害の集中を招きやすい場合(イネツトムシの発生など)、遅れていることが要防除期間を長くする場合などの対策が必要となる場合があります。 - 鳥害回避法
加害鳥(カルガモ(湛水)、カラス(湛、乾)、ハト・スズメ・カワラヒワ(乾田))の生息密度は地域によって異なります。今のところ決定的な対策がありませんが、加害鳥の密度が高く、被害が予想される場合は、爆音機、テグスなどの対策が必要となります。また、種籾を土中に浅く埋没させることでも被害を軽減できます。水位によって加害鳥の種類が変わるので、カルガモには落水、カラス、スズメなどには深水といった水管理も効果があります。 - 水管理法
前述の鳥害回避、分げつの制御、耐倒伏性の向上などのために水管理が重要になります。とくに、倒れやすい品種を使った場合には、播種後落水管理や中干しなどに加え、反復落水法により穂ばらみ期や登熟初期に反復して落水期間を設け、土壌の硬度を高めて倒伏の進行を軽減、遅延させることができます。 - 収穫法
直播栽培では移植栽培と比較して圃場の生育ムラが生じやすく、収穫適期の判定が重要です。使用した品種の成熟期を逃さずに適期収穫を行うことが品質、収量の安定のために必要です。