イネ研究者
インタビュー

「天穂のサクナヒメ」は【米作り】が重要なポイントとなりますが、
アニメの中の米作りのシーンについて、農研機構のイネ研究者が協力しています。
制作協力に関わったイネ研究者の一人にインタビューしました。

中込 弘二 上級研究員

農研機構
中日本農業研究センター 上越研究拠点

好きなおにぎりの具は「すじこ」。
いくらでも食べられちゃいます。

Q1. アニメ制作の協力に至った経緯を教えてください。

中込

農林水産省に出向していたとき、アニメ制作会社から農林水産省に「『天穂のサクナヒメ』をアニメ化したいので協力して欲しい。」というお話をいただき、省内で「イネに詳しい人」ということで、私がお手伝いすることになりました。
ただ、私の専門分野はイネの育種(品種改良)で、栽培技術などあまり詳しくない部分もあったので、農研機構にも対応をお願いし元上司(作物研究部門の石井卓朗領域長)と一緒に対応しました。

Q2. 農研機構ではずっとイネの育種研究をされているのですか。

中込

農研機構に入ってから何度か勤務地は変わっていますが、一貫してそれぞれの地域に適したイネの育種研究を進めています。
初任地は東北農業研究センター(秋田県)でした。約10年間いた後、西日本農業研究センター(広島県)に9年間いました。それから2年間農林水産省(霞が関)に出向して、今は、農研機構に戻り新潟県にある中日本農業研究センターで研究をしています。
私が関わった主な品種としては、高温でも品質の良いお米が収穫できる「恋の予感」やホールクロップサイレージ用(牛の飼料用)の「つきすずか」などが挙げられます。品種育種はチームプレイです。一人で育種をするわけではなく、多くの人と協力しながらさまざまな用途や地域に適した多くの品種の育成に関わっています。

Q3. 現職の中日本農業研究センター(中農研)で開発に取り組んでいる米の品種について教えて頂けますか?

中込

中農研で開発された品種に、「にじのきらめき」があります。お米が実る時期に高気温が続くと、お米の粒が白く濁った状態になり、商品価値が下がってしまいます。「にじのきらめき」は、気温が高い条件下でも品質の良いお米が、たくさん穫れる品種です。地球温暖化が進む中で中農研では「にじのきらめき」のように高温に強いイネの品種育成を進めています。

また、米粉用品種の育成にも力を入れています。米粉は、値上がりしている輸入小麦の代替としても注目されている食品です。米粉専用品種は麺用とパン用に大きく分けられます。麺用としては、すでに「亜細亜のかおり」といった品種がありますが、耐病性などさらなる改良を進めています。
パン用ですと九州沖縄農業研究センターで開発された「ミズホチカラ」や「笑みたわわ」という製パンに適した品種がありますが、それらと同じ加工適性を持ちながら九州と気候の異なる北陸地域でも作りやすい品種の育成を進めています。

Q4. サクナヒメの話に戻ります。
具体的にはアニメ制作にどのような協力をされたのでしょうか。

中込

私は、稲作に関わる部分の制作に協力させて頂きました。
いただいた脚本で稲作のうち、苗づくりや田植え、収穫などの具体的な作業の他、セリフの言い回し、その情景の表現などに違和感がないかという点をチェックしました。

原作となったゲームのサクナヒメは、ゲーム内のお話ですから、当然、現実ではありえない点があります。それが全てそのままアニメになると、特に農業に関わる方には違和感を抱く内容になってしまうかもしれません。その一方で全てを科学的・技術的に正しい表現にしてしまうと、原作ゲームの世界観や想い、アニメとしての面白さが表現できないのではないかと思います。私は、あくまでも、「現代の農業技術や科学的知見から見てどうか?」という観点から気づいた点をお伝えし、プロデューサーさんをはじめとされる制作現場の方が最終的な判断をなさいました。

Q5. ゲームもなさったのですね。アニメ制作協力の話を頂いてからゲームを始められたのですか?

中込

「サクナヒメ」というゲームが有名になっているということは以前から知っていましたが、私自身、あまりゲームをやらないのでプレイしたことはありませんでした。しかし、制作協力のお話を頂いてから挑戦し、最後までストーリーをクリアしました。

Q6. 中込さんはゲームもクリアされたとのことですがサクナヒメのアニメやゲームと実際の米作りと比較された印象を教えてください。

中込

ゲームでは、稲作がとても忠実に再現されていると感じました。最初にそう感じたのは、田植えの前に、「比重選」という方法を使って「良い種もみ」の選別を始める作業が登場したシーンです。この作業が出てきた時点で、「すごくリアルだ。」と思いました。次に、田植えの時に植える密度を疎植にしたり密植にしたりと調整が必要な点も挙げられます。さらに肥料作りや、田おこし、除草、水管理もやらないといけないですし、収穫も鎌で収穫して、収穫後は干して、脱穀して、籾摺り・精米するところまで入っています。

現在は機械化が進んでいるので、ゲームの中で使われる技術と現実はかなり違いますが、稲作の種まきから収穫までの必要な作業をほぼすべて網羅したゲームになっている点は素晴らしいと思います。
そして、さらにリアルだと感じたのは、それらの「作業」を頻繁に繰り返さなくてはいけない点です。

実際の稲作もそうですが、ゲーム内では肥料や水の管理は1回やればいいわけではなく、適切なタイミングで適切な作業を何度もそして毎年行う必要あります。

正直にお伝えしますと、私はこの繰り返しが「ゲームなのに面倒臭い」と思いました。しかし「サクナヒメ」は繰り返し手間暇かけて作業をし、美味しいお米をたくさん収穫しないとサクナの能力も上がっていかないという設定になっているので、やるしかない。この「大変、だけれどやるしかない」設定のおかげで、稲作の苦労や食の重要性がゲーム上でリアルに表現されているなと感じました。
アニメでもサクナの母トヨハナが作ったお米のおいしさに近づけるため、サクナが肥料や収穫時期に思いを馳せており、稲作の苦労・面白さが再現されていると感じました。

Q7. ゲームプレイやアニメの制作協力で、米作りについての新しい発見などありましたか?

中込

はい。私自身も勉強になったところがありました。
例えば、サクナヒメには脱穀するとき、箸のような道具で脱穀する場面があります。学校で習う昔の脱穀機と言えば「千歯こき」が有名ですが、千歯こきが発明される前は「こき箸」という道具で脱穀していた時代があるようです。

脱穀について、本やWebで調べたところ、実際に二本の箸の間に穂を通して脱穀するなど知らなかった技術がありました。今回、サクナヒメに関わらせて頂いたおかげで、これまで知らなかったことを勉強できる良い機会となりました。

Q8. 「天穂のサクナヒメ」の中で好きなキャラクターは?

中込

まず、主人公のサクナが気に入っています。
彼女の最初のわがままな性格が、仲間と一緒に一生懸命稲作に取り組んで変わる、心の成長がみられるところがいいですね。
あえてもう1人挙げるなら、「ゆい」です。
私は大学も初任地も東北地方ということもあって、東北には強い親近感があるのですが、「ゆい」は東北訛りの言葉を喋るんです。そういった観点から「ゆい」も「めんこいな」と思っています。

Q9. イネ研究者としてはアニメをどういう観点で見てほしいですか?

中込

サクナヒメのキャッチフレーズが「米は力だ」ですよね。
しかし、最近の稲作現場は、お米を作る人も少なくなり、高齢化が進んでいます。資材費も高騰し、気温も以前に比べて高く、良いお米を作るのが難しい状況にもなってきています。普段、私たちは、当たり前のようにいただいているお米ですが、「力」の源である米の生産基盤が危うくなっている状況と言えます。また、お米に限らず他の作物も、色々な課題を抱えています。
農業研究者としては、サクナヒメがきっかけとなって「食べ物は、いろんな手間がかかって、我々の食卓にのぼっている」ということを意識し、お米など作物に少しでも興味・関心を持っていただけるといいなと思っています。

「米は力だ」と書かれたサクナヒメのポスター画像

©えーでるわいす/「天穂のサクナヒメ」製作委員会